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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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39/60

第39話 市場を読んだだけです

「資料の存在は否定しません」


 天城セイジは、最初にそう言った。


 コメント欄が一瞬、混乱した。


 否定しないのかよ

 認めた?

 終わりじゃん

 開き直り?

 何言うつもりだ


 天城は、画面の向こうで静かに続ける。


「白河レナは、多くの人に愛された探索者でした。彼女の死によって、悲しむ人がいた。形を求める人がいた。声を求める人がいた。思い出を手元に置きたい人がいた」


 久我は黙って聞いていた。


「人は、悲しみに形が欲しいのです」


 天城の声は、やわらかかった。


 それが余計に気持ち悪い。


「形が欲しいから、アクリルスタンドを買う。声が欲しいから、AI音声を聴く。物語が欲しいから、彼女の死を伝説と呼ぶ」


 コメント欄が荒れる。


 詭弁

 黙れ

 でも買った

 それはそうだけど違う

 違うって何が?

 悲しみに形が欲しいのは分かるのが嫌

 買った側を盾にするな


 天城は、少しだけ目を細めた。


「君たちは、泣きながら買った」


 部屋の空気が止まった。


 ナツが、息を止める音がした。


 ハルカが、低く舌打ちした。


 天城は続けた。


「私は、売れるものを用意しただけだ」


 コメント欄が、また止まった。


 今度は、さっきより長かった。


 嘘だけなら、切り捨てられた。


 そこに少しだけ本当が混じっているから、最悪だった。


「白河レナを商品にしたのは私だけですか。追悼配信を見たのは誰ですか。AIボイスカードを予約したのは誰ですか。限定アーカイブを再生したのは誰ですか。彼女の最後を、神回と呼んだのは誰ですか」


 久我は、右画面を見ていた。


 天城は逃げていない。


 むしろ、視聴者の中へ踏み込んでいる。


「私は市場を作っていません。市場を読んだだけです」


 ナツが小さく言った。


「最悪なのに、刺してくる」


 久我はマイクを入れた。


「白河レナは死亡していません」


 天城は、少しだけ笑った。


「未帰還、だったね」


「あなたは知っていた」


「君がそう主張している」


「死亡後三年間の収益予測を作った時点で、死亡処理を前提にしていた」


「企業は複数の事態を想定するものだ」


「事故前にAIボイスカードの販売候補が確定している」


「大型探索者には、万一の時の準備がある」


「本人の本当の声を消して、AI音声を売った」


 天城は、初めて少し黙った。


 久我は続けた。


「白河レナは、まだ帰れていません」


 天城の表情は変わらなかった。


「久我くん。君は、まだ人間を信じすぎている」


「ログを信じています」


「人間はログでできていない。物語でできている。彼女は、もう多くの人の中で死んでいる。泣かれ、買われ、祈られ、保存された。君がどれだけログを出しても、その事実は消えない」


 久我は返事をしなかった。


 天城は画面の向こうで、静かに言った。


「君は彼女を帰したい。私は彼女を残したい。それだけの違いだ」


「帰還不能を保存とは言いません」


「だが、保存されたものは売れる」


 配信画面のコメント欄は、怒りと沈黙が混ざっていた。


 天城、言ってること最悪なのに刺してくる

 泣きながら買ったのは事実だからきつい

 買った側を盾にするな

 でも買ったのは俺たちなんだよな

 悲しみに形が欲しいって言葉だけは分かるのが嫌

 レナを商品にしたのは企業だけじゃないのかもしれない

 だからって死亡処理していいわけない

 そこを混ぜるな

 天城、悪魔より人間っぽいから嫌だ


 天城の配信は、そこで一度切れた。


 逃げたのではない。


 必要な言葉だけを置いて、引いた。


 久我は、右画面を閉じた。


 その直後、別の通知が来た。


 探索者支援飲料メーカー、RENA MEMORY PROJECT連動広告の一時停止を発表。


 続けて、もう一つ。


 通信会社、危機管理条項に基づき、AIボイスカード共同キャンペーン契約の解除を発表。


 ナツが画面を見た。


「効いてる」


「はい」


「でも、勝った感じはしない」


「はい」


 ナツは、自分の端末を見た。


「私、買わなかった側の顔できない」


 画面には、削除できずに残していた追悼配信のサムネイルがあった。


「資料は出した。あいつ最低。なのに、こっちも殴られた感じがする」


「はい」


 ハルカが言った。


「あいつは、死体を売った。視聴者は、売られたものを買った。罪の重さは同じじゃない。でも、無関係でもない」


 久我は配信画面を見た。


 数字は上がっている。


 同時接続者数、百三十万人。


 怒りも、嫌悪も、自己嫌悪も、全部が数字になっていた。


 久我は、その数字を保存した。


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