第四十二話:侵入者
冥府の最奥、神界へと続く門の前——。
レイヴンは静かに佇んでいた。
冥府の守護者を倒し、この領域の支配権を確立したことで、すべての影が彼の意のままに動く。
しかし、その時だった。
「……おかしいわね」
レクシアが僅かに眉を寄せた。
「何か問題か?」
レイヴンが問うと、彼女は冥府の暗闇を見据えながら呟く。
「……ここにいるべきではない者の気配がします」
その言葉が終わるや否や、暗闇の中から異質な存在が姿を現した。
それは人の形をしていたが、どこか歪んでいる。
金属のように硬質な肌、節くれだった四肢、顔には表情がなく、ただ黒い穴のような目がこちらを見ている。
レイヴンはすぐに理解した。
「——プレイヤーか?」
それは確かに、人間のプレイヤーの残骸だった。
しかし、彼らはすでに「プレイヤー」という枠に収まる存在ではない。
何かに歪められ、形を保ち続けることすらままならない。
「……“あちら側”に踏み込みすぎたのね」
レクシアが呟く。
この冥府は、ゲーム世界の「狭間」に位置する領域。
普通のプレイヤーが辿り着くことはありえない。
だが、何らかの方法でこの領域に“侵入”し、“還れなくなった者”がいるのだ。
「お前たちは、何を求めてここに来た?」
レイヴンが問いかける。
しかし、返答はなかった。
代わりに、彼らは殺意だけを滲ませながら襲いかかってくる。
「——ならば、“冥府の掟”に従い、裁くだけだ」
レイヴンは影を纏いながら静かに呟き——
「冥府の軍勢、召喚——」
彼の号令とともに、無数のアンデッドが闇の中から出現した。
影と亡者が交錯し、死者の支配者による審判が下される——。
※
戦いが終わる頃には、冥府の闇は再び静寂を取り戻していた。
レクシアは目を伏せ、低く囁く。
「……“還れない者”の行き場は、ここにはありません。せめて、冥府に還ることもできたなら——」
レイヴンはその言葉には答えず、ただ前を見つめた。
その視線の先には、神界へと続く門がある。
レクシアは一歩踏み出し、門の前に立つと——ゆっくりと手をかざした。
「……“冥府の王”の名のもとに、門を開きます」
その瞬間、門が光を放ち始める。
黒と灰色の冥府の世界には不釣り合いな、純粋な白い光。
神界へと続く道が、今、開かれようとしていた——。




