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戦が始まった時に、わたしたちはうまれた。
だから、まだ、今の平和な状況に馴染めてはいない。
ぴんっと張り詰めた空気、わずかな食料、質素な服。
警報が鳴り響けば、子供たちでさえ、さっとシェルターへ非難する。
慣れてしまっていた。
年を経るごとに、不安の涙は枯れていった。
だから、男の子は徴兵される前から、志願して入隊していった。
女の子は残った全ての仕事をこなしていった。
便りが来るのは月に一度、訓練中の一時帰省は年に2度、2週間に1度は15分の電話も許されていた。
コウは3度目の帰省のとき、笑って戦地への配属を告げた。
それまでは、訓練中の笑い話、トップクラスパイロットの英雄談、自分が同期の中でいかに優秀なのかの自慢話ばかりで、しゃべりっぱなしで。
得意気に最年少で配属だと語る彼の言葉は、いつもより少なかった。
毎日伝えられる戦況は、航空部隊の連勝を伝え、やがてコウはヤタガラスと二つ名をつけられるほどの実力者となっていった。
ほんとに、優秀だったんだ。
どこか冷静に喜んだ自分がいた。
でも、ずっと祈り続けていた。
不吉な二つ名におびえて。
もし、神様がいるのなら、コウを使者として連れて行かないで。
□ □ □
ある日突然、コウはいきなり帰ってきた。
皆は、驚きながらも英雄の帰還を歓迎した。
もちろん、わたしも喜んだ。
久しぶりに会った幼馴染みは、立派な青年になっていた。
でも、その表情は不吉な考えを呼び起こすのに十分だった。
彼はまた戦場へ戻るのだ。
そして、もう帰ってくることはない。
軍からの粋な冥途への土産が今回の帰省。
残された時間は2週間。
周りに冷やかされながら、何気ない日常を過ごす。
彼の背中に見える幻を見ない振りして。
こっそり抜け出した丘の上。
二人でよく遊んだこの丘は、地上よりも美しい空が見渡せた。
満点の夜空をかすませる月を見上げ、草の香りに包まれる。
泣きたくなるのは、あるはずのないツバサが見えてしまうからだろうか。
何度も何度も確かめたはずなに。
濡れ羽色の流線型のツバサは、彼方へと誘ってしまう。
鳴り響く警報、月を横切る無粋な羽虫のように迫る影。
わたしの手を引いて駆け出す、その背中を必死で追いかける。
シェルターへ駆け込む直前、包まれた衝撃。
こめかみから流れ落ちた血が抱え込まれたわたしの額を濡らした。
包帯をまいたコウは、こんなのは日常茶飯事だとウィンクして戻ってしまった。
最後までちゃんと泣かずに見送れたかな?
続きます。




