第66話 臨天の指輪
夕日が照らす小高い坂の上で俺はリィナの騎士になると決めた。
その後、俺たちは頼まれたものも一通り買い集めることができたのでルクスリア教会へと帰る。
ぼーっとしていて会話もなくただ二人で一緒に帰る道はなんだかやっぱりぎこちないまま。
時折目が合っては逸らしてを繰り返し何も言い出せぬまま教会前へとついてしまう。
すると教会の入口前には見慣れない高級そうな馬車が止まっているのが見えた。
そして教会のすぐ隣にある庭園の墓標で一人、祈りを捧げる白髪の男がいたのだった。
大きな錫杖はリィナの物より立派で紺色と白を基調とした修道服。
レイーネと違い綺麗な装飾はないもののルクサーラ教の高位の神官であることがわかる。
その男を見たリィナは俺にそっと言う。
「あの方は……四天の守護柱様のソネイラル神父様です。どうしてここへ……」
それから俺の手を取り、そっとソネイラル神父の元へと行き挨拶をするのだった。
「こんばんは、ソネイラル神父様」
振り向いた男の目は糸目で瞳も見えず笑顔で挨拶をかわす。
「おや、こんばんは……」
瞬間、その一言と同時に俺を見る目が殺気に満ちるように感じた
少し身構えてしまったが気のせいだと思うとソネイラル神父は続けた。
「あははは。すみませんね……物騒なものを持っていらしたのでつい」
すると俺の刀を見るソネイラル神父。
「こんばんは、こちらこそすみません。驚かせてしまったようで」
「いえいえ、私が不用心なだけですので。さてさて……ふむふむ。とても良いお方を騎士にされるのですね? リィナさん」
「え、私めの名前を?! は、はい。どうして……私が彼を騎士にすると……わかったのですか?」
「あなた方の距離感を見ればわかりますとも。今後が楽しみですね」
「あの……」
「どうしましたか?」
「私がお話をするのも烏滸がましいように思うのですが……ソネイラル様がこちらへどのようなご用件でいらしたのですか?」
「烏滸がましい……ですか。そんなことありませんよ? ルクサーラ神様の下では皆、平等……です。故に私とあなたも同じなのです。なので遠慮なさらず仰ってください」
「は、はい!」
「どうしてここへの問は簡単ですよ? ここへは巡礼のため来たのです」
「巡礼……ですか?」
「はい。結界が正常に働いているか……あの日以来厳しく管理することが求められるようになりましたからね。私も各地を当番をするかのように回っております」
「四天の守護柱様が直々に……お仕事お疲れさまです」
「ありがとうございます。しかし、かのリーア様のお弟子さんが守っているこの地は盤石ですね? ラウナ様が生きていらしたらより心強かったことでしょう」
「あの? ひいおばあ様とおばあ様をご存じでいらっしゃるのですか?」
「れおはもちろんですよ? ラウナ様はとても素晴らしい聖母様でした。こんな私など足元にも及ばないでしょうね。なのでリィナさんには期待してるのですよ?」
「そうなのですね! ご期待に沿えるよう精進いたします!」
「ええ……励むことでルクサーラ神様は微笑んでくれるでしょう。それでは私はそろそろ」
「もう行かれてしまうのですか?」
「もう長いこと居てしまいましたからね。それに……見たい者も見る事が出来ましたし……とても楽しみです」
「ルクサーラ神様の生誕祭の催しものですか?」
すると苦笑いでもするかのようにソネイラル。
「はっはっは……そうですね。今年も綺麗に王都が輝くことでしょう。ではこれで」
「はい。ルクサーラ神様の光のご加護があらんことを」
「光のご加護があらんことを」
すれ違うソネイラルと呼ばれる神父と俺。
その一瞬にとてつもない何かを感じたが、それが一体何なのかはわからない。
けれどそれが嫌なものではないような、ただ純粋で不思議な何かをその男から感じるのだった。
それから俺とリィナはそのままレイーネのところへと向かい頼まれたものを渡して俺がリィナの騎士となったことを報告するとレイーネ。
「よくできましたね。これで……私は、あなたを見送ることができます」
「はい……ありがとうございます」
「では任命式の日取りですが……ソラさんは実際に騎士ではないので騎士団の庁舎へと行く必要がありますね。日取りは王都議会が終わってからがよろしいでしょうね」
「だと思います。マリィ王女が何をお考えになられてるのかわからないですし、レイーネ様以外に知っているのはニャーさんとザンカさんくらいですから……」
その知っているというのは俺が勇者だということだろうか。
そして俺がリィナの騎士として騎士団の庁舎へと行かなくちゃいけないのはなんとなくは理解できるがどうしてなのだろうかと聞く。
「どうして騎士団の庁舎に行かないといけないんだ?」
それにレイーネは答える。
「そうですね……本来であれば騎士というのは兵士訓練校で兵士課程の修行を積んでから騎士団の試験に受かり町の治安維持、要人警護に従事したりして女王様より正式に任命されるものなのです」
「へぇ……え? じゃあ、俺ってだめなんじゃ?」
「いえ、特例として功績のある冒険者や力が認められる一部貴族の方なんかは、その過程を飛ばし騎士となることは許されています。それに勇者……と知られれば認めてもらえるのは必然でしょう」
「そんな肩書だけで簡単になれてしまうものなのか?」
「簡単ではないはずなのですが……それ相応の力は必要だと考えてください。それに騎士課程は貴族の勉学の場でもありますので士官としての訓練に役立つのだそうですよ? それに他の貴族との優劣の示し合いにも使えますので」
「なんて泥沼な政治観……」
「それと……そうですね。ソラさんは知らないと思いますが騎士として認めてもらうことであなた方に良い点と言えば臨天の指輪でしょうか」
「臨天の指輪?」
「はい。聖女や聖人と騎士がその指輪で互いを結ぶことにより大きなルクサーラ神様の奇跡を顕現する力を授かるのです」
「え、それってもしかして……俺も奇跡を使えるようになるって言うことでしょうか?」
「そうですね。魔力を共有し合うことが容易になり魔力を分け与えて自身の祈りを実力以上に引き出せることもできる代物です」
すると俺はレイーネのつけている指輪を見て聞く。
「今レイーネ様がつけている……指輪だったりしますか?」
思い出すようにレイーネは答えた。
「あぁ……はい。これがそれですね」
すっとレイーネは藍色の不思議な色をした指輪を見せる。
「へぇ……でもこれさえあってリィナのような聖女がいればもう一人誰でも祈りを使えるんじゃないか?」
「それがですね……そうとはいかないのです」
自分の指輪を取ってレイーネは続けた。
「これは信じあう……そうですね。二人の心がとても重要になります。それがなければつけている意味も無いに等しいでしょう」
「へぇ。一種の契約みたいなものか……」
「そうですね。任命の儀はその譲渡を兼ねてもいるのです」
こうしてリィナの騎士である任命の儀は議会が終わった後に日取りを決めることとなりレイーネとの話を終えるのだった。
それから俺とリィナは置き去りにしてきたザンカとニャーを探す。
すると中庭で誰かと何かをしているザンカがいるのが見えた。
一緒にいたのはは髭を生やした赤を基調とした白い修道服の黒いエプロン姿のおっちゃんだった。
ザンカとそのおっちゃんの周囲に薪が散らばっているのを見て、どうやら教会裏で薪を割っていたらしい。
「まだまだ割れるぞ?」
「斧も使わず手で割ってしまうとは……なんてすばらしい。ここは女性僧侶が多く男手が足りないので助かりました」
「役に立てて良かったぜ。これ簡単だからやってみるか?」
「いえ……遠慮しておきます」
「そうか。お? ソラとリィナじゃないか! 遅かったな」
「戻りました!」
「これはこれはリィナ聖女様。お帰りなさいませ」
「はい。もどりましたファンサンさん!」
「リィナこの人は?」
そう聞くと申し訳なさそうにファンサンと呼ばれた男は答える。
「あぁ、私は、あなたのお姿を何回か見てはいましたがご挨拶はまだでしたね。私はここの料理長を勤めているファンサン・ルトラトです」
「俺はカタナシソラです。美味しいごはんを作ってる人でしたか。いつもありがとうございます」
「これはこれはとてもうれしい。やりくりしてる甲斐があるってものですね」
それから突如として、そんな挨拶を済ませている中で風を切る音が上空より落ちてくる。
俺は身構えてファンサンごと一歩、後ろへと下がり落ちてきたのが何なのかを確認すると落ちてきたのはニャーだった。
「お帰りにゃ」
「ニャーさん大丈夫ですか?!」
「なんのこれしきにゃ。教会の上に登って景色を堪能してたのにゃ」
「って、だいぶ高いだろ?」
「とても気持ちよかったのにゃ」
だいぶ高いところから飛び降りたような感じであったがニャーピンピンしていた。
そして俺たちは割った薪を片付けるのを手伝い夕食ができるのを待つのだった。




