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病弱王子は私の魔力から離れられない  作者: たんぽぽ


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01 出会い

新しく連載を始めました。キリの良い15話まで、毎日更新の予定です。

よろしくお願い致します!

 静寂の夜闇の中、赤い炎が火花を撒き散らしながら屋敷に燃え広がる。

 大柄な男がベッドの上で彼の身体にのしかかり、手に持つ鋭いナイフを振り下ろした。

 銀色の光の軌跡が彼の胸元に吸い込まれる。

 押さえつけられた彼の小さな身体が、痛みに悲鳴も出せずにビクンと跳ねた。

 私は全力で駆け出し、彼と男の間に体を滑り込ませる。庇うつもりで、彼の小さな身体をぎゅっと抱きしめた。


***


「こちらは、第三王子ミハイル•クリスナリス殿下であらせられます。お休みいただきたいので、取り急ぎお部屋へお連れしてもよろしいでしょうか」


 私、エリシア•ケイフォードが5歳の頃、金色の髪の王子様が我が家にやって来た。

 護衛騎士に抱かれ、彼の肩に頭を寄りかからせて目を閉じぐったりしている。私と同じ歳の身体の小さい王子様。     

遠い王都から母上である王妃様の転移魔法でここにやって来たらしい。

 いつもなら、のどかなで穏やかなお屋敷をバタバタと使用人達が走り回り、王子様と護衛騎士をお部屋へと連れて行った。


 「お母さま。第三王子殿下はぐあいが悪いの?」

 「エリー。殿下はね、魔力過多症というご病気なのよ。ご病気の殿下が、辺境の我が家でゆっくり過ごすためにいらっしゃったの。エリーも殿下がお休みできるよう協力してね」


 第三王子殿下は、王都よりものどかで自然の多いこのケイフォード辺境伯領で、ゆっくりと病気の身体を休めるためにやって来たらしい。


 「こんな辺境より、王都の方が良いお医者さんやお薬があるんじゃないの?」

 「殿下のご病気『魔力過多症』は子供の体には多すぎる魔力のせいで、具合が悪くなるご病気よ。成長して体が大きくなるまではどうすることもできないの」


 私は、護衛騎士と殿下が向かった廊下の先を見つめた。


***

 

 「お母さま。私、殿下のお見舞いをしていい?」


 翌日、私はお母さまに思いついたことを相談した。


 「エリー、どうしてお見舞いをしたいと思ったの?昨日も見たとおり、殿下はとても具合が悪くて一緒には遊べないわよ」

 「わかっているわ。ぐあいが悪くて大変そうだから、付き添っていてあげたいの。ぐあいが悪い時はさびしくなるでしょ」

 「護衛騎士のケビンさんと殿下に聞いて、いいよと言われたらいいわよ。エリーが側にいたら落ち着かなくて休めないかもしれませんからね」

 「はあい」


 私がお熱が出た時は、熱くてだるくて悲しいし、一人の時はさみしくなる。殿下はあんなにぐったりしていて、辛くてさみしいのでは、と思った。


 殿下が休んでいるお部屋の前には、ケイフォード家の騎士が二人いた。護衛騎士のケビンさんがお部屋の中にいるようなので呼んでもらった。


 「エリシア様ですね。どうされましたか」


 ケビンさんは片膝をついて目線を合わせ、優しく聞いてくれる。


 「殿下のお見舞いをしたいと思ったんですが、殿下の横に付き添っていていいですか?」


 ケビンさんはニコリと笑った。柔らかそうな茶色の髪に銀色の目を細めた、優しい笑みだ。


 「一緒に部屋の中に入って、ミハイル殿下に聞いてみましょうか」


 ケビンさんの後ろについて、そっと殿下のお部屋に入る。

 窓際の方から苦しそうな呼吸が聞こえた。


 殿下は、ベッドに横たわり苦しげに息をしていた。熱があるのか頬は赤く、額は濡れたタオルで冷やされている。


 「殿下は魔力過多症というご病気で、常にこのような状態なのです」

 「いつもお熱があるのですか?」

 「そうですね。いつも熱があって、頭が痛くて、気持ち悪いそうです」


 私は、殿下の顔に頭を寄せて小さな声で話しかける。


 「殿下。私はケイフォード家の娘、エリシアと申します。ここで殿下のそばにいてもいいですか?」


 殿下は、目を瞑ったままわずかにこくりと頷いた。


 「私がお熱のときは、お母さまが手をにぎってくれるんです。殿下の手をにぎってもいいですか?」


 殿下はまた、小さくこくりと頷いた。

 

 私は、殿下の額のタオルを取ってお顔の汗を拭いて、手元にあった桶の中の冷たい水でタオルを冷やし、また額に置き直す。

 そして、ベッドの横の椅子に座って、熱くて汗ばんでいる殿下の手をそっと握った。その手は弱々しくきゅっと握り返された。


 「……あ! ケビンさん。そういえば私、少し癒しの魔法がつかえるんです。殿下に魔法をかけてみたら少し楽になるかもしれないんですが、つかってみていいですか?」

 「エリシア様は癒しの魔力を持っていらっしゃるのですか……! それではお願いできますか?」

 「殿下。殿下に癒しの魔法をつかってみていいですか?」


 小さく、こくりと頷かれる。

 

 実は、癒しの魔法は小さなすり傷を治すくらいしか使ったことはないのだが、具合が悪いのにも少しは効くと思うし、失敗しても特に殿下の身体に悪いことは無いはずだ。

 

 ようし! 私は気合いを入れた。

 とても苦しそうな殿下を、ちょっとでも楽にしてあげるぞ!


 椅子から立ち上がって、苦しそうに上下する殿下の胸の辺りにそっと両手を乗せる。

 大きく息を吸い込み、身体中の魔力を両手に集めるように意識する。

 そして、思いっきり魔力を解放した。


 同時に視界も暗転した。


***


 目が覚めたら、自分のお部屋のベッドの上だった。


 「エリー、目が覚めた?」


 お母さまが私の顔を覗き込んでくる。


 「あなた、殿下に癒しの魔法を使ったんですってね。加減をせずに使ったから、体力が尽きて目を回して倒れたのよ」


 呆れ顔でお母さまが状況を説明してくれる。

 魔法は、魔力を使って魔法をかけると、同時に体力も消耗する。目の前の殿下の様子に、気合いを入れ過ぎてしまったようだ。


 失敗した。

 具合の悪い殿下の前で逆に倒れるなんて、迷惑をかけた。

 殿下を楽にしてあげたかったのに、上手くいかなかった。


 恥ずかしくて悔しくて、涙が込み上げてくる。


「殿下の具合を良くして差しあげたかったのでしょう?」


 口元をわななかせて涙を堪えている私に、母上が抱きしめて優しく頭をなでてくれる。


 「次に殿下の所に行く前に、一緒に魔法の練習をしましょうね」

 「……はい! 殿下にごめいわくをかけないように、元気になってもらえるように。魔法、れんしゅうします……っ!」


 一晩寝たら体力は回復するので、翌日、朝からお母さまと魔法の練習をした。

 昨日は、いきなり全力で魔法を使ってしまったから力尽きたのだ。

 ちょっとずつ、ちょっとずつ、魔力を流して魔法を使う。

 体力の残りに気をつけて、心配だったら一度魔法を止めて、身体を動かしてみる。


 「魔法は、体力ギリギリまで使うと魔力が強くなるのよ。そうすると、もっと強い魔法が使えるようになるわ。殿下に使ってあげたかったら、遠慮せずにどんどん使って差し上げてね」


 お母さまが、殿下にいっぱい魔法を使っていいよとお墨付きをくれる。

 今日はたくさん魔法の練習をしたからあまり体力が残っていないけど、お見舞いに行って殿下を見たら絶対癒しの魔法を使いたくなる。

 今日のお見舞いはお休みし、明日、気合いを入れて殿下のお部屋に行くことにした。

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