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進め!魔法学園2  作者: 木こる
決死行
10/32

7月

調査隊は正式名称をダンジョン調査隊といい、

そのまんまダンジョンを調査する人たちである。

だがその安直すぎる名前から受ける印象とは裏腹に

入隊するには厳しい審査をパスする必要があり、

その選ばれし者たちの中でも特に優秀な者だけが

現場に出て活動することを許される。

彼らは言わばエリート中のエリート集団であり、

一般の冒険者からはもちろん、魔法学園の生徒からも

尊敬と憧れの対象であるべき存在なのだ。


「ちょっ、ちょっと安土君!!

 調査隊の人から挨拶されたのに、

 無視して通り過ぎちゃダメだよ!?

 さすがに失礼すぎるよ!!」


「無視なんかしてない

 俺だって目上の人間への礼儀くらい心得てる

 会釈はしたんだからギャーギャー喚くな」


「ちょっと首を傾けただけだよね!?

 それじゃ相手に伝わってないと思うよ!?」


この時期の杏子は調子に乗っていた。

先日の首切姫トラブルによる影響なのか

安土の口数が少しだけ増えてくれたのが嬉しく、

ついつい出過ぎた発言をしてしまったのだ。


今までの安土なら彼女を即クビにしたかもしれない。

だが、そうしなかった。

彼が杏子に対して後ろめたさを感じていた証拠だ。


「おうおう、失礼な奴がいんなあ!?

 胸のバッジが見えなかったか!?

 こちとら天下の調査隊様だぞ!!

 そうでなくとも年長者だろうが!!

 おれの挨拶を無視するなんざぁ、

 随分といい度胸してんじゃねえか!!」


「やっぱり伝わってなかった……!!」




それはあまりにもレアな光景だった。

あの安土桃太郎が目上の人間からの怒りを買い、

ダンジョンの中で正座をさせられているのだ。

その物珍しさからつい、メンバーの女子たちは

面白がって写真を撮りまくっていた。


この行動も今までならアウトだっただろう。

だが安土は文句の1つも言わずに状況を受け入れ、

彼女たちの好きにさせたのだ。


やはり間違いない。

安土桃太郎は、仲間に心を開いたのである。

それはわずかな隙間程度の変化かもしれないが、

彼女たちにとっては大きな変革であった。


「ねえ、さすがにここで正座はやりすぎだよ〜

 もう勘弁してあげようよ〜」


「とかなんとか言って、

 あんたもちゃっかり撮ってんじゃないのよ

 ……安土く〜ん、今どんな気持ち?

 こういう撮影は初めて? 緊張してる?」


調査隊の人たちも楽しそうだ。

みんなが笑顔になっていた。


安土桃太郎以外は。


「……ところで、名倉の捜索は順調ですか?」


「おまっ、この状況でそれ聞くかぁ?

 情報通りブレねえ野郎だぜ」


「同じ学園に通う、かけがけのない学友ですからね

 無事でいるのかどうか心配で夜も眠れませんよ」


「おめえに男友達がいるとは思えねえがな

 ……まあ、残念ながら進展無しだ

 少なくともダンジョンの中で消えたんじゃねえ

 おれから言えるのはそれだけだ」


「そうですか、わかりました」


その話題をさっぱりと切り上げるあたり、

本当は名倉の心配などしていないのでは……

という疑念が杏子たちの中で渦巻き、

「白々しい」「利用価値のある人間なんだろうね」

と、密かに感想を述べ合うのだった。




調査隊の男は水筒の中身を半分ほど飲むと、

引き続き正座中の安土に対して話しかけた。


「そういや安土、実はお前に用事があんだよな

 ここでの野暮用が済んだら声掛ける予定だったが、

 ちょうどいいから今ついでにやらせてもらうぜ」


「どのようなご用件で?」


「そいつだよ、そいつ

 そのやべえ刀を回収しろって依頼を受けてんだよ」


「なっ……」


「おっと、拒否権はねえぞ?

 お前はその刀を借りてるだけだからな

 正当な持ち主の意思には逆らえないはずだ

 取り戻したきゃ当事者同士で話し合え」


衝撃の事実。

首切姫は借り物だった。


あまりにもナチュラルに使いこなすものだから、

てっきり本人の持ち物であると誤解していた。

となると、彼以外にもあのデタラメな剣術を

扱える人物がいるということなのだろうか……。


「それなら俺が現物を持参して、

 正当な持ち主と直接話し合いますよ

 今この場で回収する必要はありません

 安土家の血が流れていないあなた方には、

 どうせ触れることすらできないでしょうし」


その返答に、調査隊の男はニヤリと笑う。


「おいおい、舐めてもらっちゃ困るぜ

 おれはかつて学園最強の魔法使いと呼ばれた男だ

 安土因子なんか無くても反動を制御してやるさ」


そう言うと彼はパチンと指を鳴らし、

周囲の魔力を自身の左手へと集め始めた。

するとそれは誰しもが見覚えのある物体の形となり、

色を付け、光沢を生み出し、重さを獲得した。


完成するまで3秒ほどだっただろうか。

その男は魔法の力でエレキギターを製作したのだ。


実体化。

それは魔力制御を極めた者だけが扱えるとされる、

質量を持った物質を作り出す超高等技術である。

この男なら首切姫の呪いに打ち勝つことが可能……

そう思わせるには充分な説得力を見せつけてくれた。


「まあ、お前が直接持ってけば手間が省けるが、

 おれらは金貰って仕事してるプロなんだ

 依頼主が回収してこいっつったら、

 それに従わなきゃなんねえのはわかるよな?

 どうか先輩の面子を潰させないでくれよ」


彼はピロピロと弦を鳴らしながら頼み込む。

お世辞にも上手な演奏とは言えなかったが、

それはまぎれもなく本物のギターの音色だった。




調査隊の進道(しんどう)千里(せんり)が、迷いなく首切姫に手を伸ばす。

柄に触れた瞬間に少しだけ苦しそうな顔になるが、

歯を食い縛って怒ったような目つきへと変わり、

両手で鷲掴みにして自分の方へと引き寄せた。


「ほう、聞いてた以上にやべえなこれ

 このぶんだと、おれが正気を保っていられるのは

 せいぜい1分が限度ってとこだろうな

 でもまあ、それだけありゃ充分だ

 ……おい、箱!」


彼の指示で他の2人が黒い箱を地面に置いて

全てのロックをガチャガチャと外してゆき、

蓋が開いたらすぐに首切姫はその中へと収められ、

またすぐに蓋が閉じられて厳重に保管された。


あっという間の出来事だった。

あの手際の良さは、事前に練習していたに違いない。

杏子を一瞬で気絶させたあの強烈な呪いの力を、

進道氏は宣言通りに制御することができていた。

あれがプロの仕事。エリートの技術。

かつて学園最強の魔法使いと呼ばれた男の実力だ。






首切姫を回収された安土は兜を脱いで眉間をつまみ、

「マジかよ……」と呟いて壁にもたれかかり、

壁から飛び出る突起物を鎧でガリガリと削りながら

全身の力が抜けたようにダラリと座り込んだ。


なんという感情表現。

彼は落ち込んでいるのだ。

かつてこれほどまでに安土桃太郎が

心の内を曝け出したことがあっただろうか。

いいや、ない。

彼にとって首切姫とは、それほどの存在だったのだ。


その激レアな瞬間を逃すまいと言わんばかりに、

亀山と猪瀬はあらゆる角度からの撮影を試みる。

杏子は今の状態の安土に対してそんな気にはなれず、

とりあえず10ショット程度の撮影に留めておいた。

基本情報

氏名:猪瀬 牡丹 (いのせ ぼたん)

性別:女

サイズ:K

年齢:15歳 (8月15日生まれ)

身長:177cm

体重:61kg

血液型:A型

アルカナ:太陽

属性:炎

武器:なし

防具:ブラインドガーディアン (盾)

防具:ブラックナイト (重鎧)


能力評価 (7段階)

P:6

S:4

T:4

F:3

C:3


登録魔法

・ファイヤーストーム

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