第三十七話:忘れられた神殿
中央大陸の辺境——《忘れられた神殿》に到着したレイヴンは、目の前の異様な光景に立ち止まった。
目の前に広がるのは、灰色の石造りの巨大な遺跡。崩れかけた柱が無造作に倒れ、かつては壮麗だったであろう神殿の入口が、ぽっかりと口を開けている。
だが、最も異様なのは——神殿全体を覆う“霧”だった。
《Eternal Fantasia Online》の世界には様々なダンジョンが存在するが、これほどまでに視界を遮る霧に包まれた場所は他にない。
「……これは、ただのエフェクトじゃないな」
レイヴンは周囲を慎重に見渡した。
霧の中から微かに漏れる奇妙な囁き声。まるで誰かがこちらを呼んでいるかのような、不気味な音が耳に届く。
(過去に神界へ迷い込んだプレイヤーたちは、ここに立ち寄った後に消息を絶った——)
そう考えれば、この霧の中に“何か”があるのは間違いない。
「行くか」
レイヴンは静かに杖を構え、霧の中へと足を踏み入れた。
※
神殿内部はさらに異様だった。
壁にはびっしりと古代文字が刻まれ、崩れた石畳の上には、まるで何者かが地面を引きずったような跡が残っている。
そして——
「……ん?」
レイヴンは足元に転がるものを見て、眉をひそめた。
《Eternal Fantasia Online》のモンスターには見られない——白骨化した人間の遺体が転がっていた。
「遺体……か?」
ゲームのデータとして配置されたオブジェクトなのか、それとも……。
レイヴンは慎重に手を伸ばし、《ネクロマンサー》のスキル《死霊探知》を発動する。
——しかし、何の反応もなかった。
通常、死者がいれば“霊的な残滓”が検知される。だが、この遺体からは何の反応も得られない。まるで、本当に“空っぽ”になったかのように。
「……不気味だな」
レイヴンは一歩、奥へと進んだ。
すると——
「——ようこそ、選ばれし魂よ」
突如、頭上から響く声。
レイヴンは即座に杖を構え、周囲を警戒する。
(この声……どこかで聞いたような……)
思い出そうとして不意に、別の話を思い出す。それは、ログアウト不能のプレイヤーについて聞いたときの話。
彼らは、天使の声を聞いたという。その言葉は——
『この世界の真実を見せてあげましょう』
頭上から響く声が、レイヴンにそう告げた。
霧の中から、ぼんやりとした光が浮かび上がる。
その光の中心から現れたのは、白いローブをまとった女の影だった。
「貴方は《冥府の魔王の証》を得た者。この神殿に辿り着くことは、必然でした」
女は静かに言葉を続けた。
「さあ、選びなさい——真実を知るか、このまま引き返すか」
「……」
レイヴンは迷わなかった。
「真実を知る……それが何を意味するか、教えてもらおうか」
女の声が柔らかくなる。その顔は見えずとも、表情は伝わってくる。まるで微笑んでいるかのような。
「——ならば、神界へ至る道を開きましょう」
次の瞬間——
視界が、光に包まれた。




