表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/99

第28話 とっておきの報酬

 とても心配そうに見つめるリィナに俺はなんて言ったらいいかわからなかった。


 こういう時はただ無難に挨拶をしたらいいだろうか。


「おう、元気してたか?」


「そ、それはこっちのセリフですよ?! あの後2日も目覚めなかったのですよ?!」


「え、ええ?! 2日も?!」


「そうですよ! もう……このまま目覚めないんじゃないかと思いました……」


「ってことはだよ?!」


「はい?」


「二日もお酒のんでないってことだ。というかここくるまでを含めると1週間断酒?!」


「もう! 何馬鹿なことを言ってるんですか!! でも……本当によかった。無事で……お腹すいてますよね?」


「あ、そうか丸2日食べてないからな……うん。めちゃくちゃお腹すいてる!」


 どおりで体が動かないと思った。


「待っててくださいね! 食堂に何かないか聞いてきます!」


 食堂とはこれまた大きいお家だこと。


 しばらくすると先ほどのメイドに食堂へと案内された。


 名はヒューリィとのこと。


 広い廊下を歩くとより広い屋敷であることが改めてわかる。


 ところどころ壊れてしまったり修繕しているところを見かける。


 窓の外から見える広場も焦げ跡やらなにやらを一生懸命片付けている人の姿がちらほらと見えた。


 中には兵士以外にも剣やら弓、杖なんかを持った人達もいた。


 あれが俗にいう冒険者という人達だろうか。


 物珍しさで、いっぱいのお屋敷中を歩いていく。


 そんなに時間も経たずに食堂へと辿り着いたらしく扉を開けてもらうとなんともまあ広いことでしょうかと言わんばかりの空間が広がっていた。


 今は温暖な季節であるため使われてないだろう暖炉は手入れがしっかりとされている。


 高い天井。


 そこにはシャンデリアのような細工のある吊り下げ燭台がいくつか下がっている。


 なんだか高級そうな白いテーブルクロスと長机が用意され俺用に椅子も並べられているようだった。


 そのほかのテーブルは、ロスなどひかれてはいないが、いくつもある椅子が来客用に使われているでろうことを物語っていた。


 長机の奥でリィナ。


 そして隣には、あの時クッションにしてしまったリィナのお父様がお座りになられていた。


 親子なのになんだかあまり似てないような似てるようなそんな感じだ。


 リィナの美形な感じは母親似なのだろうか。


 髪色もリィナが金髪に対して父親は茶色い赤毛。


 髭も伸ばしておりいかにも威厳ある人といった感じがする。


 こちらを見てリィナ。


「お父様きましたよ!」


 そしてお父様は立ち上がり俺の元へと来てくれるのだった。 


「おお!! 二日間も目覚めなかったので心配したぞ?! 私はレジナード・イル・アメリア。アメリア領の領主でリィナの父だ。君には本当に助けられた……改めてお礼を言わせてほしい。ありがとう」 


 深々と頭を下げる領主様。


 貴族ってそんな簡単に頭を下げて良いものかと一瞬戸惑い俺もそれに応える。


「い、いえ! 初めましてカタナシ ソラ……と言います。あ、リィナ様に雇われただけの……ただの浪人? です」


「浪人?……旅人と聞いているが……」


 するとリィナは苦笑いしながら答える。


「あはは……お父様。ソラさんは病み上がりなのです。お料理をお出ししなきゃ!」


「ああ、そうだな。私も午後は公務に戻らなくてはならない。少し早いが昼食を共にしても良いか?」


「あ、構いませんよ」


 自然とあ、と言ってしまう。


 失礼な物言いでなかったか少し気になるが社交的な場というのはとても心に来る。


 上司との飲み会。


 後輩との飲み会。


 どちらも酒屑であることを隠すため温室育ちかのような飲みを演じなくてはならなかった苦い思い出が脳裏を駆け巡る。


 どちらも結局ばれたのでどうしよもなかったが……。


 目の前で異世界の領主様との昼食会というとんでもなく心に来そうなイベントが始まるとは夢にも思わなかった。


 その前に貴族である領主の娘に雇われて一緒に寝食を共にしてたというのも今考えればよく頑張ったと俺を褒めたい。


 それからはいろいろな料理が出された。


 地元でとれる山菜のスープやカーベスのステーキ。


 元の世界でパンと呼ばれていたクロカに酢漬けにしたウリ科のエメリウと呼ばれるピクルス。


 どれもとても美味しく今まで食べていた食事が嘘のように感じられるような逸品だった。


 俺は夢中になって食べてしまった。


 体が速く栄養を寄越せと悪魔のようにささやく。


 あっという間に食事を終えてしまった。


 そしてレジナード。


「いやはや。精をつけなくてはならないと思い用意させたのだが……いかがだったかな?」


「ありがとうございます。とても美味しかったです!」


「はは、喜んでくれて何よりだよ」


「どれもここのアメリア領で採れたものですか?」


「ああ。この地は酪農も盛んでね? 領民の皆は本当によくやってくれている」


 それから出された飲み物は何かの生物の乳のような見た目であった。


 とてもすっきりとした甘さのある牛乳のようなものだった。


 レジナードはギウのミルクだと言っていた。


 ギウとは何かと尋ねたら高原に住むエレンファードを飼いならし家畜にしたものだという。


 ますますなんだかわからないが牛でいいだろうか。


 出てきたカーベスのステーキはまた別の家畜らしい。


 ギウよりスマートで細いツノのはえた動物らしい。


 もはや元を見なきゃわからないが鹿をイメージした。


 言葉がわからないよりはまだましだが、この世界の知識がなさ過ぎてなにがなんだかわからないところは何とかしたい。


 そういえばカーベスのお肉でおもてなしをってリィナが提示した報酬であったっけかな。


 すると食べ終えたリィナとレジナードは手を合わせる。


「「今日の恵みに感謝を」」


「きょ、今日の恵みに感謝を」


 それから食べ終えた俺も同じようにして手を合わせた。


 そんな作法は見たことないぞ。


 ここへ向かう途中リィナはとくにやってなかったし飲み屋の連中なんかパーっとやっていただけだった。


 これが社交場というやつなのだろうか。


 少しの沈黙が通り過ぎてからレジナードは報酬の件について話すのだった。



「さて、報酬の件だが……」


 いよいよ報酬の話だ。


 さてさて、お待ちかねのヴァティス酒。


 いったいどんなものが飲めるのかとわくわくしてしょうがない。


 だが神妙な面持ちでレジナード。


「リィナ……レイから聞いてるぞ?」


 レイとはあのレイヴェインのことだろうか。


 場の空気が一瞬で重くなるのを感じる。


 酒を貰うと言うのは少しまずかっただろうか。


 だが首をかしげるリィナ。


「あら、レイとは特にお話をしてなかったと思うのですが」


「さすがに命を助けられ大切な家族を救われた身だ。この件に反対することなどできるはずがない……」


「どうされましたか?」


 リィナも何を言っているのか理解できないでいる様子だった。


「むしろ未来のため……ソラ殿のような方にここを任せるのも良いと思うのだ」


 は?


 任せる?


 何をだ……。


 何を言っているのか理解できず思考がまとまらない。


「任せるとは……何をですか?」


「それは、もちろん次期アメリア領、領主だ。娘二人……嫁に行ってしまっては跡継ぎをどうするか悩んでいのだが……ソラ殿は聞くところによると旅の者であると?」


「え? あ……え?……あ、はい。え?」


 とてつもなくぎこちない返事をしてしまった。


「そうであったか。こんな提案は……命を助けてくれた身として恥知らずと言われても仕方ないかもしれない。だが……せめてリィナの婿として────」


「ちょ、ちょっとまって?! お父様?!」


「どうしたリィナ?」


「ソラさんが婿? え? どうしてそのようなお話を?!」


「レイからお前がソラ殿にとっておきの報酬を約束しソラ殿の嫁となると」


「はぁ……レイさんめ」


 リィナは頭を抱える。


 だが少ししていろいろ考えを巡らせたのか顔を赤くして言った。


「いや! いやいやソラさんが私の旦那様だなんて! 葉っぱ一枚で戦場を駆け巡る変態さんですよ?!」


「変態さん?!」と俺は反射的に言ってしまう。


 なんとまあ聞き捨てならぬが事実であるため何も言えなかった。


 やってることは常軌を逸してると俺でも思う。


 しかしレジナード。


「確かに……葉っぱ一枚で戦場に出るなど正気の沙汰ではない。だが武を極めし者の極致とも言えよう」


 なんてポジティブな解釈なのでしょう。


 体を伝う冷汗は心の涙なのか汗なのか正直わからなくなってきた。


 それから感心するようにレジナードは続けるのだった。


「防具の重みを捨て単身葉っぱのみで勇猛果敢に戦場を駆け巡る……私もそのような武勇溢れる現場を見てみたかったものだ」


 頭パーで戦場駆け巡るあほでごめんなさい。


「男の方ってそれがいいのでしょうか……」


 それは違うと思うぞ。


 そう心の中でつぶやいておく。


 とりあえず報酬の件で相互の認識に違いがあるため擦り合わせるとしよう。


 報酬がリィナの婿というのはさすがにほぼ10歳差の歳の差婚。


 加えて相手は未成年。


 まあ犯罪だ。


 けれど……正直こんな娘を嫁にするのは男の夢だろう。


 だが公式にロリコン領主を誕生させてしまうのはとても気が重い。


 それに……俺の領分というか分不相応だろう。


 加えて肩書が酒屑ロリコン狂人勇者になってしまう。


 そんなことよりお酒の件をチャラにされる方がつらい。


 普通の人はきっと美人な貴族の令嬢を嫁にって言うだろうか。


 だが酒屑は違う。


 基準は酒、あて、明日生きる希望。


 それが俺の人生の羅針盤だ。


「とりあえず、リィナ様の婿になるという件についてはとてもありがたいお話ですが……俺が約束させていただいた報酬はこちらで作っていると聞くヴァティス酒です」


「へ?……ヴァティス酒?」


「はい。ヴァティス酒です」


「……あれで良いのか? それとも製造の権利か? だが功績はそれ以上だろう。だが……それでいいのか?」


「いや権利とかは俺にはどうでもいいです。お酒ください」


 沈黙が続く。


 そして咳払いしてリィナ。


「どうしてそのような話に飛躍したのかレイから聞きたいところですが……ソラさんとは最初にそのお話でお引き受けいただくことになりました」


「いいのか? ソラ殿は貴族の命を助け反乱という大火から領民を守った。いわば英雄だ。それを酒一本と少しのもてなしで……」


「本当は……まあ、俺の心の内をお話しますと結果そうなっただけです」


 正直こうしてうまくいったのは奇跡だと思う。


「俺はリィナをしっかり守ることと無事にここへ連れて行くことは果たせませんでした……リィナが敵の手に渡ってる上に監禁もされてる。その時点で俺の敗けです。胸を張れるものじゃありません……」


「なんと謙虚な……」


 やばい……偉く感動してる顔をしているぞこのお父様。


「ソラ殿……報酬の件はわかった。もし、よろしければ私の後継者にならないか?」


 いやさっきと言ってる事変わらんって。


「遠慮します!」


 社畜から無職勇者、フリーターからの領主ってどういう出世やねん。


 それからレジナードからの圧がまあまあつよかったものの話はまとまった。


 レジナードが席を立ち。


 また夕食にでもお話をと言われる。


 ありがたい話だが、まあ御免だ。


 それからメイドたちが食器やらを片付けているのを横目にリィナと食堂から出るのだった。


 屋敷で作業している人達の声がうっすらと聞こえる。


 静まり返った廊下にて、先ほどリィナが妹と会わせたいと言っていたため妹がいる部屋へと案内される。


 互いに話すことなく歩いているとリィナが少し戸惑うようにそっぽを向きながら話した。


「先ほどの、ソラさんが夫になる件ですが……」


 あ、いやそれ掘り返すか。


 リィナとしても会ってそう長くない人間と婚姻を結ぶなど想像できないだろう。


 自由恋愛など理想のまた理想の世界なのかもしれない。


 貴族ともなれば政略結婚なども多いのだろうが召喚された勇者って立場上何とも言えない。


 明日は我が身なんて言葉がある様にいつどうなるかわからない存在だ。


 リィナはとても良い奴だ。そんな奴に俺は未来を約束するようなことはできないだろう。


「まあ、それはお互いの関係次第だろう。俺の国じゃ自由恋愛の元で結婚だったり離婚もしている。見ればレジナードさんも寛容そうだしきっとリィナの好きにしていいと思うよ。傍から見た感じだけどさ」


「そう……そうですね! やらなくちゃいけないこともいっぱいありますし終わってから考えるのもいいかもしれませんね!」


 リィナは満足げに言う。


 妹を助けるというリィナの目的は、今まで桃源郷の果実を得るための努力を惜しまなかっただろう。


 故郷に帰るのはかなり久しぶりの様子だった。


 相当な覚悟で出たはずだ。


 誰であれ、その覚悟を折ることはできない。


 だから戦えたのかもしれないな。


 そして屋敷3階にある部屋の前へとたどり着いた。


 いそいそとメイドさん達が掃除をしたり片づけをしたりしているのが見える。


 そして部屋をノックするリィナ。

 

「ヒナ。入るよ!」


「どうぞ」


 扉の奥よりそっとささやくような、か細い声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ