7月31日
最終セーブポイントにて10分ほど話し合った結果、
まずはラスボスの戦力を解析することになった。
それは未知なる敵との戦闘では必須項目であるが、
今回はその方法がセオリー通りではなかった。
通常なら解析魔法を使えばよい場面だが、
それ以外の方法で解析作業を試みたい者がいたのだ。
モノクル運送の山田である。
「実はダンジョン用のバイク以外にも
検証目的で持ち込んだアイテムがあるんだよね
ちょうどいい機会だし、是非試させてよ」
そう言いながらケースから取り出したのは、
ラジコンバギーが3台とドローンが1基。
いずれもホビー用品を改造した代物ではあるが、
カメラやレーダーなどが取り付けられているおかげで
それが調査用のアイテムなのだとすぐに見当がつく。
「なるほど、ラジコンですか
それなら遠隔操作で安全に敵情視察できますね
……ですが問題が1つ
ダンジョンの中では電波が乱れるという点です
そのため3mも離れれば全く信号が届かなくなり、
遠隔操作の利点を活かせなくなります
ちなみにスマホが役に立たないのも同じ原理です」
「ああ、うん
わざわざ解説をどうも
まあみんなも知ってるだろうけど、
ダンジョンでラジコンは使い物にならないね
……だけど、それは普通のラジコンの場合だ」
「それはつまり、普通のラジコンではないと?」
すると山田はニッと笑い、自慢げに発表を行なった。
「これぞ魔道工学の最新技術の結晶、
マギアバギー(仮)さ!
なんでもダンジョン内で使える通信機器の研究中、
偶然発見された謎技術が使われてるらしいよ!
電波とは違うから30mくらい届くんだってさ!
今はまだ魔法能力者しか使いこなせないけど、
それでも科学の進歩ってすごいよねえ!」
(そのすごい科学的な部分が
随分ふわっとした説明なんだが……)
「今までは念力の能力を持ってる人しか
物質を遠隔操作できなかったわけだけど、
これからは誰でもそれが可能な時代が来るんだ!
科学が魔法に追いついた!
そう考えると熱いものが込み上げてくるよねえ!」
「ええ、わかります
山田さんは少年の心を持ったまま成長したのだと」
「あ、念力と言えば僕の同期にも1人いたよ
語尾が『ござる』の変な女の子がね
卒業する頃にはすっかりその口調をやめてたけど、
あの子、今頃どこで何してるんだろうなあ……」
どうでもいい情報だ。
「とりあえずせっかくの機会ですし、
早速マギアバギー(仮)を試してみましょう!」
厳正なるジャンケンの結果、
記念すべきバギー1号は山田が操作することになった。
それについて異を唱える者はいない。
むしろ最高の切り出しである。
そのアイテムの正しい使い方を熟知しているのは、
山田以外には誰もいなかったのだから。
「いっけえええええええ!!!!!」
山田のバギーが勢いよく走り出す。
安土流剣術奥義・剣風……!!
バギー1号は見えない斬撃によって破壊された。
最終セーブポイントは気まずい沈黙に包まれていた。
人類の叡智の集大成とも言える存在が、
ものの数秒であっさりと敗北してしまったのだ。
ラスボス安土桃之進は、ただ刀を振っただけである。
そのたった一振りで大気に真空を作り出し、
自身に近づく物体を遠距離から斬り裂いたのだ。
「落ち込まないでください、山田さん
バギー1号は瞬殺されてしまいましたが、
今の映像でわかったことが3つあります
情報収集の役目を果たせたわけですから、
決して無駄死にしたのではありませんよ」
「え、3つも……?
僕にわかるのは、安土君のセンスが最悪なのは
ご先祖様の遺伝子が原因ってことくらいさ」
山田の勘違いを訂正しようと、安土が口を挟む。
まあ安土こそルーツの認識に誤りがあるのだが、
それはさしたる問題ではない。
つまり、意味の無い訂正である。
「俺のセンスは悪くない
それと、俺の先祖は安土桃之進ではなく、
その弟である安土桜之進です」
その息子の菊丸は桜之進が引き取った養子であり、
桃之進と輝夜の間に生まれた子供なのだ。
安土家の血筋はこの菊丸から受け継がれたもので、
つまり、山田は何も間違っていないということだ。
安土桃太郎は、安土桃之進の子孫である。
そして、センスの悪さは先祖譲りである。
「それはさておき、バギー1号の映像から
大上君は一体どんな発見をしたんだい?」
「ええ、1つ目はもう発表済みなので省きます
2つ目は、あの魔物が有機物以外にも反応し、
敵と認識して攻撃行動を取るという点です
バギーを操作する魔力に反応したのでしょうが、
とにかくこの特性は囮戦術に利用できそうです」
「動く物ならなんでも反応する可能性もあるね
それについては第二陣で確認してみよう」
「そして3つ目は、“剣風”の性能……というか、
安土流剣術の使い手による性能差についてです」
ここでまたもや安土が口を挟む。
「おい、なんだその“剣風”とやらは……
まさかあの斬撃飛ばしのことを言ってるのか?
たかが戦技にいちいち名前を付けるなんて、
よっぽど暇だったんだな」
「俺が名付けたんじゃない
お前のファンはみんなそう呼んでるし、
てっきり正式名称かと思ってたんだが……
まあ名前があった方が他の人にも通じやすいし、
もういっそ採用すればいいんじゃないか?」
「剣風……
まあ悪くはない
が、技名を叫んで戦ったりは絶対にしないぞ」
祝・剣風記念日!
「……それで、話の腰を折られちゃったけど、
剣風の性能差ってどういうことなんだい?」
「ええ、威力については不明ですが、
ラスボスの剣風は安土の剣風より射程が短いんです
おそらく構えの違いが原因かと思われます
安土が剣風を放つ際の構えは上段の変化形なので
スムーズに振り下ろす動作へと移行できますが、
ラスボスの構えはどちらかというと中段寄りなので
一度振り上げてからでないと振り下ろせません
この構えの差が剣風の射程距離だけでなく、
技が発生するまでの時間にも影響を及ぼします」
「あんな一瞬の映像でよくそこまで……
さすが常日頃から安土君のパーティーに引っ付いて
観察に徹していただけのことはあるね」
第二陣、バギー2号が出発する。
ただし先程のような無謀な突撃はせず、
剣風の射程圏外からフロアの全体像を捉える。
操縦者は元生徒会長の白鳥飛鳥。
彼女が用意したくじ引きによる結果なので
何か細工が施されていたのかもしれないが、
それで金品を騙し取ろうという意図ではないので、
まあ大目に見てやろう。
「あら、このバギーちゃん
フィールドの広さとかも計測してくれるんだ
直径15m、高さ18mのドーム型だって!
あんまり役に立つ情報じゃないけど、一応ね」
つまりラスボスの魔力攻撃の射程は15m。
上の空間をどうにか利用できれば3mの逃げ場が……
いや、15m以上ジャンプできそうな人間は
1人しか思いつかない。
「それからあの満月みたいな発光体なんだけど、
ただの飾りってわけじゃあなさそうね
私の勘では放置しとくと絶対にヤバいやつよ
ラスボス専用の自動バフ撒き装置だったりして」
なかなか鋭い勘をお持ちのようで。
まあ、半分くらいは当たっている。
実際はそれプラス自動HP回復、自動MPダメージ、
自動デバフ撒き、自動バステ撒きを同時に行うという
凶悪すぎて手に負えない代物である。
「うん、白鳥さんの読み通りだね
あの満月は真っ先に排除すべき魔力構造体だよ
波長のパターンからしてバフ撒き以外にも
デバフ撒きやHP回復、MP継続ダメージ、
そして混乱の状態異常を与えてくるみたい
ほら、ラッコの魔物がいたじゃない
あいつらの放つ波長と酷似してるんだ」
「へえ、そんなことまでわかっちゃうんですねえ
もうこの賢いバギーちゃんさえいれば、
解析魔法なんて誰も使わなくなりますね」
「早くその時代が来るといいねえ
あ、でも解析の適性を前提にしてる魔法もあるから
アナライズが完全に不要になることはないよ
というか、そもそもこのマギアバギー(仮)は
解析魔法じゃなくて探知魔法寄りの性能なんだ
魔力の波長を放ち続けてる満月は調査できたけど、
まだ動きのないラスボス本体の詳細を知るには
現地で誰かがアナライズを使うしかないね」
「なるほど〜
とりあえず満月はラスボスより先に処理、っと
……金子、あんた解除魔法使えたっけ?」
「え、僕ですか?
いやあ、残念ながら適性持ってないんで」
「そう
アロエ……も持ってないか
サクラちゃんはどう?」
「いや〜、オイラも使えないっス
もちろん大上は魔法自体使えないんで、
うちのパーティーにディスペル要員はいません
よそから引っ張ってくるしかないっスね」
「う〜ん、取り分減っちゃうけどそれしかないかぁ
……あ、山田さんはどうなんですかね?」
「僕も使えないよ
…………
……いや、ちょっと待って
僕は既に君たちに協力してるはずだけど、
『取り分が減っちゃう』ってどういうことかな?
まさか君たちだけで5等分する気だったのかな?」
「ええ、まあ」
「酷い!!
あのねえ、僕は戦いには参加しないけども!!
こうして有益な情報を君たちに与えたじゃない!!
僕が持ち込んだマギアバギー(仮)が無かったら、
君たちは混乱からの全滅コースを辿ってたよ!!
まあ大上君がいるからなんとかなっただろうけど、
それでも確実にヤバかったね!!」
「ああはい、仰る通りです
たしかにそうなっていた可能性もありますね
それに大上君がラスボス攻略の鍵を入手できたのも
バギーちゃん1号の尊い犠牲があったからですよね
信じてもらえるかどうかはわかりませんが、
山田さんのことを軽く見ていたわけじゃありません
ただ、モノクル運送の仕事として来ているので
会社から給料をもらっているのは当然として、
この戦いに勝てば特別賞与が出るんだろうなあと」
「うっ……
それは、まあ……出るかもしれないけどさ……
それとこれとは話が別じゃない
世界一有名なロックバンドだって、
ギャラの分配で揉めて解散したんだよ?
お金の話はきっちりしておかないと、
後々取り返しのつかないことになるんだ
とにかく僕は君たちの役に立ってる自信があるし、
ラスボス討伐の報酬を受け取る権利はあると思う
僕が言いたいのはそれだけさ」
こうして山田は権利を勝ち取ったのだ。
ひとまずギャラの問題が片付いたので、
それまで静観していた神楽が提案する。
「ディスペルの使い手ならここにいるじゃない
安土には安土をぶつけりゃいいのよ」
安土桃太郎に注目が集まる。
言われてみればそうだった。
この男は妙な剣術ばかり目立っているが、
サポート魔法の使い手としても優秀なのだ。
回復、強化、弱体をばら撒けるわけではないが、
魔法効果を増幅したり、逆に解除したりと、
少々レアな適性を有効に活用しているのである。
が、名案かと思われた安土参戦ルートを
受け入れようとしない者がいた。
「成り行きでラスボスと戦う流れになったとはいえ、
俺たちは安土桃太郎の保護を目的にやってきたので
保護対象を戦闘に参加させるのは反対です
こいつにはこの場所で待機してもらうべきかと
それより、このフロアには斎藤夫妻がいますよね?
あの人たちは確かな実績のある冒険者ですし、
秩父防衛戦でラスボスと戦った経験もあるので
味方に引き入れてもいいんじゃないですか?
もしかしたらディスペルを使えるかもしれないし」
「斎藤夫妻……
ああ、いたわね
わんこちゃんたちのトイレが終わるまで
護衛してくれるって言ってたけど…………遅いわね
まさか、何かあったのかしら……?
ちょっと心配になってきたから見てきていい?」
一同は頷き、神楽の帰りを待った。
神楽が帰ってきた。
「わんこちゃん、うんこだって〜
なんかお茶の成分とポーションの成分が合わさって
激しい下痢を伴う腹痛に見舞われちゃったみたい
一体何しに来たのかしらね、あの子……
まあ、まだしばらくかかるみたいだから、
亀山さんとブタちゃんと斎藤夫妻は
その場に留まって護衛を続けるそうよ
ちなみに夫婦どちらもディスペル使えないってさ」
オールラウンダーの斎藤将太、
敏腕サポーターの斎藤満月。
その2人でさえディスペルを持ってないときた。
さあ困った。
「確認だけど、大上以外に反対意見の人っているぅ?
いないならもう多数決でいいんじゃない?
実を言うとあたしも参戦しようと思ってるのよね
このメンバーなら桃之進に勝てる見込みがあるし、
どうせなら大金を手にして帰りたいでしょ
あたしと安土、そっちの5人と業者さん……
計8人だから1人当たりの報酬は1億2千5百万円ね」
当初の1人当たり2億円からはだいぶ減ってしまうが、
神楽参戦の申し出は非常に魅力的である。
彼女は天才なのだ。
単純にずば抜けた魔力の持ち主というだけでなく、
その攻撃力を最大限に発揮できる手段を持っている。
前述した、解析の適性を前提とした攻撃魔法──
スーパーノヴァを完成させた女なのだ。
魔法防御力無視の必中攻撃が可能な人材。
鬼島神楽は強敵との戦いにおいて重要度の高い、
安定を確約されたダメージディーラーなのである。
隼斗の他に反対する者はいない。
勝手に話を進められている安土でさえも、
満更でもなさそうな表情で黙ったままだ。
かと思いきや口を開く。
「俺も1つ確認させてもらうが、
俺の役割は満月を消すだけでいいんだな?
それだけこなしたら、あとは引っ込ませてもらう
まあ元々予定していた解析作業もついでに行うが、
それ以外のことは何もしないぞ
俺が安土桃之進と剣を交えるという選択肢は無い
どのみちあの場所には桜の木が立ってるからな
バラ科の植物には近づきたくない」
異論は無い。
ディスペル1発で1億円以上と考えると少々癪だが、
それでも彼は重要な役割を担っているのだ。
やはり報酬を受け取る権利があるだろう。
「あっ、いいこと思いついた!」
「ん、何よサクラ?
桜の話をした後にサクラが発言するとか、
もしかしてこのタイミング狙ってた?」
「んなわけあるか
……まあ、自分でもちょっとはそう思ったけどさ
それはともかく、まさにその桜の木だよ!
あれは満月と違って本物の植物みたいだし、
いっそのこと燃やしちまえばいいんだ!
そうすりゃ安土の行動選択肢を増やせるし、
ラスボスへのダメージソースにもなる!
戦闘開始前にある程度HPを減らしておきゃあ、
その後の戦いもグッと楽になるはずだろ!?」
なるほど、悪くない。
ガソリンならある。彼らはバイクで来たのだ。
冒険道具の中にマッチとライターも備えてある。
これならポーションの空き瓶で火炎瓶を製作できる。
あの場所には桜だけでなくススキも生い茂っており、
適当に火炎瓶を投げ込んでもすぐに炎が拡散して
辺り一面火の海になることは容易に想像がつく。
よって、採用。
民主主義の暴力、多数決により方針が決まった。
①ディスペルで満月を処理。
②アナライズでラスボス本体を解析。
③火炎瓶で桜を燃やす&ラスボスのHPを削る。
④全力でラスボスを倒す。
以上だ。
基本情報
氏名:鬼島 神楽 (きじま かぐら)
性別:女
サイズ:AAA
年齢:17歳 (3月30日生まれ)
身長:151cm
体重:44kg
血液型:O型
アルカナ:運命の輪
属性:無
武器:ニルヴァーナ (杖)
防具:千紫万紅 (衣装)
アクセサリー:黒タイツ
能力評価 (7段階)
P:4
S:3
T:3
F:15
C:5
登録魔法
・スーパーノヴァ
・アブソリュートゼロ
・グランドクロス
・サンクチュアリ
・マナストック
未登録魔法
・ステイゴールド
・トリコロール




