第488話 口下手
第488話 口下手
「どうかした?」
「使い魔の一体が、急に動かなくなったんだよ。私の魔力配分がうまくいってなかったかな」
「なら魔力をあげて」
「送ってるけど動かない」
「なら、直接行くか」
エナとキノがしばらく進む。残りの2体の鹿も2人の横を固めるように歩いた。
すると、地面で横たわっている鹿が見えてきた。
「転んじゃったかな?おーい?」
手を大きく振るのだが、全く反応しない。死んだように横たわっていた。
「死んでる?」
「いや、もう死んでるから身体がグズグズになるまで動き続ける筈なんだけどな?」
さらっと怖い事を言い、鹿に近付く。
「寝てる?」
「いや、この子達は眠くならない....」
首を触り叩き起こそうとペチペチする。すると口から泡が溢れ出し、鹿の目の瞳孔も開いていた。
そしてすぐにエナが首に触れた手の先端が青く黒ずんでいき、目から血涙が出る。
「あれ?」
エナの視界が赤く染まり、異変を察知したキノがエナを担ぎその場から離れようとするのだが、エナが大きく首を叩いたせいか首の下に挟まれていた棒状の何かが抜け、紫色の爆煙が巻き起こる。
木の上に逃げ後ろを見ると下に残った鹿も倒れ次の瞬間にはキノの体も煙の中に入った。
それを待っていたかのように口元を水で濡らした布で覆った1人が手元の筒に息を吹き込む。
勢いよく発射された銀色の針がキノの体目掛けて飛んでいく。
「背後から飛んでくる何か止めて」
「はいよ」
口パクで悟られる事なく指示を出し、目立たぬように背後に触れた瞬間に外套の中に取り込み服の一部として包み込んだ。
吹き矢を放った者の位置は大体わかったものの、悟られる事なく木の上でエナを下ろし幹にもたれ掛けさせる。
「外れたか?」
しかし、キノが人差し指をエナから目線を外す事なく襲撃者へと向ける。
「はい、出す」
『おぇぇぇぇえ!』
まるでゲロを吐くのではないかと汚い声に引きつけられ身構えた頃には体の力は抜け地面に転がる。
体を動かそうと這いつくばった身体を動かそうとするもキノが木から飛び降り背中を短く整えた鍛錬黒刀で肺を貫通するまで突き刺した。
そのまま力無く地面に倒れ込む。
「体の痙攣と口から泡吹いてる。こういう効果」
『早く治療してやれよ?エナも毒針でやられてただろ?』
「急がない。針での毒なんて所詮大したことない。どうせなら毒そのものを沢山与える」
キノが口から紫色の息を吐き出す。すると、あちらこちらの物陰や木々の上から害虫のようにバタバタと黒いローブの集団が落ちてくるのだ。
辺りをよく見回すと、艾で小さな山を作り僅かに燻る火種が垂直に紫色の煙を上へと登らせていた。
「私が1番最初に植物から作った毒。身体を痺れさえるだけだけど、強さは洒落にならない。私とエナは小さい頃からこれで遊んで抗体がある」
最初に倒れた者が小さな小瓶を落とし、それをキノが拾うと、小さな注射器でエナに中身を注入した。
「キノが無理矢理私に嗅がせたりするからでしょ?」
「起きた?調子は?」
「最悪」
エナがキノの腕からのそりと起き上がり、ゆっくりと辺りを見回した。
『さっきのあれ、毒の抗体か?』
「そう。抗体のない自分たち以外を解毒するために持つ。交渉したいときただけ」
「この人達は何?」
「壁の外で生活してる元エルタネ国民。ベルみたいに他の国の追放者と徒党を組まないで偶に国から出てくる奴らの物を奪って生活してる略奪者共」
「好き勝手に言いやがって!!俺たちは何もしてないのに、俺たちの先祖がやらかしたからってなんで俺たちまで罪人扱いされなきゃいけないんだ!」
「言葉が通じる」
「当たり前だろ!!色々な国の文化が混じったレネゲイドと一緒にするなよ!」
最初にキノとエナを襲撃した男が流暢に地面に背中を付けながらも話し出す。
「自分たちの高潔な血を守るとか言って同じ国の奴らとしかコミュニティを形成しない。そんな頭に埃被った没落貴族共の末裔が何言ってる?」
キノがため息を吐きながら睨むと急に黙る。




