マクバの兵士
アーカとキャンドちゃんはジャウの試し斬りに付き合わされたおかげで、センターオルドの街並みを見ることもなくこの場所へと来てしまったのだった。おじいさんが言うにはここは武器の店なんだとか。飾り模様が隅々まで入った重々しい扉の中心には紋章が刻まれている。高い位置にある天井を見上げれば所狭しと武器が飾られ、どうやって持って行ったのだろうと思うような所にも武器が飾られている。
フロアに様々な武器が展示してある中、アーカは足元にあった剣に目を奪われる。
「おじさんこれ持ってもいい?」
アーカはおじいさんに向かって尋ねる。
「ああ、いいとも」
おじいさんはあっさりとオーケーを出した。
アーカはぎこちない手つきで剣を持ち上げる。意外に軽い剣だ。
「キャンドちゃんこの剣見てよ、すごく綺麗だよ、まるで星みたいに輝いている」
言われた通りキャンドちゃんが覗き込むと、剣の輝きは何故か消えてしまった。
「星?別に普通の剣じゃないか?」
キャンドちゃんは剣を見て言った。
「あれ?さっきは光っていたのに・・・」
アーカは首を傾げる。おじいさんはその様子を見ていた。
「その剣が気になるのかい?それはグランジスの剣だよ」
おじいさんから目を逸らして、アーカがキャンドちゃんの方を見ると、キャンドちゃんは首を横に振った。
「知らない」
キャンドちゃんは武器には疎いみたい。
「みんな剣を選びがちなんだ、他にも色んな武器があるのになぁ」
店主のおじいさんはそう言うとアーカに変哲もないパイプを渡してきた。
「これを思いっきり握ってごらん」
アーカはおじいさんに言われた通りパイプを力いっぱい握った。
「いいよ、もう大丈夫だよそれをかしてごらん」
おじいさんはそう言うとアーカからパイプを返してもらった。そのパイプにはアーカの小さな手の痕がくっきりとついている。
「握る場所はみんなそれぞれなんだ」
おじいさんはパイプを眺めながら言った。カウンターからスケールを取り出して何やら寸法を測っている。
「残念、これはまだ君には使いこなせないかなぁ、代わりにおすすめのものがあるからちょっと待っていなさい」
おじいさんはそう言うと武器と武器の間へと入って行った。
「あんな狭い場所通れるんだ」
キャンドちゃんがそう言った。どうやら奥にも部屋があるらしい。
しばらくして、ガチャンと言う音がした。
「あのじいさん鎧でも倒したのかな?」
キャンドちゃんがアーカに耳打ちをした。アーカは首を斜めにかたむけた。
ウニュニュ・・ズズズ・・・・・ズドドオオ
突然の物々しい音と共に床の一カ所が盛り上がり始める。
「!?」
アーカは目を疑った。
「この部屋って・・生物みたい・・・」
「はっはっは、君はどこから来たんだい?」
奥の部屋から戻って来たおじいさんに質問されてアーカは困惑した。
「ダークフォレストウッドだよ」
キャンドちゃんが代わりに答える。おじいさんは少し首を傾げた。
「アインドハム(従わされる者)か・・それにしては純粋な’’もの’’を持っているように見えるのはワシだけかな?」
キャンドちゃんは気まずそうに目を逸らした。
ボコ・・・・ボコボコボコ ボコオオオオン!!
突然、アーカ達の目の前に太い手綱を巻かれた触手生物が現れた。
「こいつは変色生物じゃないか!?なんでこんなところにいる?!」
その生き物は、さっきまで部屋と同化していたようで、所々にまだらに床や壁の模様の残りが見られたがすぐにその模様は消え、本来のものと思われるオレンジ色の地肌があらわれた。動きが落ち着いた頃、触手生物が目を覗かせた。そのつぶらな瞳がなんとも・・・
「怪物だ・・・」
アーカは触手生物を見上げて呟いた。キャンドちゃんも動揺を隠せない様子だ。
「心配はいらんよ賢い生き物だから怖がることはない、ハウディルという」
おじいさんはアーカ達をなだめる。
「ハウディル、あれを取って来ておくれ」
おじいさんはハウディルの行く先を見ながら話を続ける。
「前はね、ここに武器なんてモノは無かったんだ、サイエンスウエポンが時代を先行していて、それがどういうわけかまた原始的な武器が主流になり始めたんだ、行き場を失った生物兵器は今や狩りの対象になっていると聞く、このハウディルもそのサイエンスウエポン時代の生き残りだよ、今はこうやって使い道があるからワシの店で引き取ったんだ」
壁に飾られる武器や鎧を蛇行しながらよじ登るハウディルを見上げながらアーカとキャンドちゃんはおじいさんの話を聞いた。
天井付近まで到達したハウディルが取って捕まえて来たのは細長い紐のような物だった。
「これは武器なの・・・・か?」
キャンドちゃんがぼやく。おじいさんは黙って頷いた。
(なんだい・・・これで手品しろってか?)
キャンドちゃんは心の中でそう思いながら、アーカの顔色をうかがった。
部屋の隅に押しやられた如何にもマイナーな武器が降りて来たのでアーカも困惑している様子だ。
「あー分かったこれはムチだ!マクバ用のムチだねじいさん?」
キャンドちゃんがおじいさんに向かって言った。
ハウディルはおじいさんに紐を渡した。おじいさんはキャンドちゃんの質問には答えず黙ったままアーカに紐を手渡した。
アーカは一瞬だけ躊躇する。
「ふふふ、やっぱり君は何かを持っている」
おじいさんはアーカの瞳の奥を覗きこもうとする。
「じいさん、それは武器なんだよな?な?」
キャンドちゃんは慌てておじいさんの気を逸らすように言った。
「これはフレキシブルレイザーだよ」
「レイザー!?」
レイザーと聞いてアーカの心が揺らいだ。
アーカは再度フレキシブルをおじいさんから渡されるとさっそく腕に着けてみた。アーカはフレキシブルをぎこちない手で作動させようとしたが思う様に動かない。おじいさんはそれを見かねてフレキシブルを折り曲げてアーカの首に掛けた。
「ああ」
アーカはフレキシブルレイザーの本来の使い方を教わると、納得したように三回ほど頷いた。
単なる紐だと思われたモノが一瞬で武器らしい姿に変わった。
首から二本のガンショットが覗き込むような形となっている。
姿を変えたのは身に着けたアーカも同様で、一人の兵士が誕生した瞬間でもあった。
「この界隈ではみんな当たり前のように魔法を使うから、そのフレキシブルネックだけでは心もとないかな」
「魔法!?」
アーカはドキッとした。
「どうだい?ソケットホールをあけてみては?」
おじいさんがアーカに提案をする。しかし、アーカにはその意味が分からなかった。
キャンドちゃんはいつの間にか姿を消していたが、またフラフラと戻って来た。店の奥で見つけた’’鬼婆の包丁’’がえらく気に入ったらしく三丁まとめて買う事にしたらしい。
詳しく言えば鬼婆が研いだ包丁なんだけど・・・。
「キャンドちゃんそんなに持てるの?おじさんもそう思うよね?」
アーカはおじいさんに向かって言った。おじいさんは笑う。
「キャンドちゃんのマントはブラックフォール倉庫さ」
キャンドちゃんは嘘か誠か分からない事を言った。




