49.遊び歌
ド・ド・ドはなんの音? ドアを叩くよ ド・ド・ド
レ・レ・レはなんの音? レンゲのお花が レ・レ・レ
ミ・ミ・ミはなんの音? 三毛猫赤ちゃん ミ・ミ・ミ
ファ・ファ・ファはなんの音? ふあふあ綿菓子 ファ・ファ・ファ
ソ・ソ・ソはなんの音? そよ風そよそよ ソ・ソ・ソ
ラ・ラ・ラはなんの音? ランドセル背負って ラ・ラ・ラ
シ・シ・シはなんの音? しまうま笑った シ・シ・シ
ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ 楽しい楽しいお歌♪
子供の頃におばあちゃんと一緒に作った、思い出深い『遊び歌』。
銀に輝く私の髪を見ても、怖がる子は一人もいなかった。
ある子は体を横に振って。
ある子は口を小さく動かして。
ある子は目をキラキラさせて私の歌を聴いてくれた。
歌い終わってすぐに、ひとりの子が立ち上がって大きな声で言う。
「もう一回歌って! 私も歌いたい!」
その隣にいた子も同じように立ち上がる。
「ぼくもー!」
「歌ってー!」
そんな皆の声が胸にじんと響く。
歌を知ってもらいたいという私の思いがちゃんと伝わっている。
ラウト君もお父さんの隣でジャンプしながら「もう一回! もう一回!」と手を振っていた。
「カノンさん、もう一度お願いします」
ライゼちゃんの優しい声が聞こえて、少し離れたところに立っているセリーンが目を細め頷いた。
「うん! じゃあ、今度はみんなも一緒に歌おう!」
私が笑顔で言うと、とびきりの笑顔が一斉に返ってきた。
「あ、そうだ。綿菓子っていうのは、甘くてふわふわなお菓子のことでね」
この世界にはおそらく綿菓子は無いだろうと思って説明していく私。
でも子供たちの笑顔がそこで急に途切れてしまった。
あれ、と思っていると背後から小さく声がかかった。
「カノンさん」
「え?」
ライゼちゃんが言いにくそうに続ける。
「この子達はお菓子をほとんど食べたことがありません」
(あ……)
高揚して熱くなった心に、冷たい水滴が落ちるような感覚。
子供たちは私の次の言葉をじっと待っている。
普通の食事も満足に出来ていないだろうこの子たちに、甘いお菓子のことを説明しようとするなんて……。
罪悪感で頭が真っ白になりかけた、そのときだった。
「皆で、『ファ』が付くものを考えてはどうでしょう」
そう声を上げたのはブライト君だった。
「例えば、ファルシェ、ですとか……」
「ファルシェ?」
私が訊くと、皆の注目を一斉に集めたブライト君が焦ったように答えた。
「ここよりも北にある村の名です」
「私もファルシェが良いと思います! ……あ、でも変えてしまってはまずいでしょうか」
ライゼちゃんが不安そうに私を見る。
私は大きく首を振った。
「ううん。私も賛成! じゃあ、『ファ』はファルシェにしよう!」
すると再び皆に笑顔が戻った。
ブライト君もホッとしたような顔だ。
(ブライト君にあとでお礼言わなきゃ)
それから皆で話し合い、この世界風にアレンジした新しい遊び歌が出来上がった。
『レ』はこの世界の名である「レヴール」。
そして『ラ』は満場一致で「ライゼ様」に決定。
当のライゼちゃんは頬を染め、でも嬉しそうに微笑んでいた。
そして、私たちは皆で作ったその歌を歌い始めた。
ド・ド・ドはなんの音? ドアを叩くよ ド・ド・ド
レ・レ・レはなんの音? レヴールのお花が レ・レ・レ
ミ・ミ・ミはなんの音? 三毛猫赤ちゃん ミ・ミ・ミ
ファ・ファ・ファはなんの音? ファルシェの皆が ファ・ファ・ファ
ソ・ソ・ソはなんの音? そよ風そよそよ ソ・ソ・ソ
ラ・ラ・ラはなんの音? ライゼ様歌うよ ラ・ラ・ラ
シ・シ・シはなんの音? しまうま笑った シ・シ・シ
ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ 楽しい楽しいお歌♪
――フェルクレールトの空に、私と子供たちの歌声が響いていく。
不思議と、皆初めての歌とは思えないほどに息ピッタリだった。
それから繰り返し繰り返し、一体何回歌っただろう。
空の色が濃くなるまで私達は夢中で歌い続けた。
「そろそろ時間だ」、というヴィルトさんの声が無ければそのまま夜になっていたかもしれない。
歌い終えた後の、何ともいえない高揚した皆の顔を、私はきっと一生忘れないだろう。
最初見たときの表情とはまるで違う。それほど、皆良い顔をしていた。
「じゃあね、お姉ちゃん!」
「また一緒に歌おうね!」
「絶対だよー!」
口々に言いながら、子供たちはブライト君に連れられ帰っていく。
私は見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
子供たちの影が完全に見えなくなって、私はふぅと息を吐く。
と同時、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。
「カノン!?」
「カノンさん!?」
セリーン達が驚いたように駆け寄ってきてくれる。
「だ、大丈夫。ちょっと気が抜けただけだから」
昨夜少しコツを掴んだとは言え、流石に歌い過ぎたかもしれない。
でもどちらかというと、無事に終わってよかったという安堵感の方が大きかった。
セリーンに起こしてもらうと、そんな私にライゼちゃんは言った。
「カノンさん、ありがとうございました。私の思った通りでした。いえ、それ以上です。本当に、本当にありがとうございました!」
その赤い瞳が涙で潤んでいた。




