第68話 約束
「あなた達!! 教会敷地内で何してるの!!」
遠くからこちらに向かって叫んでいる女性の声した。
オレンジ色の長い髪を結わいて周りの騎士と同じ青いコートに白地の入ったスカートが揺れる。
紋様の入った盾を他の騎士達と同じように背負って腰に直剣を差しているがどこか手練れ感があった。
安堵するようにリィナ。
「キャロル!」
あの時クロラックのお店で聞いた名の騎士だ。
そしてシルベスは舌打ちをして呟いた。
「っち、キャロル副団長か」
近づいてきたキャロル副団長とやらはシルベスが真っ先に事の原因だとわかっているように怒る。
「シルベス!! またあんたは何かやらかして!! ここは出禁だったのではありませんか?」
そこでシルベスは堪えるようにさっと剣をしまってキャロルに向き直る。
「申し訳ございませんキャロル副団長。警備巡回がてら教会の様子を見に来ておりました」
「まったく……で、あなたたちは?」
ギロリとシルベスの周りにいる騎士へと視線を向けるキャロル。
とてもばつが悪そうに俯いている騎士達。
まるでヘビににらまれたカエルのように縮こまってしまっている。
「はぁ……いいわ。下がりなさい」
「ですが!! こいつとの決闘が!!」
「決闘も結構ですが……ここは神聖なルクスリア教会です。我々が守護するべき場所で血を流すことは許されないわ。あなたはもっと常識を学びなさい」
「っく……はい。私が浅はかでありました。処遇はいかようにでも。任務に戻ります」
「ええ、そうして頂戴」
そう言い残すが俺に近づき言い残す。
「絶対に認めないからな」
それからシルベスは俺をずっと睨みながら騎士達を連れてここを後にするのだった。
そして騎士達が見えなくなるのを見届けてからキャロルは突然リィナに抱き着くのだった。
「リィナぁぁあああ!!」
「うわ!! ちょ、ちょっとキャロル!」
「無事でよかったぁああああああ!!」
先ほどまでの副団長と呼ばれていた威厳はどこかへと消え去りキャロルは涙ぐみながらリィナを抱きしめる。
「みんな……みんな死んじゃって大変で……リィナもいないし故郷に帰ったって聞いたと思ったら反乱が起きてるしアメリア領が占拠されたかもしれないって噂が出て……先発隊に名乗りをあげたけど鎮圧されたって聞いて、でもずっと、ずっと心配だったぁああああ!!」
「心配を……かけちゃったね。ありがとうキャロル」
「よかったぁああ!!」
どうやらこの泣きじゃくっている副団長はリィナの気の許せる友達のようだ。
一通りリィナを抱きしめたところでキャロル。
「でもまさか……シルベスがここに来ていたなんてね……付いている私の教え子がちゃんとシルベスがルクスリア教会で揉め事を起こしてるって知らせてくれて本当に良かった」
「本当にキャロルが来てくれて助かりました」
キャロルは我に返ったようにこちらへと向き直りお辞儀する。
「おほん……すみません。大変お見苦しいところお見せしてしまいました。私はレラデラン騎士団の副団長を勤めているキャロル・イル・ジュベールです。あなた方は……もしかしてリィナとパーティを組んでいらっしゃる方々ですか?」
さっきと今の温度さが乱高下しててとても不思議な人だ。
そんな彼女に呆気に取られる。
「あ、ああ。俺はカタナシ ソラです。でこっちは」
「ロイ・アー……ニャーと申しますにゃ」
ザンカは何故かシルベスが去っていった方をぼーっと見ていたので俺が紹介する。
「それでこの半裸の男が……」
「ん? ああ。俺はケンジョウ ザンカってんだ。ザンカでいいよ」
「ソラ様にニャー様、ザンカ様ですね。見るに……リィナをここまで守ってくださったことだと思います。改めてお礼を……ありがとうございます!」
「お、おう……」
「しかし、この度はご迷惑をおかけしてすみませんでした。貴族であるからといって騎士団での横暴は許されないことに違いはありません。私からあとで言って聞かせます」
「まあ、そうしてもらえるとたすかりますが。俺も妙に乗っちゃって申し訳ないと思ってます」
するとそこへリィナ。
「今なら……キャロル。お話があるのですがいいですか?」
「ん? いいよ。お話って?」
リィナは周囲を見渡して誰もいないことを確認してから続けた。
「ソラさんを騎士として任命したいのですが────」
リィナにとってキャロルはどうやらとても信用のおける間柄のようで、ここまでの経緯を話す。
俺のことを話すときは俺の目を見ていいかどうか聞いてから話してくれている。
「ゆ?! ゆう────ソラ様が……」
驚いて大声で言いそうになる口をキャロルは抑えた。
「わかったわ。それなら騎士の任命の手続きがスムーズにできるようにしておくわね」
「え? ありがとう……でもキャロルはいいの?」
「いいも何も……確かにあんな約束をしたけど、あなたの隣は私じゃダメかな。私はジュベール家の後継でもあるし……国は出られない。いざとなったらリィナの力にはなりたいけどね」
「キャロル……」
「そんな顔をしない! あなたが認めた方ならきっと良いように向くわ。確かに私があなたを守るって言ったけどそれはどこでだってできるもの」
「それと、このことは……」
「極秘事項……でしょ? マリィ王女様って相当なキレ者って噂だもん何かを始めるのかもしれないわね。まったくとんでもない話を聞いちゃったわ」
「ごめんね。いつも助けてもらっちゃって」
そしてキャロルは首を横に振り答える。
「頼ってくれてうれしいよ。それじゃ私は行くね。仕事ほっぽり出してあのバカを止めに来たからもう疲れたわ……」
「ありがとうね! また会いに行く」
「うん。待ってるよ」
それからキャロルは俺の胸に右手をグーにしてコツンっと叩いた。
「頼むわね」
「ああ、任せておけ」
これまでもそうだがリィナの周りには優しい人で溢れている。
そんな優しい人達があの戦で傷ついてもしかしたら死んでいったのかもしれないと思うと心が痛い。
そしてキャロルを見送ってリィナは俺の後ろから羽織を掴んで小声で言うのだった。
「私……ソラさんが死んじゃうのは……許しませんからね」
きっとシルベスとの決闘の時の話だろう。
リィナの震える右手が羽織を通して伝わる。
「大丈夫。あれはもしもの時だよ。それに勇者がそう簡単に死んでたまるものか」
「もしも……でもあまり考えたくはないですよ……葉っぱ一枚で戦ってますもんね……」
「あはは……そうだなぁ」
結局のところ何をするでもなく一日は過ぎ去り教会の外へと出るのはさすがにリスクがあるため議会の当日まではおとなしくしていようと言うことになった。
リィナは教会のお手伝いと修行をして俺とニャーやザンカも中庭や邪魔にならないところを借りて体を動かしたり修行をする。
ときおり教会内の掃除やらリィナの手伝いをしたりして教会の人達ともだいぶ打ち解けてきたような気がした。
そんなことがあった日の翌日。
唐突にザンカが消えたのだった。




