落下した先には美形が3人
私こと、荘司 明音に災厄が降りかかったのはバイトの帰り道だった。
ああ、今月はちょっと金欠かなぁなんて考えながら肉まんを食べていた。ら、
落ちた。そりゃあもう、見事に。
急に地面がなくなったら、そのまま落ちるしかないだろ。つーか、その一択しか選択はない。
夜だったし街灯も少ない場所だから、工事中の看板見逃したかと一瞬思ったさ。その時は。
やけに長い落下。
ヤバい死ぬと混乱する頭も徐々に落ち着いていき、なんでこんなに長いのか?と思った。
視界いっぱいに霧が現れ、またしても混乱する頭を必死に落ち着け、目をぎゅっと瞑った。
急に明るくなり、頭にはクエスチョンマークが乱舞。
……ふふっ。目を開けて後悔した。
あれ、地面っつーか大陸デスヨネ。見えてるの。
私、今、上空何千メートルのところにいんの?
さっきの霧みたいなの、もしかして雲?
ねぇ、つうかスピード増してない?
これ、普通に即死だよね?
なんで私、まだ意識あんの?
普通、こんなスピードで落下したら気絶するよね?
……………早急に気絶しろ!私!!意識あるまま地面に叩きつけられるとか、冗談じゃねーぞ!
運良く即死ならまだ良い!もし運悪くあたりどころが良かったら激痛に悶絶することになんじゃねぇか!!
「た……っ、たぁあすけてえぇぇえええ!!」
心配するところが違うとか言うな!
もう、こうなったら激突するのは目に見えて判るだろ!
手足をバタつかせてもどうにもなんないんだから!!
ああ……。こりゃあもう、色々と諦めるしかない。
乙女としてはもっと綺麗な死に方をしたかったとか。
雑誌で見るだけだった高級フルコースを食べたかったとか。
友達が言ってた噂のスイーツ食べたかったとか。
せめて楽しみにしてた期間限定のジュースを飲み終えたかったとか。
……食い物ばっかだな。私。
ふ、と意識を地面に戻すと、恐ろしく近付いていた。
デスヨネー。だって凄い風の音するもん。
背中の真ん中くらいまで伸びた髪もすっごいことになってるし。
つうか、私どこに落ちてんのこれ?
林……じゃないな、これ。森だ。
え?まさかこのまま木に衝突?
私、地面じゃなくて木に衝突して死ぬの?
……どっちがマシな死に様だ?どっちもどっちじゃね?これ?
……あ。でも、そうしたら発見遅くなる、よね?
……アハハハハッ♪腐乱する可能性大!
「……冗談じゃない!ふざけんなボケー!!」
二度目の絶叫は、森まで数百メートル接近した時でした(泣)
***
害獣駆除の依頼があって派遣され、確認したら魔獣だった。
全くもって頭が痛い。
騎士団ではなく我々が訓練を兼ねて来ていなかったらどうなっていたことか。
殿下など報告書を持ってきた馬鹿を、恐ろしく良い笑顔で説教していた。
恐ろしい。近寄りたくない。
護衛全員が視線を全力で逸らしながら、周囲の警戒を続けていたら、聞いたものを凍らす殿下の声が途切れた。
「ルイス様?如何なさいました?」
「……。何か、恐ろしく魔力の高いものが近付いている。……上空からだ」
上空を見上げて言う言葉も表情も、普段のものと違い鋭さを含んでいる。
武芸・魔術両方に富んだ国、フィルドハルトに殿下の右に立てる者は存在しない。
その御方がこんなにも厳しい表情をなさる。
御自分の役割、影響力を熟知しているこの御方が。
「……殿下」
「……否、撤退はしない。出来る筈がない。私以外に対処は無理だ」
「…魔術騎士の私より魔力が高いですね……」
「…お前よりも、か。ならば殿下が行かれる他ないか……」
10人の精鋭の内、魔術を使う騎士が5人。剣技に特化した騎士が5人。
最悪盾となり、殿下を逃すのにギリギリの人員。
魔術騎士の隊長と、視線で意思の確認をとり陣形をより守備力の高いものへと変える。
「……殿下。御無理はなさいませんよう」
「解っている」
近付いてくる何かに対処するため、走り出した。
小さな水場で広がった視界。戦闘するには最適な場所で殿下は止まった。
「……この上だ」
殿下の言葉に、全員が空に向けた。
その時だった。
「……………!ふざけんなボケー!!」
豆粒位の対象から、女性の声と女性が絶対に口にしない言葉が聴こえた。
殿下も含む全員が、呆然と空を見上げた。
しかし、逸早く立ち直ったのは殿下だった。
「女性……?」
「な…っ!何故女性が!?」
「……女性の魔術師が使役獣から落ちたのでしょうか?だとしたら、相当の間抜けですねぇ」
「馬鹿!落ち着いてる場合か!あの速さじゃ死ぬぞ!冷静に魔術も使えないだろうがっ!」
騒いでいる間にどんどん近付いて、後ろにいた部下の1人が更に悲鳴を上げた。
「なっ!殿下!あの女性まだ若いですよ!!」
ぎょっとして振り返れば隊内一、目の良い部下が上空を指差していた。
慌てて向き直れば殿下が既に詠唱を始めていて、魔術騎士の隊長も補佐にまわっている。
表情が判別できるほど近付いた女性は青ざめ、大きな瞳からは涙が流れていた。
見上げたまま最後の一説を唱えていた殿下と視線が合った瞬間、女性は必死に口を開いた。
「退いて!!!貴方まで死んじゃうっ!」
助けを願うのではなく、危機的状況に涙しながら発した言葉に、その場にいた全員が目を見張った。
殿下でさえ、驚いていた。
「ぃや……っ!ばかぁっ退いてぇっ!!」
女性が両手を大きく振った瞬間、殿下の詠唱が終わった。
一気に遅くなった速さに女性が目を丸くし、風が彼女を包み込み身体の向きを変えた。
フワリと膝丈のスカートを広げて、女性が殿下の上に落ちてくる。
ゆっくりと両腕を差し出し、殿下が女性を受け止めた。
ぱかりと口を開けたまま、女性は殿下を凝視している。
不敬にあたる気がするが仕方ない。
あんな状況で助かるなどと、普通は誰も思わない。
「……大丈夫か?」
殿下の言葉に反応して、パクパクと口を動かすが声が出ていない。
この国ではあまり見られない顔立ちに肌の色。
しかも随分と小柄だ。異国人か?
暫し殿下と見つめ合い、再び女性が口を開き
「……っ、うああぁあああん!!!」
号泣した。
***
えらい速さで落下して、死を覚悟して時世の句を考えていたら真下に人。
焦った、マジで。
巻き添えは洒落にならんと必死に退いてと叫んでも、こっちを見上げたまま動かないし。
そうしたら、なんでか落下速度が急に遅くなって気付いたら腕の中。
見上げたら目が潰れるんじゃないかってくらいの男前の美形さん。
声を掛けられて、状況が解ったらもう駄目だった。
落ちてた時の恐怖とか、色々と頭の中がぐちゃぐちゃで大泣きした。穴を掘って埋まりたい位に。
「……落ち着いたか?」
「本当にすいません……。何とか……」
大柄でがっしりとした、これまた男前な人に「お前は産まれたての小鹿か」と突っ込みたくなるほど震えた身体を支えてもらい、手頃な石の上に座らせてもらった。ほんとすいません。
いまだに止まらない涙はもう諦めて、その場にいる皆さんに視線を送る。
……あれぇ?この服装、なんかマンガで見た騎士様そっくりじゃね?
つうか、人種違うのに何で言葉通じてんの……?
「……あの」
「はい?どうかされましたか?」
私に微笑みかける、これまた美形さん。
一番の美形さんは私を助けてくれた銀髪碧眼の人で、その次にこの柔和そうだけど腹黒っぽい紅茶みたいな色の髪と瞳の人。
にっこり微笑んでるけど瞳が笑ってないから。怖いからヤメテ!
「あのですね……ここ、何処ですか?」
言った瞬間、凄い目で見られた。
……アホの子扱いすなっ!
「あ、あの、私、家に帰ろうと道を歩いてたら、急に地面がなくなって落ちまして……っ!」
「「「……は?」」」
くっそ!3人揃いやがったっ!
種類の違う迫力ある美形さんにそんな顔されると結構キツいんだぞマジで!!
とにかく気を落ち着かせるために、3人から視線を逸らして地面を見たら涙が落ちた。
慌てて両手で顔を拭おうとしたら、銀髪美形さんに止められた。何故。
「……目元が腫れる。擦るのはやめなさい」
そのまま美形さんにハンカチで優しく顔を拭われた。マジで優しい。この人天使か。
こんな、頭大丈夫?って言われそうなこと言ってんのに……。ヤバい、また泣けてきた。
そのまま子供みたいに涙を拭いてもらってたら、私を凝視してた腹黒美形さんが溜め息を吐いた。
「……まさか、この目で落人をみることになるとは思いませんでした」
「は?落人ですか?」
「……異なる世界から落ちてくる者のことだ。見分けるのは魔力を有する者なら、簡単に出来る」
「目に魔力を込めて、貴女の魔力の流れを視れば嘘は言っていないと解りますよ。魔力の流れ方がまるで違いますから」
……え。もしかして私、アホの子じゃなくて珍獣ですか?
そんでもって、やっぱり異世界ですか?
かぱっと口を開けたまま、アホみたいに3人を見てたら腹黒美形さんが私の顔の前で手を振った。
「……大丈夫ですか?戻って来てくださいね」
「……はっ!ああ、すいません……」
一瞬、意識がどっか行ってた……。
異世界トリップとか、マンガか小説でしかないと思ってたんだけど。
この人達の服装見たときに嫌な予感したけどコレか。
「……どうされます?流石に放置するのは不味いですよねぇ?」
「落人は保護法が世界単位で制定されているんだ!放置なんぞ出来るわけないだろうが!」
「当たり前だ。お前もこんな時にコイツをからかって遊ぶな。めんどくさい」
ぐるぐるしてる横で、お三方が何か言ってる。
パニックになってても意外に話は聞いてるタイプなんだ私って。
腹黒美形さん、あんた結構楽しんでないか?
私が何なのか判った時、目が怪しく光ったぞ?
何て言うか、欲しかった玩具貰った子供みたいに。
…………。勘弁してください!異世界でちょっと危ない思考持ってそうな人物とか、冗談キツい!
「とりあえず、私が君を保護する。落人を保護する為の知識はあるから安心するといい」
銀髪美形さんが私の頭を撫でて、優しく微笑んで言ってくれた。
安心させるように、視線をしっかり合わせて。
「……宜しくお願いします」
とりあえず、私という獲物をみつけた腹黒美形さんから守って下さいませんか。




