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コウが最前線へ戻ってから、1ヶ月もしない内に、大戦は終了してしまった。
あっけない程だった。
でも、コウは帰ってこなかった。
風の噂で、終了直前に航空部隊が特攻をかけたことを知った。
それなのに、戦死の報告はいつまで経っても来なかった。
半年が過ぎ、一年が過ぎた。
誰もが諦めた。
わたしは頑固だから、そんな器用なことはできなかった。
草の匂いがどんどん強くなって、土の匂いまでわきたってくる。
温かいから、暑いに変わっていく季節。
だから、最初は蜃気楼かと思った。
そんなはずないのに。
今までメガネをかけたコウなんてみたことないはずなのに。
駆けつけて、その胸へ飛び込めば、戸惑ったように肩へ手をかけられた。
抱きしめてはくれないんだ。
ううん、生きて戻ってきてくれただけで、十分だね。
興奮が過ぎれば、浮かび上がる違和感。
コウは色を失っていた。
そのせいで、最後の任務からはずされた。
トップクラスの彼が。
なのに、わたしを絶対責めなかった。
責められないのもつらいんだよ、コウ。
泣くわけにはいかない、泣きたいのはきっとコウの方だ。
帰ってきた当初はぎこちなかった雰囲気も、やっと落ち着いてきた。
二人は昔の幼馴染み戻ってしまったけれど、コウが幸せならそれでいい。
でも、わかってる。
コウは戻りたいんだよね、空の彼方へ。
折れてしまっても、そのツバサはまだ、にぶい光を放つ。
いつもの丘で見上げた空に、コウは何を見ているのか。
□ □ □
何気ない日常、幸せな風景。
欠けているのは、二人の関係。
もうすぐ4歳になる娘は、早く生まれてしまったために他の子よりも成長がおそいのが心配だけれど、元気に走り回る姿はまぶしいくらい。
たまに顔を出すと、しぶしぶ遊んでくれるコウが大好きで、引き離す時はいつも大騒ぎ。
でも、この子がいなければすぐに帰ってしまう。
二人きりになりたくないなら、来なければいいのに。
そう思っても、少しでも顔をみたいわたしは言い出せない。
もしかしたら、向こうで恋人がいたのかな?
そうなら、どうして会いに行かないの?その人も会いに来ないの?
会いたくても会えないの?
夜はきらい。
あの子が眠ってしまうと、本当に静かで、グルグル考えてしまうから。
聞きたくても聞けない。
今のささやかな幸せがなくなってしまったら、多分わたしの心は死んでしまう。
いつものように、胸の中で涙を流した。