第78話 屋台
第78話 屋台
『ねぇ? 門の両隣のあれは何?』
夕日が沈んでいく壁の向こうからの光を手で遮り目を凝らすと、外へと繋がる頑丈な問を中心とした両端にいくつもの小さな建物が壁に沿って湾曲しながら並んでいた。
『屋台。孤児院のみんなで出してるよ?』
『え?』
更によく見ると、デンケンを中心とした子供たちやキノが勝手に孤児院に住まわせている拾ってきたゲルドの回復術士だった女性達が町娘風の洋服に身を包み、セカセカと何やら準備をしていた。
『何考えてるの!? こんな人通りの少ないところで商売なんて!?』
『人が少ないからこそ、競争もないんでしょ?』
当たり前の事ではあるのだが、周りの住宅地の中の気配を探るが、スラムから出てきた奴らが何がしているとの事で誰も近寄っていない。
エナが心配そうにキノの顔色を伺うも、ケロっとした顔で平然と答える。
『キノさん! 粗方準備終わりました』
用意していた元回復術士のメンバーがキノに気が付き、手を大きく振るう。
『ありがとう!! マジックバックが治ったからお肉追加で焼いてもらえる?』
その言葉を聞くと、屋台を組んでいた者達が急いで道沿いにも屋台を組み立て始め、他の者はキノからマジックバックを受け取ると仮組みの屋台の中でこの前のダンジョン探索で得たと思われる魔物の食材を次々に調理していく。
『ねぇ? まさかのだと思うけど、魔物を調理するの?』
『そうだけど?』
何当たり前の事を聞いているのと言いたげなキノが口を開く。
『何考えてるの!? 魔物なんて売れる!?』
売れる訳がない。大抵の魔物は自分を守る為に硬い。
『安くて量が多いなら大抵のものは売れる』
実際、定食屋は安いものを沢山量を売る薄利多大方式で利益を上げている。
『それは普通の食材の場合よ!』
エナの一般人としてのど正論。
『それに、お客さんもう来たし』
こっちは金なし冒険者の暴論。
キノが来た道を指さすと、お姫様を守護する一行の一陣がやってきていた。
『ちょっと!? まさかお姫様の一向を相手にする気!?』
『そうだけど?』
『お馬鹿!? 魔物なんて食べさせたら、私たちのクビが飛ぶでしょ!?』
『え? そう? クビが飛んでる人なんて生まれてこの方見たことない』
ゲテモノ以上に得体の知れない何かを食べさせようとしていることの重大さを分かっていないのか、キョトンとした顔をしていた。
『私たち邪魔になっちゃう。馬を繋ぎに行こ』
馬を屋台を出している端っこに繋ぎ、エナを抱えるとそのままフワリとした身体捌きで建物の屋根の上に上がる。
そうしている内に、騎馬に跨った一行がやってくる。
屋台からは様々な匂いがしていて食欲はそそられるのだが、誰一人としていない屋台に近付く者など居ない。
『皆さん、こんばんはー。お腹とか減ってません? この近くのダンジョンで取れた魔物を調理して屋台を出しているので、良かったら食べに来て下さい』
魔物を使っている事を誤魔化すどころか、包み隠さずに前に押し出し、キノが屋根の上から思い切り叫ぶ。
シーンとした雰囲気が充満するのだが、それを破る者が一人だけいた。
『魔物で料理!? どんな味がするの?』
馬車の扉が開き中から丸みを帯びた金色のショートボブの女の子が勢いよく馬車から降りてくる。
半袖の麻の服に少し分厚い茶色い布でできたシャツを羽織り皮でできたコルセットを締め、黒いズボンに肩掛けのバックを携えた典型的な駆け出し冒険者の格好をした活発な雰囲気のある女の子が出てきた。
隊列の間をシュルシュルと縫うように一瞬で走り抜け、1番近い屋台を覗き込む。
『お姉さん、おススメ一個ちょうだい!』
『はい、お一つ100エールになります』
『はい、100エールって銅貨一枚だよね?』
『フフ。そうですよ?』
活発でどこか浮世離れした不思議な雰囲気の女の子とは対照的な、ロングの髪の毛でどことなくミステリアスさを感じさせる顔立ちの女性が柔らかい物腰で対応する。
受け取ったお金を確認すると、正露で蒸していた何かを木製のトングで掴み、紙に包んで渡す。
『どうぞ。柔らかパンを使ったヘビードラゴンの角煮サンドです』
もふもふとか柔らかい蒸した白いパンに、レタスが敷かれその上には汁にドップリと使った角煮が挟まり、濃厚そうな肉の上には無数の針生姜がかけられていた。
『頂きます』
大きな口を思い切り開け、それにかぶり付く。甘辛いタレが口の中いっぱいに広がり一口噛むごとに針生姜のアクセントが口の中をチクチクと刺すのだが、その刺激が心地良い。
飲み込めるほど柔らかく煮込まれた肉を噛むと、ゴッキュッゴッキュッと喉を鳴らしながら頬張る様は、周りの憲兵達を釘付けにし長い行列を止めさせた。
女の子とは思えない程潔い食べ方に魅了されたせいか、生唾を必死に飲み込んで食欲を抑えようとする者達の羨望が、角煮サンドに猛烈な視線として集まっていた。




