第二十七話:冥府の門
——視界が暗転し、レイヴンは静かな闇の中に立っていた。
さっきまでいた冥府の空間とは違う。ここは、何もない虚無の世界。
(イベント進行中……ってところか?)
レイヴンが周囲を見渡していると、突然、目の前に光の粒が集まり、扉の形を成していく。
荘厳な装飾が施された巨大な黒い門。その表面には無数の魂のような模様が刻まれており、今にも蠢きそうな錯覚を覚える。
そして、その扉の前に立つのは——
「……お前か」
白金の髪をたなびかせた女性、レクシアが再び姿を現した。
「ようこそ、継承者様」
彼女は扉の前に立ち、レイヴンを迎えるように微笑んだ。その表情にはどこか静かな誇りが感じられる。
「ここは?」
「冥府の門——死者の王が開くべき扉です」
「死者の王、ね……俺が、それになると?」
「正確には、“なる資格を得た”という段階です」
レクシアの声には確信があった。
「貴方はレイドボスを討伐し、《冥府の魔王の証》を得ました。そして、その力が認められたことで、貴方に“冥府の継承者”としての選択権が与えられたのです」
「つまり、この扉を開けば、俺は本格的に冥府の力を得ることになる……ってことか?」
レクシアは頷いた。
「ですが、それは単なる権利の獲得ではありません」
「……どういう意味だ?」
レイヴンが問い返すと、レクシアは穏やかな表情のまま言った。
「貴方が冥府を受け入れるということは、“死者の王”としての責務を果たす覚悟を持つということ。冥府はただのダンジョンやエリアではなく、生と死の狭間に存在する場所……貴方は、そこに関わることになります」
レイヴンは黙って考え込む。
ゲームのイベントとして考えれば、この扉を開くことで新たなクラス進化やスキル強化が手に入るのは間違いない。
だが、「責務を果たす覚悟」などという言葉が出てくるあたり、単なるパワーアップイベントではなさそうだった。
(責務、ね……)
「まあ、そもそもアンデッドを扱う以上、死者とは無関係じゃいられないか」
そう呟くと、レクシアが僅かに目を見開いた。
「……貴方は、本当に不思議な方ですね」
「何がだ?」
「貴方のように、死者を“使い捨ての駒”としてではなく、“共に戦う仲間”として扱うネクロマンサーは珍しいのです」
「当然だろ。こっちは仲間だと思って戦わせてるのに、そいつらを単なる“使い捨て”扱いするなんて、俺にはできない」
レクシアは少し驚いたようにレイヴンを見つめた後、ふっと微笑んだ。
「——やはり、貴方こそがこの力を継承するに相応しい」
そう言いながら、彼女は冥府の門に手をかざした。
「貴方が冥府の力を受け入れる覚悟があるなら、この門を開いてください。貴方の意思で——」
レイヴンは門を見上げる。
これは単なるゲームイベントなのか、それとも何かもっと大きなものの始まりなのか……
だが、答えは決まっていた。
「……ここまで来て、やめるなどという選択肢はないな」
レイヴンは一歩踏み出し、両手をゆっくりと門に添えた。
——瞬間、門が青白い光を帯び、まるでレイヴンの手を受け入れるように脈動する。
そして——
〈システムメッセージ〉
【冥府の門、解放】
次の瞬間——扉が重々しく開かれ、光が溢れ出した。




