第62話 疲労
第62話 疲労
「取り敢えずは、はけたわね。みんなお疲れ様」
溜息を吐くようにプルエアが力を抜く。周りを見回すと空の木箱が散らかっており、メイド達の顔には疲労が浮かぶ。普段から料理を作ってもらったり、屋敷の清掃を頼んでいるもののここまでの重労働は中々ない。
庭にはさっきまでの喧騒はなく、次々と屋敷の外に停めた馬車に乗り込むと馬を走らせ帰っていく。
「凄い人でしたね....手伝ってくださりありがとうございます。先程は手伝えなんて口走ってしまい申し訳ありません」
ゆったりとした雰囲気のメイドが深々と頭を下げて謝罪する。基本的にプルエアの屋敷にいるメイドは20代なのだが、そのメイドは更に若く見える。
「気にしないで。それだけ一生懸命やっていたって事でしょ? それよりも、私が調子悪い時も頑張ってくれてありがとう」
「お嬢様....」
怪我人を看病しながら通常業務をこなし、ワインの販売までを行う。口で言うのは簡単でもそれを完璧にこなすのは並大抵の精神力では乗り切れない。心身ともに疲労しているのたが、プルエアのその一言で疲れが吹き飛んだ。
「はい! これからも頑張らせて頂きます!!」
両手を握り頑張る決意をして木箱を片付けようとしたところで、プルエアの手が肩に乗せられる。
「でも、私に向かって手伝えって言った事は忘れてないから。明日から私も現場に出るから今日の数倍キツくなる事を忘れないで」
耳に口をそっと近づけて一人に聞こえるように静かに喋る。背筋が凍り付きゾクリと独特の電気のような感覚が駆け巡る。
「いや、でも....ストック含めてもうありませんよね? 寝かせなきゃワインになりませんし....」
「ワインはないよ。だから、別の物を売る」
「葡萄をそのまま売るんですか? たいして美味しくもない葡萄なんて売れますかね?」
「だいぶハッキリ言うね。ワイン用の葡萄なんて売らないよ? 他のものを売るの」
ニヤリと笑みを浮かべ一枚のメモ用紙をメイド達に渡して回る。
「明日からは一緒に来ていた子供達向けにジュースの販売とドライフルーツの販売を行う。必要な物や機材を書いといたから、農場や道具屋を回って買ってきてね」
メモを見て、その緻密さに息を飲み込む。一日中駆けて回ってやっと揃うような物ばかり書かれていた。
その中で一番積極的に話す大人びた雰囲気のメイドが恐る恐る口を開いた。
「あの? お嬢様? 一つ聞きたいことがあるんですが.... これって、いつから行うんですか?」
「ん? 明日」
その一言を聞いて瞬時に全てのメイド達が駆け出す。各々早馬に跨ると、必要なものを集めるべく馬に鞭を打つ。
ゴキュゴキュゴキュ
誰もいなくなった筈なのに、ワインをボトルのまま勢いよく喉に入れる音が聞こえてきた。
「ユエル、その服を着ているんだったらもう少しメイドらしく....」
「今回のメイド期間はプルエアさんが回復するまでって話だったので。それに、プルエアさんはこれから私たちについて来てください」
「ん? それってどう言う....」
要領を飲み込めず、首を傾げている間にプルエアの身体がフワッと持ち上がる。
「こう言う事。訳あって、貴族領に私の知り合いを入れたい。だけど、貴族領に入れる身分じゃないから、プルエアに保証人になって欲しい」
背後から急に現れたキノがプルエアの腰に手を回し、ヒョイと持ち上げたのだ。
「ちょっとキノ! そんな話聞いてないんだけど!?」
「今言った。それに、他のメイドは知ってる。じゃあ、そう言う事だから」
門に向かって目配せをすると勢いよく馬車が入ってきて、扉が開くとプルエアをその中に放り込む。ユエルもそれに続き、馬車に勢いよく乗り込み、扉を閉める。
「じゃあ、手筈通りに宜しく」
「はいはい。お任せください」
中の小窓からキノが打ち合わせていたように喋ると、猛烈な勢いで馬車が走り出した。
「ちょっと待ちなさいよ!! 私こんな格好なんだけど!! それに、明日の用意だって....」
「別に気にしない。それに、プルエア好みの可愛い子だから」
「え? 本当?」
その言葉に暴れていたプルエアの身体が一瞬だけおとなしくなる。
「プルエアさんって同性愛主義者なんですか?」
「いや、違う!! 違うからね!!」
無表情で疑いの目を向けるユエルを必死に慌てふためきながら否定する。
「そう。それは違う。ただ、可愛い子に自分では似合わないような服を着せて人形みたいに愛でるのをいつかしたいと思ってる危ない人」
「なんで知ってるの!?私の心でも覗いた!?」
いつも核心を突いてくるキノであればあり得ない話ではない。
「あれ? 適当に言っただけなのに当たっちゃった?」
見る見るうちにプルエアの顔が赤く染まっていき、まるで林檎のようだ。
「キノーーー!」
腹の底から出した爆音が馬車の中で鳴り響く。
そんなかんやで、賑やかな移動が始まった。中で暴れていたプルエアもようやく観念したのか借りてきた猫の様におとなしくなり、明後日の方向を向きながら溜息を吐いていた。




