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HERO(4)

「そうなんだよ。犯罪者チームを捕まえる、まぁ探偵みたいなもんかな」

「へー楽しそうだね。でも、気を付けてね。お兄ちゃんはすぐトラブルに首を突っ込みたがるから心配だって、母さんもよく言ってるわよ」


 話すのは一ヶ月ぶりくらいになるが、リリィが元気そうで俺は安心する。いつもと変わらない、オカマみたいな話し方も相変わらずだ。


「覚えてる?もう随分前になるけど、お兄ちゃんが喧嘩屋に治療費百万円持ってこいって脅されて、二人で喧嘩屋のところへ殴りこみに行ったの」

「脅されたのはお前だろ!そして殴りこみに行ったんじゃなくて、俺がお前を助けに行ったんだよ」

「そうだったっかしら?」


 こいつは本当に……。

 あの時、俺が橘を倒すのにどれだけ苦労したのか知っているのか。まぁ、その後はリリィに助けられたんだけどさ。


「それより、お母さんはどうしてる?」

「まだ落ち込んでるみたいだけど、少しずつ元気にはなってるよ。そのうちひょっこり帰るって言い出すんじゃないかしら?」

「そうか、親父の方も落ち込んで生け花ばっかりやってるよ。母さんに早く帰ってきてほしそうだって伝えといてくれ」

「分かった。でもお兄ちゃんも本当に気をつけてね。お兄ちゃんは人のことを考えると自分のことが見えなくなるから。お兄ちゃんが負けるとは思えないけど、足もまだ完治してないんでしょ?」

「分かってる、お前も明日の試合頑張れよ。負けんじゃねーぞ」

「あら、あたしを誰だと思ってるの?」


 電話が切れると同時に俺は噴き出してしまう。確かに余計なお世話だった。リリィは現役時代の俺が唯一、一度も勝てなかった男なのだ。ルール無用の金網デスマッチとはいえ、リリィが負けるとは思えない。

 明日、土曜日の夜には、水曜日プラネットとかいう犯罪者集団をおびき出すためにヒカルと町を徘徊することになる。俺は特に不安に思うこともなく眠りについた。外では雨が降り始めていた。

 翌日、大雨の中でピンク色の傘を差して待ち合わせ場所に立っていたヒカルは本当に短いミニスカートを履いていたが、雨で冷えるためか、上から決してセクシーとはいえない革の上着を羽織っていた。


「別にいいでしょ、寒いんだから。すぐに脱ぐわよ!」


 別に何も言わなかったのだが、俺が待ち合わせ場所に着くなりヒカルはそんな風に弁解した。


「じゃあ最後の確認をするけど、私はこれから人込みから人気のない方へ歩いていくっていうのをくり返すから、あなたは一定の距離を保ったまま、見失わないようについて来るのよ」

「分かった、だが本気で危ないと思ったらすぐに警察に連絡するからな」


 俺たちは雨の中、約百メートルから百五十メートルの距離を取りながら歩き始めた。

 悪天候の中、ヒカルのピンク色の傘を目印に後ろをついていく。すでにヒカルはコートを脱ぎ、薄手の服装になっていた。主張の強いオレンジ色の、まるで下着のような服装だ。

 雨が降っているせいか、いつもはコンビニの前で騒いでいる若者や地べたに座り込んでいる高校生の姿はどこにも見えなかった。繁華街に差し掛かると人通りが増え、そのうちの数人はヒカルのことを厭らしい視線で眺めながら歩いていったが、それも人の少ない通りに差し掛かると途絶えてしまった。


「今日は出ないのか?」


 歩きだして一時間が経過した頃には、最初の緊張感も消え去り、俺はそんな風に思い始めていた。

 足が少し疲れてきたし、雨のせいか少し体が冷え始めていた。薄手の服装で歩いているヒカルは凍えるような心地だろう。

 周囲の様子だけでなく、自分の体調に気を配れるほど気持ちに余裕の出てきた俺の頭には一つの疑問が浮かんでいた。

 それは、なぜヒカルが新聞に広告まで出してまで犯罪者チームを捕まえようとするのか、ということだった。

 一般的に考えたらこれは警察の仕事だし、犯罪者チームを捕まえたからといって金が貰えるといった話も聞かない。せいぜい感謝状を貰う程度のものだろう。

 本当に警察に解決できない事件をヒーローに解決させることが目的なのか?もしそうだとしたら、力は無くともそう考え、実行しようとするヒカルこそヒーローのような気がする。俺はただのヒカルの指示通りに動く兵隊じゃないか。

 確かに、俺も卑劣な犯罪をくり返す犯罪者チームには憤りを感じたが、奴らを捕まえるヒーローになって町を守ろうなんか思いつきもしなかった――。

 なんて考えて落ち込んでいるうちに、俺はヒカルを見失った。

 慌てて駆け出すが、道が左右に分かれており、その先のどちらにもヒカルの姿が見えない。どちらに行ったのか検討もつかず、俺はうろたえた。心臓の鼓動は高鳴り始め、イヤな汗が背中を這い出した。

 ヒカルにもしものことがあったら俺のせいだ……。

 動揺して、その場に傘を捨てて走り始めた瞬間、俺のポケットの中でマナーモードにしていた携帯が振動した。ヒカルからの着信で、俺は慌てて受話器の描かれたボタンを押した。


「あなた、一体どこにいるのよ。この間教えた通り、GPSで私のスマホを探してすぐに来なさい!」


 ヒカルの大声を聞いて安心するが、同時にひどく申し訳なく、胸が締め付けられるような気持ちになる。

 今日は何もなかったとはいえ、尾行中に対象を見失うなんて、ヒーロー失格だ。こそこそと尾行をするヒーローを、まだ見たことはないとはいえ。

 俺は傘を拾うと、何度も間違えながらも、教わった機能を使ってヒカルの下へ走り出した。

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