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HERO(3)

 俺とヒカルが阿呆な面接をしている間に、犯罪チームは新たな犯行を重ねていた。犯罪はいついかなるときでも、同時進行的に起こっているのだ。

 犯罪チームは隣町でふれあいいきいきサロンから帰っていた老人三人を襲撃し、大して持ってもいない金を奪ったあげく暴行を働き、高齢者のうち一人は一箇所を骨折し、一人は三針を縫う怪我を負い、一人は突き指をしたそうだ。

 夕飯時のニュースではその出来事を大きく取り上げていて、この前よりさらに突っ込んだ取材をしたキャスターが、今回の犯行を行ったチームは『水曜日プラネット』とかいう訳の分からん名前を名乗る連中だと言っていた。

 構成員は不明だが、メンバーの中心人物は全部で七、八人いて、殺人以外で手を出していない犯罪はないという過激なチームだということだった。

 彼らはネットでその犯罪のみの仲間を募っては暴れ回るのだそうだ。今まで捕まったのは全員がネットにより集められた末端構成員で、誰も犯罪チームの中心人物の情報を知らなかった。

 こんな犯罪者たちが普通にそこら辺にいる時代になっていたのか、と俺は軽い衝撃を受ける。

 俺が試合に出ていた頃はニュースなんか見なかったから、時代の変化についていけていなかったが、政治家をやっていた親父はどうなんだろう?俺は同じようにニュースを見ていた親父に声をかけた。


「親父、こんな事件あってたの知ってた?」


 俺がそう尋ねると、親父は怪訝そうな顔で俺を眺める。


「お前はニュースも観ないのか。馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、本当にどうしようもないな。最近は犯罪もこういったサークル気分のチーム的な犯罪が多いらしい。この町にも一つチームがあるみたいだが、ニュースでやってるチームは県下で一番凶悪な隣町のチームだ」

「隣町には多そうだな、あそこ昔から不良とか多かったし」

「あの頃とは時代が違う。喧嘩も犯罪も地下に潜ってどんどん悪質化している」


 どうしてそんな悪質化した犯罪者連中を俺が捕まえねばならないのか、そういうものは警察の仕事じゃないのか?

 ヒカルの真意が俺には全く分からなかった。そして悪党を捕まえたところで給料が出るのかも分からなかった。


「警察は捕まえられないのかよ?」

「奴らは適当に犯罪を犯しているように見えて、知識と経験の他にコンビネーションも備わったプロだ。それに奴らは危険な仕事はネットで集められた末端構成員に実行させ、なかなか尻尾を掴ませない」


 俺の気持ちが暗くなり始めたとき、携帯の着信が鳴った。


「明日の放課後、早速打ち合わせをするから。十七時に駅前のコーヒーショップで待ち合わせね」


 ヒカルからだった、親父の前でなんとなく恥ずかしくなってしまい、俺は生返事をして電話を切った。


「珍しいこともあるんだな、お前の電話が鳴るなんて」

「放っとけよ。バイト始めて、その電話だよ」と、俺は微妙な嘘までついてしまう。


 親父とそんな話をした二十二時間後のことだ。俺は駅前のコーヒーショップでコーヒーを啜っていた。

 妙に人の多いコーヒーショップで、眉毛の無い若い店員の男の態度は悪かったが、コーヒーだけはまあまあ美味かった。

 いつかリリィが急に凝りだして、何杯もコーヒーを飲まされたが、それに比べると香りも良く格段に美味いコーヒーだった。四百円も出させることはある。


「お待たせ」と言って席にやってきたヒカルが持っているトレーには、コーヒーとは思えないほどクリームやビーンズの盛られたカップが乗っていた。どんな味がするのか気になったが、さすがに中学生に「ちょっとくれ」とは言えなかった。

「どういうつもりなんだ?」


 この間は突然のことで何も聞けなかったが、聞きたいことは山ほどあった。そもそも、どうして俺のような一般市民が凶悪な犯罪チームを捕まえなければいかないのか。


「どうしてって、ヒーローが困っている人を助けるのは当たり前のことでしょう?あなたはヒーロー急募の広告を見て電話してきたはずなのに、今さら何を言っているのよ」


 そう言われると、俺は何も言い返せなくなってしまう。確かに、それはある意味で俺の望んだことでもあったのだ。


「まぁいい。じゃあとりあえず詳しい話を聞かせてもらおうか」

「昨日のニュースは見た?」

「あぁ、『水曜日プラネット』とかいう馬鹿どものことだろう。三人の老人をボコボコにした」

「その通り、あなたにはそのチームの中心メンバーを捕まえてもらうわ」

「ひとつ疑問だったんだが、警察に任せる訳にはいかないのか?」

「警察が優秀だったらヒーローはいらないのよ、分かるでしょう?それに日本の警察は馬鹿だから、おとり捜査を自分たちで禁止してしまっているらしいのよね」


 ヒカルの計画はこうだ。

 水曜日プラネットがよく出没している隣町で、人気が無くなった夜中にミニスカートを履いてセクシーな服装をしたヒカルが歩き回る。そして俺はヒカルの後をひっそりとつけていき、ヒカルを襲おうとした水曜日プラネットの連中を一網打尽にする。

 連中はこれまでに何度か少女相手に強姦事件を起こしており、ヒカルをおとりにすればきっと網に掛かるだろうということだった。本当だろうか。

 正直なところ、ヒカルは(化粧のせいでそう見えるのかもしれないが)目が大きくそこそこ可愛いかったが、発育はまだまだといった感じだ。もちろん俺は中学生を相手にそんなことは言えない。それに、犯罪者たちがヒカルを偶然見つけてくれるとも限らない。


「念のため、私のスマホをGPS登録しといてよ。私が許可しておけば、このスマホがどこにあるか、あなたのスマホからでもすぐに分かるから。本当は子供の位置を確認したりするためのアプリなんだけどね」

「最近の携帯にはそんな機能があったんだな、知らなかった」

「……オヤジ」ヒカリはぼそりとそんな言葉を呟いた。

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