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S級探索者を死なせた男と呼ばれた俺だけが、彼女の生存ログを見つけてしまった  作者:


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22/59

第22話 善意で埋めてる

 天城セイジの生配信は、その日の二十一時に始まった。


 タイトルは、美しかった。


 白河レナという物語を、私たちはどう受け継ぐか。


 ナツが画面を見て、低く言った。


「死んだ人の声を売る前に、本人が帰ってないか確認してほしいんだけど」


 久我は配信を録画した。


 天城は白い背景の前に座っていた。


 追悼配信よりも柔らかい照明。

 企業会見よりも近い距離。

 視聴者に語りかける角度。


「探索者は、命を賭けて物語を作ります」


 天城は静かに言った。


「私たちは、その物語に勇気をもらい、涙し、ときに自分の人生を重ねます」


 コメント欄は流れていた。


 分かる

 レナ様はそうだった

 泣いた

 まだ信じられない

 天城さんもつらいよな


「白河レナは、その最も美しい到達点でした」


 久我のマウスを持つ手に、力が入った。


「彼女は最後まで仲間を帰した。自分の帰還より、他者の生存を選んだ。その姿を、私たちは忘れてはいけない」


 言葉は正しい。


 だから、腹が立った。


 久我は天城の発言を、一文ごとに切った。


 泣ける。

 語れる。

 買える。


 その三語だけ、別ファイルにした。


 怒りは、保存形式になった。


「彼女の帰還を願うことと、彼女の物語を守ることは、矛盾しません」


 コメント欄が割れ始めた。


 美しい

 レナ様は伝説になった

 死を無駄にしないってこういうことだよな

 勝手に完成させるな

 伝説より先にログ出せ

 レナ様って呼びながら本人置き去りにするな


 天城は、反発も含めて読んでいるようだった。


 揺れない。


「今日だけは、彼女を疑惑ではなく、記憶で語りませんか」


 天城は、そこで初めて少しだけ声を柔らかくした。


「あなたが覚えている白河レナを、コメントに残してください。彼女がどれだけ多くの人を帰してきたのか。それを、今夜だけは一緒に残したい」


 コメント欄の速度が変わった。


 初配信から見てました

 中層で新人助けた回、今でも覚えてる

 レナ様のおかげで探索者目指しました

 全員生還率100%って言葉に何度も救われた

 ありがとう

 忘れません

 あなたは私の英雄です


 善意だった。


 泣いている人間もいる。

 救われた人間もいる。

 白河レナを本気で好きだった人間もいる。


 だからこそ、久我は画面を見ていられなかった。


 彼女は、まだ帰れていない。


 それなのに、コメント欄は彼女を過去形にしていく。


 ありがとう。

 忘れません。

 英雄。


 一つ一つは優しい言葉だった。


 その優しさが、棺の蓋のように重なっていく。


 ナツが、低い声で言った。


「善意で埋めてる」


 久我は答えなかった。


 天城は言った。


「人はいつか死にます。けれど、物語は死なない」


 ナツが小さく言った。


「違う」


 久我は画面を見た。


「レナは、物語になりたくて探索者やってたんじゃない」


 ナツの声は震えていた。


「帰りたかったんだよ」


 久我は、録画の保存先を確認した。


 敵は企業だけではない。


 天城だけでもない。


 白河レナの死を、美しいと感じたがる視聴者の欲望。

 泣きたい人間。

 語りたい人間。

 伝説にしたい人間。


 そして、悪意ではなく善意で彼女を過去形にしてしまう人間たち。


 それも、彼女を帰さない力になる。


     *


 ナツが実験映像の本体を見つけたのは、深夜二時だった。


 馬場の記録媒体に入っていた映像は、途中で破損していた。


 ナツは画面に古い研修ページを出した。


 動画本体は削除済み。

 だが、一覧ページのサムネイルだけが残っていた。


 サムネイル右下に、白く潰れた管理番号。


 ナツが拡大する。


 RAS47X_TEST_0419。


 馬場の断片映像に映っていた保存番号と、末尾が一致した。


「出た」


 ナツの声は、眠気でかすれていた。


「メイズリンクの旧研修用ストレージ。権限ミスでサムネだけ残ってた。そこから動画ID拾えた」


「違法アクセスは」


「してない。落ちてたゴミを拾った。ネットの道端に」


「道端に企業の欠陥映像を落とさないでほしいですね」


「冷蔵庫が怒ってる」


 映像は、事務的だった。


 メイズリンク社の実験室。

 白い床。

 灰色の壁。

 安全確認用の固定カメラ。


 中央に、帰還補助装置を装着した試験探索者が立っている。


 字幕。


 RAS-47X 正常帰還テスト

 条件:深層環境模擬

 予備認証回線切替負荷あり


 画面右上に、日付。

 白河レナの大型配信より二十日前。


 試験探索者がゲートへ歩く。


 白い光が開く。


 その足が、一瞬止まる。


 試験探索者は、ゲートの前で半歩だけ足を引いた。


 白河レナと同じだった。

 羽村サキと同じだった。


 帰れる人間だけがする迷いではなかった。


「レナも、ここで止まった」


 ナツの声は、もう軽くなかった。


 モニターに表示が出る。


 未登録番号。

 未定義転送先。

 外部参照エラー。


 次の瞬間、試験探索者の姿が消えた。


 実験室側のスタッフが立ち上がる。


『転送先、違うぞ』

『戻せ』

『座標取れません』

『生体は?』

『微弱、出てます』

『記録止めろ』


 映像は止まらない。


 固定カメラだからだ。


 画面端には、ホワイトボードが映っていた。


 そこに、青いペンで書かれている。


 再現率低。

 営業判断で保留。

 報告不要。


 ナツは、声を出さなかった。


 ハルカが、画面を見て短く言った。


「終わりだな」


「メイズリンクが?」


「安全神話が」


 ハルカは、止まった画面の端を見た。


「飛ばす。死んだことにする。遺体が合わなければ、別の遺体で帳尻を合わせる。よくできた手順だ」


 ナツが何も言わなくなった。


 久我は映像を複製した。


 その映像だけは、説明がいらなかった。


 人が歩く。

 止まる。

 番号が違う。

 消える。

 画面端に、報告不要。


 それだけで足りる。


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