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第三十八話:冥府の門

 気がつくと、薄闇の中にいた。

 目の前に広がるのは、どこまでも続く荒野。黒い霧が漂い、枯れ果てた大地が広がっている。空を見上げれば、歪んだ満月が不気味に輝いていた。

 遠くで、不気味な鐘の音が響いた。


「……レイヴン、貴方をお待ちしておりました」


 穏やかな女性の声が聞こえた。

 レイヴンが振り向くと、そこにはプラチナブロンドの髪をなびかせた若い女が立っていた。白いローブに包まれた姿は幻想的で、まるで古代神話の神官のような雰囲気を纏っている。

 レイヴンはその女性の名を知っていた。


「レクシアか……」


「ようこそ、冥府の門へ。冥府は貴方を王としてお迎えします。ただ……門を開く前に、ひとつだけお聞きしたいことがあります。貴方は……人の魂が残ると、お思いですか?」


「……いや。魂なんてものは、幻想だろう」

「そうですか……」


 静かに微笑むレクシアに、レイヴンは——誠司は亡き妻の面影を見た。このレクシアはNPCではなく、亡き妻が動かすプレイヤーキャラクターなのではないかと錯覚しそうになる。


(いや、これはただのAIだ。AIの反応がたまたま美咲に似ただけだ)


 レイヴンは内心で苦笑した。

 死者の魂など幻想だと、今答えたばかりではないか——


「では、どうぞ。ここから先は貴方の領域となります」


 レクシアの声が、静かに響く。

 門の周囲には無数の魂の灯火が揺らめき、遠くでは嘆きにも似た風の音が鳴っている。


「冥府の門を越えれば、その先には神界の門へと続く道があります。ただし……」


 レクシアはふと言葉を止め、レイヴンを見上げた。その青い瞳が、不安げに揺れる。


「この先には、冥府の守護者たちがいます。彼らは普通のモンスターとは違い、《生》を拒む者たち……この冥府の理そのものに従う存在です」


 レイヴンはゆっくりと頷いた。


「つまり、俺が冥府を進もうとすれば、奴らは容赦なく襲いかかってくる……そういうことか」

「……はい。でも、あなたはもうただのプレイヤーではありません。冥府の支配者としての力を有しています」


 レクシアの言葉に、レイヴンは微かに笑みを浮かべた。


「なら、試す価値はあるな」


 レイヴンは静かに手を掲げる。すると、彼の影がゆっくりと広がり、そこから無数のアンデッドが現れた。

 骸骨兵、幽鬼、死霊騎士……すべてが冥府の力によって強化された精鋭たち。


「行きましょう……」


 レクシアが手を差し伸べる。

 レイヴンは彼女の手を軽く握り、ゆっくりと前へと踏み出した。

 そして——冥府の門が、音を立てて開かれる。


 その瞬間、空間が歪み、禍々しい気配が一気に吹き荒れた。

 門の向こうには、黒い甲冑をまとった巨大な騎士が立っていた。


 《冥府の守護者》——この場所を通る者を拒む、最初の試練。


 レイヴンは息を整え、静かに呟いた。


「——さあ、試してみようか。俺の力が、どこまで通じるのかを」


 骸骨兵たちが前に出て陣を組む。幽鬼が空を舞い、死霊騎士が剣を構えた。

 そして、冥府の守護者がゆっくりと剣を抜く。


 戦いの幕が、静かに上がった——。

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