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第4話 刀の力

 大牛が入ってきた扉に小さな影が見える。


 俺より身長の高い色白の男がいた。


 まるでヴァンパイアのような見た目をしている。


 黒いマントをなびかせこれまた黒い方側のガントレットを身に着けた西洋貴族のような装いをしていた。


 腰に直剣が1本と浮遊している不思議な球体が2つ。


 魔法だろうか?


 あの摩訶不思議な玉はなんなんだ。


 それに拍手をしてくれたと言うことは味方か?


 助かったのか?


 けれどそんな期待は次の瞬間かき消されてしまう。


「お見事。いずれ四大従魔よんだいじゅうまにすら上り詰められただろうムルをこうもあっさりと倒してしまうとはね。いやはや残念だよ」


「だ、誰だ?!」


「おっと失敬失敬。我が名は栄光あるメールヴァレイ帝国現皇帝。魔王アヴァラティエス直轄の四大従魔が一人。ド・メル・トルントールだ」


「どめるとるんとー……」


 なんなんだよ。


 急に魔王アヴァラティエスだの四大従魔だの言われてもうわけわからん。


「おやおや。下等な人に我らの崇高な名前は、難しい発音であったかな? しかしここまで生き残っているんだ敬意を表して貴様の名を聞いてやろう。申せ」


「カ、カタナシ ソラだ」


「ほう。東の者か? だからそんな不思議な恰好をしているのかな? さて……」


 するとこちらへとゆっくり歩いてくる。


 俺は刀を構えた。


 そして奴は床を見た途端に何故か顔をしかめるのだった。


「貴様。もしや……いやまて、現れてもおかしくは……一度魔王様に」


「何を言っているんだ?」


「ふむ。生まれたて早々で可哀そうなことをしてしまうがソラよ」


「な、なんだ?」


 瞬間、奴が左手をこちらに向けた途端に魔法陣が浮き出る。


 魔法?!


 やっぱり魔法があるんだ。


「死んでくれたまえ。レイエ・ラーヴァ」


 とてつもない熱線が解き放たれる。


 寸でのところでかわすも空気が熱を帯び体を焼く。


「あっつい!!」


 ゲームとかだと無敵回避やらで難なく避けているけれどリアルだとかする以前に近づけば火傷するのは当たり前のことか。


 俺がその熱線に気を取られている隙に奴は間合いを詰めてきた。


 飛び出るような勢いの直剣。


 目にも止まらない速さにたまらず刀で受ける。


『なっちゃいねえな?』


 唐突に男の声がする。


『もっと腰を入れて! 覚悟をもって振るうんだよ』


 直剣を勢いよく弾いてその勢いのまま回転斬りを繰り出す。


「ほぉ、ムルを倒すだけあってとんでもない力を持っているな。だがこれはどうかな?!」


 くるくると直剣を遊ばせるように回転させ再び切り結ぶ。


 重い。


 甲高い金属音が心臓を揺らす。


 怖い。


 死ぬかもしれない。


 けれどそれ以上に不思議と何か高揚感のようなものを感じていた。


 なぜか心臓が高鳴る。


 怖いのに逃げ出したいのに。


 剣線を読ませないように動く奴の剣はとても洗練されている。


 どこからくる?


 そこからくる?


 予想に予想を重ねる。


 受けてはいなして避けては斬り合う。


 ギリギリの攻防。


 こんな命がけの戦いをしているのに。


 ひどく怖いはずなのに。


 心が躍ってしまっている自分がいる。


 刀から熱い何かがこぼれ出るような感覚を感じる。

 

 瞬間、『良い。良い感覚だ』どこからともなく声が聞こえる。


 何が良い感覚なんだ。


 俺は、この声の主がようやく何なのかがわかった気がした。


 思えばこの刀を抜いてからおかしくなった。


 体が思うように動けてしまう。


 思うように力を出せるから戦えてしまう。


 それ以上に握ったことのない刀であるのに何故か幾千幾万、幾億と共に過ごしてきたかのような一体感を感じる。


 気が付けば余裕とでも言わんばかりだった奴の顔が曇っていた。


「ええい!! イグニスフィア!!」


 左手より小さい魔法陣が即座に展開され炎の球が飛び出す。


 当たれば熱いだろうな。


 痛いだろうな。


 火傷とかひどいだろうな。


 そんな想像をしてもなお俺の心は至って冷静で体は自然に対処した。


 結果それらを避けるべく後方へと飛んだ。


 奴も距離をとる事が狙いだったらしく大きな魔法陣が地面に浮かび上がると何かを唱えていた。


「フラマ・グラディウス!!」


 瞬間、剣に炎をまとわせる。


 それになんの意味があるのかわからない。


 斬れば焼いて傷口をふさいでしまうから殺傷能力は低いのではないか。


 しかし、その予想を覆す結果を見せられる。


 それは威力だった。


 大きく振り下ろされた直剣はその実の固さをはるかに凌駕するだろう地面を大きく割ったのだ。


 あの炎を纏う魔法は何かしらの推進力を生むのだろうか。


 そして、威力の乗った剣を見ていなしたり避けたりした。


 ましてや受ける行為は自殺にも等しいだろう。


 放たれる炎の一閃。


 けれど、それが俺に届くことはなかった。


 切っ先や技の最中は恐ろしく速い。


 けれどそれを操る人間の初動が技の全てを物語っている。


 どんな強敵でも攻撃の初動は何をするかを素直に映し出している。


 それがこの世界の戦闘でも同じであることを今、身をもって確信した。


 とても綺麗な炎の軌跡。


 刀を強く握る。


 俺の斬り上げを寸でのところでかわされるも頬をかすめた。


「な?!」


 驚いているようだ。


 徐々にスピードを上げていく。


 エンジンがかかりどんどん加速していくように刀も速くなっていく。


 そして謎の声がこう告げる。


『新たなる主よ。いにしえより研鑽され積み重ねられし力を振るう覚悟はあるか』


 覚悟なんてあるはずもない。


 けど今はやらなきゃならない。


 このどうしよもない現実に立ち向かえるのなら。


「俺は……《《喜んで》》刀を振るおう」


 さあ、楽しくなってきた。


 斬り合おう。


「んな、バカな?!」


 炎をまとう直剣をはじき返した。


 俺はゆっくりと刀をしまった。


 その姿を見て奴は好機と見たのか体勢を立て直し直剣を振りかぶる。


 姿勢を低くし鞘を浮かせ柄を軽く触る。


『これが君の最初の一振りとなろう』


 不思議と頭の中に入ってきた言葉。


 聞き覚えなどない技の名前が頭の中に湧き出る。


 なのに体が昔からなじみがあると言っているような得体のしれない感覚におそわれる。


 そして時は来た。


天雷一閃てんらいいっせん!!」


 刀が鞘から走り出し雷鳴を轟かせる究極の抜刀。


 しかし、手ごたえはいまいちだった。


 その後、何かが落ちる音がした。


 奴の左腕が落ちていたのだ。


「っく!! まさかこれ程とは……甘く見ていた」


 奴は直剣を鞘へと戻し滴る血を懸命に抑えた後にピーっと笛を吹く。


 それから右手を俺の方へ向けた。


「ここまでだ。次に会ったら覚えていることだな!!」


「逃がすわけ────」


「エクスプロシーヴァ!」


 俺が踏み込もうとした途端にとてつもない爆発が起きる。


 立ち昇る土煙。


 周りが見えない。


 けれど周囲を警戒しているが何もなかった。

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