第四十三話:魂の宿る世界
——視界が光に包まれた。
眩い光が収束していく中、レイヴンは思わず目を細めた。
次の瞬間、周囲の景色が一変する。
先ほどまでいた冥府の朽ち果てた空間は消え去り、代わりに目の前に広がるのは真っ白な世界だった。
「……ここは?」
天も地もなく、ただ果てしなく白が広がる。
レイヴンは慎重に足を踏み出した。固い大理石のような感触があるが、視覚的には何もない。
ふと気づくと、レクシアが目の前に立っていた。
「ここは《神界》へ至る門の一部です」
「……神界、ねぇ」
レイヴンは腕を組んだ。
神界。
ゲーム内では『未実装の領域』として噂されていた場所。
「本当に神界なら、もっと神々しい景色が広がってるんじゃないのか?」
「今、あなたが見ているのは“あなたにとっての最適な形”に調整された空間に過ぎません。本来のエーテルリアは、あなたのような“まだ人である者”には到底理解し得ない世界なのです」
「……なるほどな」
レイヴンは慎重にレクシアを観察する。
彼女はNPCなのか、それともこのゲームの管理AIとして喋っているのか——。
「で、俺をここへ連れてきた目的はなんだ?」
「あなたは《冥府の魔王の証》を得た特異点……《冥府の権能》に最も近いプレイヤー。ゆえに、あなたには知る権利があります」
「知る権利?」
レクシアは静かに頷き、言葉を続ける。
「《Eternal Fantasia Online》は、単なるゲームではありません」
「……」
「この世界には、本物の魂が宿っています」
その瞬間、レイヴンの胸に冷たい衝撃が走った。
「……おい、待て」
レイヴンは慎重に言葉を選ぶ。
「それは、このゲームにAIが導入されているって意味じゃないのか? NPCが高度な言語処理をするのは、今どき珍しいことじゃないだろう」
「確かに、多くのNPCは高度なAIによって制御されています。しかし——」
レクシアはゆっくりと首を振った。
「あなたも薄々気づいているはずです。このゲームのNPCは、単なるAIではないことに」
「……」
レイヴンは沈黙した。
実際、違和感はあった。
このゲームのNPCは、単なるプログラムには思えないほどの“深み”があった。
感情のこもった会話、意図しない行動、そして何より——“生きている”かのような存在感。
それでも、レイヴンはそれを「よく作り込まれたAI」だと思うことで納得していた。
だが。
「まさか……本当に魂があるとでも?」
レクシアは静かに頷いた。
「かつて、このゲームの中で《神界》へ足を踏み入れたプレイヤーがいました」
「……ああ、聞いたことがある」
過去に数名のプレイヤーが誤って神界へ到達し、その後ログアウト不能になった——という噂。
「彼らは、もう戻れない。なぜなら彼らの魂は、この世界に囚われてしまったから」
「……!」
「あなたはまだ半信半疑でしょう。ですが、ここで一つ選択を与えます」
レクシアは手をかざすと、空間の中に扉が現れた。
「この扉を開けば、あなたは《神界》の端に触れることができるでしょう。そこに何があるのか——それを知るのは、あなたの自由です」
レイヴンは扉を見つめる。
ここまでの話がどこまで真実なのかは分からない。
しかし、ただのゲームだと思っていた世界の裏に、何かがあるのは確かだ。
そして、自分はすでにこの“異変”に巻き込まれている。
「……選ぶまでもないな」
レイヴンは迷わず、扉へと手を伸ばした。
次の瞬間——
扉がゆっくりと開き、そこには果ての見えない光の階段が続いていた。




