第68話 守備
第68話 守備
窓ガラスを開け広げ、下を見るとキノが入っていった防具店から黒い煙が立ち上り、骨組みがパラパラと落ちていた。
「キノのやつ何しでかした!? 無理心中か?」
プルエアが身を乗り出し罵る。そこから何かが物凄い飛び出し、空中に止まる。
「エーデルに爆弾を用意させといたけど、凄まじい威力ね。街中で使って良いやつなの?」
自分の店の跡地をみて自分がやらかした事を目の当たりにする店主が咳き込みながら出てきた。
「ねぇ? キノはどうしたの?」
「えっと....どちらさま?」
プルエアが窓に身体を乗り出し、同じ目線の防具店のマスターに問う。
「質問してるのはこっち。答えろよ!!」
コップの中の水がプルエアの感情に呼応する様に、襲い掛かる。掌を思い切り開き、体の前に出すと水も身体を大きく広げたように面積を広げる。
グワっと湾曲し、あっという間に空中にいる店主の周りを卵のような形にした水の壁で覆う。
キョロキョロと中を見回し、突破口をさがすのだが、それよりも早くプルエアが動く。
「潰れろ!!?」
言葉を発し、掌を握り潰す。中の掴んでいた空気が一瞬でなくなり、あっという間に水が見えなくなる。
だが、目を疑った。潰れたのは水だけで店主の体は意に返す事もなく涼しい顔をして佇んでいるのだ。
3人の目には水が中のものを押し潰す水が見えていたのに、それを何の脈絡もなくスッと通り抜けて出てきたのだ。
「何で? すり抜けた?」
「ぼさっとしない!! 援護しなさい!!」
ユエルの惚ける顔にプルエアが一喝入れると、握りしめた拳に再び力を入れる。
店主の体の内側から何本もの水の針が浮かび上がり、串刺しにしていた。串刺しにされた張本人は口を思い切り開け身体をピクピクと痙攣させながら、苦しみにもがいていた
「やった!?」
「油断しないで!! 手答えがない!」
ホッとするエナを叱りつけると、僅かに広角を上げた店主が困ったように笑う。
「あら? バレちゃったの?」
身体をゆっくり前に前進させ、棘を通り抜けた。しかも奇妙なのは一歩歩くごとにカツンカツンと地面を踏む音が聞こえてくるのに、一歩ずつ空中を歩く。
「魔法使いの女の子....貴方は中々ね」
「何が?」
「瞬時に周りに指示を出した上で自分が相手の注意を最大限引きつける。そんな事、紙切れみたいな防御力の魔法使いは思いついてもやらないわ。よっぽど仲間思いなのね?」
そんな事を言っている間に窓にゆっくりと近づいてくる。得体のしれない何かに体の奥からの震えが止まらない。
吸った息が身体を循環しない。肺に穴が空いているのかと....空気が肺をすり抜けているのかと思うぐらい空回りしていた。
「それかよっぽどの馬鹿なのかしらね?」
手を思い切り広げ、窓から身を乗り出す3人の前に出す。空中散歩に、攻撃との同化。プルエアはこの掌からどんな攻撃が繰り出されるのかも想像がつく。
「あんた達逃げ....!」
「もう遅い」
プルエアの辛く意味をなさない言葉が重い詰めた空気を張り裂こうとした。しかし、それよりも早く攻撃が繰り出されるのを予期してしまう。
崩れゆく防具店には黒い煙が立ち上り、治る気配がない。そこから、一つの塊がでてきた。
勢いよく駆け出し、履いているブーツにはキノの『強化』魔法が掛かり、身体から伸びた白い光が筋となり浮き上がっていた。向かいのラウンジの壁を蹴り上げ、身体がフワッと斜向かいの屋根の上に飛ぶ。
ガシャんと瓦を割り、着地すると口を思い切り膨らめ、ブッ!っと馬車の中で食べた赤い飴の破片を吐き出す。
瞬時に吐き出した物が周りの空気を赤い石が吸い込むと身体を覆い尽くすほどの火球になり、店主のへと向かう。
振り返り、掌を向けると火球の中心部が消滅した。安心したかのように息を吐くとそこにはキノの姿が見えた。
峨嵋刺を逆手で持ち、中心部が消失した火球の中を通り、そのまま襲いかかる。
驚いた表情を隠せずにそのままキノに身体を貫かれる。
しかし、それも例に漏れずに通り抜けていった。
カツーン!
地面に落ちたキノは地面に峨嵋刺を刺し、店主を見上げる。
「残念だったわね」
「キノ! 気をつけて!! こいつ多分空間の魔力を持った異界人だ!! 攻撃が届かない!」
プルエアがそう口走るのだが、キノには違和感がある。
「異界人ね....。本当にそう思ってる?」
「なんなの? その反抗的な目は? 今まで何を見ていたのかしら?」
そこには、今までの丁寧な口調の店主はもういない。高圧的になり、自身の力に酔いしれる得体のしれない化け物がそこにいた。
「この国は数年前まで空間の魔力を操る異世界の人達と交流していた。他の世界との戦争に勝ちその人達はある時を境に居なくなった。なのに、目の前に貴方は異世界人なの?」
「そうよ!! 戦争に駆り出されていいように使われたから今度はこっちからこの国を転覆させてやるわ!!」
「プッ!アハハ!」
「何! なんなのよ!? あんたなんて真っ先に空間の魔力で捻り潰してあげる!」
地上に降りたキノに対して手を翳す。手から何か攻撃をしようとしているようだが、全く何も起こらない。
そよ風程度の何かが、キノの髪を撫でる。マスターのうまく内側に隠されていた光の魔力特有の黄色い破片が四散するように身体が光の玉になっていく。




