第69話 滑稽
第69話 滑稽
「何! どうなってるの!?」
「貴方の体、だいぶ乱れてるけど、どうした?」
ゴミを見るような目でキノが台詞を吐き捨てる。
ノイズのように宙に浮いた体が乱れ、まだら模様に体の彼方此方が欠ける。先程のような精彩が感じ取れない。急に安っぽくなってしまった。
「いつだったか遠い昔に異世界から来た人はこの国の門から出ていって数名で戦争を止めたったって聞く。それ以外にも強い魔物がこの国に進行してきた時だって助けてくれた!悪戯に力を振るう貴方が間違えても語っていい名前じゃない!」
「キノ!! 逃げるわよ!! 同化するなんて魔法見た事ない! 秘伝魔法でもよっぽど上位よ!」
階段を駆け降りてやってきたプルエアがキノの腕を掴み、建物の中に引き込もうとする。
「なんでそんなに慌てるの?」
「だって、私たちの攻撃が無力化されてるんだよ!! 勝てるわけない!!」
いつもの冷静さは微塵も感じられない程取り乱したプルエアが言葉を撒き散らす。
「落ち着いて。無力化されてない。あそこに居ないだけ....」
「どういう事? 居るじゃない!」
「姿形はね。 本体はいない。光の魔力に自分の像を映すように命令を与えて、それをこの場に空間の魔力に乗せて送って、居るように見せかけているだけ」
「嘘? でも、魔力が届く範囲にいるって事はまだ近くに?」
「残念だけど、もう追いつけない距離が開いてる。捕まえるのは無理」
その言葉に更に理解が追いつけない。
「自分の体から離れた位置に魔法を作用させるには術式が必要になるけど、術式を発動させてる様子なんて....」
「術式は路地。お店が壊れた事によって路地が全部繋がって、発動したの。ためた魔力を媒介に使ったまじないって方が正しいかもしれないけど....」
「嘘でしょ? そんな正確な陣を描けるの?」
「さぁ? 私が思うに、貴方は異界人じゃないと思うんだけど、実際はどう?」
「呆れた。あんな威勢の良い啖呵を切っといて、私と悠長にお喋り?」
「下に降りてきてお喋りしよ」
毒気のないキノの表情にやられたのか、フワフワと溜め息を吐きながら地面に降りてくる。
キノがそこに手を伸ばすと、身体を突き抜け通り抜けた。
「ね? 同化じゃなくてすり抜け」
「本当だ!」
キノと同じようにプルエアも手を飛ばすと同じように手が貫通した。
「あんまり弄らないでくれない? すり抜けるとは言ってもあまり気持ちいいものじゃないわ」
「あ、すみません」
申し訳なさそうにプルエアは手を突っ込んでいた胸板から腕を引き抜く。対照的にキノは、グルグルグルグルと色々部分を触っていた。
「キノ、貴方もそろそろやめてくれると助かるんだけど?」
「なんだか変な感じ。ベースは光の魔力のに不純物が混ざってる」
「あら、中々いい感性ね! あまりにも消費魔力が多いから、マジックバックと同じ要領で空間の魔力に自分自身の光の魔力のせてここに送ってるのよー!」
「マジックバックの開発者って認めた」
「あら、これって誘導尋問!! 中々エグい事するのねー」
「ちょっと待って! マジックバックと同じ原理でってどういう事!」
サラッと流されたマジックバックの理論にプルエアが引っかかる。
「マジックバックの要領は無限に等しいけど、原理としては身につけている人の魔力を吸って起動させる携帯型の固定術式。もっと言うなら人の持つ魔力を媒介としたまじないで、擬似的な空間を召喚して押し出された魔力が空間になるわけ。元々空間の力は繋ぐ力なのよ!」
今まで作り手までを匿名にしていたのに、バックの成り立ちから術式の仕組みまでをベラベラと喋る。
「良いんですか? そんなに仕組みを話して」
「良いの良いの。空間の魔力が無ければ作れないし。それより、私の魔法はどうやって見破ったの?」
『目の光』
『光?』
『火の玉を見てた時、目には別の風景が映ってた。別の角度から私を見る光景。それで気がついた』
キノが振り向き、少し離れた建物に目を向けると目の前で映る店主の像がビクッと震える。
『じゃあ、あの火球は?あれもそう見えるようにしたってだけ?』
プルエアが首を捻る。しかし、そうなると火球に突っ込んだにも関わらず無傷のキノがおかしい。
『マジックバックの中にしまって攻撃を回避しようとしたんでしょ?』
『正解。ただ、不安定になっていたせいか失敗して全ては吸い込めなかったの』
『魔力の場をまじないで作って、魔法技術による投影?』
『だと思う。まじないは魔力がなくても媒介があれば良いし、媒介を扱いやすいようにしとけば他の場所でもすぐに使用できる。じゃあ、今度は私の質問。貴方は何者? なんで私にあの装備を渡したの? なんで空間の魔力を保持してるの?』
『やだ。言わない』
子供のように太々しく言い切る。
『貴方ね!これだけのことをやっといて今更シラを切る気なの?』
呆れた声でプルエアが叱りつける。
『だって、私は貴方達に勝てないだけで負けたわけじゃない』
その屁理屈にギリギリと歯軋りをさせて憤慨しそうになった所をキノに頭を撫でられて留まる。
『質問を変える。なんで言わないの?』
『それを話したら、約束を破るから言いたくない』
『なるほどね』
『何がなるほどなの!! 本体を捕まえて取っちめましょうよ!!』
『それは駄目。ここはマスターの優しさに甘える』
ここまで追い詰められても横柄な態度を取る目の前の店主以上にキノの言葉が理解できない。




