執行者の邂逅-3
初名乗り回です。
何かが引っかかった。
「イリス、念のため身体強化のレベルを上げてください」
「了解です」
念のために声をかけたが、イリスも気付いていたようだ。
私も少しだけ聖気の出力を上げる。
「てめぇら、やっちまえ!」
その言葉と共に、四方八方から男たちが武器を構え飛び出してくる。
「スレイプ」
言われなくても分かっていると言いたげに目線を寄越し、スレイプは足を緩めて停止する体制に入った。
それを見た男たちは、攻撃する姿勢を解いた。
「お? 分かってんじゃねぇかよぉ。そうそう、大人しくしてくれりゃ俺たちも何もしないからよぉ」
私はスレイプから降り、さっきから指示を出している男に歩み寄った。
「攻撃を止めて頂いたのは良い判断です。が、随分なご挨拶ですね。何か御用ですか?」
「強がってんじゃねぇぞ? この状況分かってんのかぁ?」
男は口調を強くしながら、脅しをかけるように私に言い放った。
同時に、私の周りに男の手下どもが集まってくる。
「団長。こいつ潰す前にヤっちゃってもいいすか?」
「おぉ? 生意気だから気付かなかったが、良く見りゃ結構上玉じゃねぇか。先俺な」
「えぇー団長ずるいっすよー」
「黙れ。つーわけで、今からお前は性処理玩具だ。たっぷり楽しませてやるよ」
男は下卑た笑いを浮かべながら、私に汚い手を伸ばしてくる。
「何もしないとおっしゃていたと思いますが、嘘は良くありませんね。それと、誰が触っていいと言いましたか?」
「がっ、いっつ………てめぇ何もんだ?」
「おや? 意識を落とそうと思ったのですが、意外とお強いようですね。加減しすぎましたか」
男の部下どもに動揺が走る。
それもそのはずだろう。私は動いていない。
ただ聖気の塊を圧縮したものを、目の前の男に向かってぶつけて弾き飛ばしただけだ。
それに気づいたのはぶつけられた本人のみ。
そもそも聖気は、原則として同じく聖気を解放している者にしか見えないもの。
何者だと尋ねたということは、今私がしたことを理解出来たということに他ならない。
団長と呼ばれた男は一般人ではないようですが、残りはただの盗賊のようですね。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ! 止めだ止めだ。お前、殺してやるよ」
男は慣れた手つきで懐からナイフを取り出した。
そのナイフを構えたままゆっくりと近づいてくる。
「知ってるか? 千年前の古代戦争時に神にかけられた呪いで、俺たち人間は直接人を殺せない。でもな、四肢を切断して放置すれば、嫌でもそいつは死んじまうんだぜ? 間接的には殺すことができるってわけだ。俺の言いたいこと分かるよなぁ?」
男はそこまで言うと足を止めた。
ナイフの射程圏内に入ったのだろう。
「分からないと言ったら?」
「この状況で態度が変わらないとは大したもんだ。教えてやるよ。今からお前がそうなる運命だってことをなぁ!」
地を蹴って飛びかかってくる。
勢いを乗せたまま男は右手のナイフで腕への切り付けを、左足で胴への蹴り上げを狙ってくる。
変則的な動きだがこなれている。自己流だとしたら大したものだ。
私は切り付けてくるナイフを、聖気を纏わせた左手で掴み粉砕する。勿論私自身に損傷はない。左足での蹴りは右腕で軽く弾いておいた。
この程度の蹴り、イリスの蹴りに比べれば虫が止まったようなものだ。
「なっ、くそ! てめぇら何ぼさっとしてやがる、一斉にかかれ!」
傍観していた男たちが動き出す。同様に武器を取り出し、襲い掛かってくる。
その攻撃はあまりにも遅かった。
所詮はただの一般人。
私は男たちの攻撃をただ躱す。指一本たりとも触れることは出来ない。
「もう我慢できません!」
適当にいなしていると聞き慣れた声がした。
「わざわざ出て来なくてもいいのですよ?」
怒りを露わにしているイリスだ。
「いつまでたっても呼んでくれないので自分から行きます!」
なるほど。確かに呼ぶつもりはなかった。ただでさえ過剰戦力だというのにイリスまで加わったら可哀想だ。
「あっちのが弱そうだな。よぉし、お前ら行け!」
その判断は実際正しい。だが、男たちとははっきりとした差が存在する。
次の瞬間には、襲い掛かった男たちは皆地に伏せていた。
「アリス様は傷つけないよう配慮しているようですが、私は甘くありませんよ」
「畜生!いったいあんたら何なんだ! 俺が、俺たちがこんな簡単にやられるなんて……」
「ふむ。私も聞きたいことがありますから教えてあげましょう――我が名はアリス。この世で唯一の、己の意思で人を殺すことが出来る存在。次代の執行者を担う者」
イリスが私の隣に立った。
「我が名はイリス。現執行者アリス様の使徒。我らを前で犯した罪、一生をかけて償ってもらう」
「し、執行者に使徒だとぉ! まさか本当に存在していたなんて……」
男の手からナイフが零れ落ちた。
敵わないと理解し観念したのか、男はそのままその場に膝を突いた。
「ええ本物です。では貴方方の身柄は拘束させて頂きます。イリス?」
「終わりました」
見ると男の手下たちはロープでぐるぐる巻きにされていた。流石仕事が早い。
「丁度王都へ向かうところでしたから、一緒に連れて行きますか。ちょっと重くなりますが、スレイプ大丈夫ですか?」
当然だ、とスレイプは鼻を鳴らした。
「では行きますか。そこの男たちと、団長さんでしたっけ? も含めて荷台に。あ、シルクは私の後ろに乗ってくださいね」
「いいんですか? やった!」
嬉しそうにその場で跳ねる。ここだけ見ればただの女の子のようだ。
「どさくさに紛れて変なとこ触らないでくださいよ?」
「はっその手が……」
「イリスは荷台がいいみたいですね」
「ごめんなさいごめんなさい! 何もしませんから!」
「ふふ」
背にイリスの存在を感じながら、私たちは再び王都を目指すのだった。




