第79話 団体行動
第79話 団体行動
「ちょっと!! 何やってるんですか!! こんなところで買い食いして....」
あたふたとメイド服を着た黒髪ショートボブで大人びた女性が勢い良く馬車から駆け下りて、買い食いをした女の子の元へ行く。
長いスカートにブーツで動きにくそうではあるものの、動きは華麗で俊敏であった。
屋台の前で口の周りにタレを沢山つけて頬張る女の子の口を持っていたハンカチで丁寧に拭いてあげながら困ったような表情を浮かべる。
「こんなところで道草してどうするんですか? 魔物だったら、行く先々で毎回食べてるじゃないですか?」
「でも、こんなに美味しい見た目の魔物ご飯見たことある? 普通の豚や牛が使われているって言われても遜色ないよ!」
よっぽど食べているそれを気に入ったのか、目を輝かせて再び齧り付く。
「そうであっても、隊列を止めるのは感心しません」
メイド服を着た者は正論で諭そうとしているのだが、目では魔物を使ったご飯を追い正直な所説得力に欠けていた。
一口、また一口と口の中に消えていく角煮を見つめながら生唾を飲み込んでいた。
「もう一個ください」
「まだ食べるんですか!? いい加減にしてくださいよ!!」
お金を払い、店員から同じものを受け取る様子を見て今までよりも強い口調で叱りつける。
「はい」
「え? 何ですか?」
二つ買い上げそのうちの一つを目の前に差し出された商品に疑問を持つ。
「シルヴィも一緒に食べよ?」
「いえ、私は....」
目を逸らし、頑なに断ろうとする。
「これから私たちは、数日間国外遠征に行くことになる。その前に一体感を高めてこうやって更新するのは士気の向上に繋がる。だけど、お腹が空いているのは気合いじゃあ、どうにもならない。これから食べる物が粗末な物になるんだからその前に少しぐらい美味しいものを食べた方が今後のパフォーマンスも向上すると思うんだけど....」
真っ直ぐな瞳でそう言うと、メイドはさっきまでの勢いを失い、言い返す言葉が思いついていないようであった。
「垂れる!垂れる! 重厚で美味しいタレが溢れちゃう!」
「え! ああ... ええ!」
わざとらしく商品を持った手を左右に動かし、絶妙な量が掛かったタレが滴り落ちそうでギリギリ落ちないハラハラを演出させる。
「あ、あーあ。どうしよう?シルヴィが食べないなら食べちゃお」
大きな口を開き頬張ろうとすると角煮を掴んだ腕が掴まれる。
「食べないなんて言ってないじゃないですか? 頂きますよ?」
少なからず苛立ちを見せながらも受け取ると両手で大事そうに抱えて大きな口を開ける。
「ハム!」
思い切りかぶりついたのにも関わらず歯が押し戻される弾力に驚きながらもそのまま一気に噛みちぎる。歯切れのいいレタスの音と共に口の中に引き込まれていった。
「んー! 何これ、凄い美味しい」
「散々私のことを貶していた癖に美味しそうに食べるね」
さっきまで道草を否定していたのにも関わらず堪能してしまっていた自分に気が付き、顔を赤らめる。
「普通ですよ!?それに、悪いことをしたら小さい子だって叱られるでしょうし」
「周りを見て?みんなシルヴィを見てる」
その言葉通りに周りを見ると、涎を垂らした憲兵が羨ましそうに手元の料理を見ていた。
「なんですか!! 何で私をそんなに物欲しそうに見てるんですか?」
別にシルヴィの事を見ていたのではなく、口に入っていく独特な食べ物の方を見ていたのだが、そんな些細なことはどうでもいいぐらいにお腹が鳴っていた。
「メイド長も食べて道草公認になったので、憲兵隊の皆さんも食べてから行きましょう」
『『『うォォォオ』』』
最初に買い食いをした女の子がニコニコと笑顔を浮かべてメイド長も道草仲間にすると、散々焦らされた猛者どもが、小銭を握りしめあちらこちらの屋台へと散っていく。
買うや否やその場で食い漁り、怒涛の勢いで食べ進めていった。
それを高みから見物していたキノが口を開く。
「ね? 売れるでしょ?」
「魔物を調理した食事なのに、なんで....?」
「元々魔物を食べる文化は古来からあった。国外遠征の道中、食料が足りなくなって食べることもあるだろうから抵抗が少ないんだと思う」
「でも、口々にこんなに美味いものを食べた事ないって言ってるよ?」
「普段の杜撰な調理が見て分かるわね。それにあれ見て」
キノが指差す先にはこの区域に住む平民が小銭を握りしめ、屋台で食べ物を買っていた。
「釣られてさっきまで警戒していた人が出てきてる!」
「人は美味しければ何を使っていても食べちゃう動物だから」
吐き捨てるようにポツリと呟いたら,
「私が筋肉痛で寝込んでる間に準備してたのか....
これで回復術師の人達の分も稼げるよね?」
「まさか、これで終わりだと思ってる?」
「違うの?」
「逆ににここからが本番」
キノの見た先には、1番に屋台のものを買ってくれた女の子がもみくちゃにされながらも後ろの方に這い出てきた姿が写っていた。




