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第14話 反旗の種火

 俺が頼んだトルンドの焼肉というものは、こんがり焼けた厚切りのお肉が目の前に運ばれた。


 絡んだ塩をベースとしたタレはとても美味しく酸味のきいた何かが食欲をそそる。


 トルンドは、いったい何かとリィナに聞いたところ、ここから北方にあるウィシュター高原というところに生息している動物なのだそうだ。


 そこで自生している実や草を主食としており肉質も柔らかくハーブのような香りのする油が特徴なのだとか。


 だから少し柑橘系のようなさっぱりとした味わいがするのだろうか。


 とても不思議なお肉を堪能する。


 そして元の世界ではパンと呼んでいたものとそっくりの食べ物がある。


 それはクロカというのだが、そう呼ぶのにいまだに慣れない。


 加えて製法により名前が変わるらしく酒屑の脳では処理が追い付かない。


 リィナと俺は食事を終えて静かになった店内でゆっくりしていた。


 皿と皿が重なり合い洗い物している音がただひたすらに聞こえてくる。


 俯いていたリィナは意を決した表情でメリラに問う。


「メリラおばさん……今お屋敷で何が起きているのかわかりますか?」


「……」


 しかしメリラは答えなかった。


「なにかあったのですね? 兵士の方々も何か様子がおかしかったんです」


 するとメリラは先ほどまでと違い小声で話すのだった。


「本当に立派になられたのね」


「え?」


 リィナは聞き逃してしまったようだ。


 言い終えてからメリラは普通のトーンで続ける。


「どっちみち今日は帰れないならアルザの宿に泊まっていきなさいな」


「そうですね。少し調べたいことも────」


 そうリィナが言いかけたところでメリラは遮る様に続ける。


「それは!! んー。長旅だったのだから今日は早く休んだ方がいいわよ」


「え? そ、そうですね……」


 うなずくリィナは何かを察したようにメリラの目をじっと見つめた。


 するとメリラはリィナの足元にお盆を落としてしまう。


 拾おうとするリィナを制してメリラ。


「そのままで大丈夫だよ」


「え?」


「あらあらやだね。私としたことが歳かな?」


 かがんでリィナの耳元に近づき小声でささやくのだった。


「アルザの宿で話すわ」


 その後、リィナ様にお支払いいただいてからお店を出てアルザの宿へと向かうのだった。

 

 いかにも民宿というべき趣深い二階建てで木造の大きな家だった。


 正面入り口の看板にはアルザの宿という文字。


 立て看板にはゆっくりしていってねと書いてある。


 なんだかほっこりする。


 宿屋へと入り主人や奥さんからも先ほどのお店ほどではないにしろ熱く歓迎された。


 二部屋とることにし荷物を置いて一旦リィナの部屋で話し合う。


 けれど互いにどうしていいのかわからず話は平行線。


 沈黙が続く。 


 こういう時にどう話しかければいいのかわからない。


 しばらくして俺は一旦荷物を整理しに戻ることを告げて自室へと向かうのだった。


 それから少し歩いたところで、すれ違いざまに突然知らない男から声をかけられるのだった。


「おい、そこのあんた」


「ん? おれか?」


「お前以外にいるか?! まあいい。いいこと教えてやるからちょっとこい」


 とても怪しい男なのはわかるが腰に下げてる酒瓶らしきものに注目が行ってしまう。


 酒屑の性という奴だろうか。


「お、おう」


 とりあえず従わざる負えない状況のような気もするので付いて行くことにした。


 それから男と宿を出て中庭へとついていく。


 道なりに進んでいって人気のない路地裏へ誘導された。


 いよいよ嫌な予感しかしなくなってくる。


 気が付いたら目の前の男だけでなく複数人に取り囲まれているのを感じた。


 姿こそ見せないものの6人くらいはいるだろうか。


 立ち止まった男は言う。


「あんた……あのお嬢さんと一緒にいた騎士だろ?」


「騎士じゃないぞ?」


「じゃあなんだ? その剣とコートは」


「おいはがれてしまったのでリィナからもらったんだ」


 すると周囲の人間は笑いながら言うのだった。


「さすがは貴族様だ」

「僧侶様の慈愛の心ってやつかもしれねえ」

「世間知らずはこれだから」

「追いはがれた奴に着せるものかよ」


 おかげで人数がわかりやすい。


 どうやら気が緩んでいるのか緊張感はまるで感じられない。


 そして目の前の男。


「まじかよ?! 追いはがれて騎士のコートを貰うってお前傑作だな。騎士だと思って少し警戒しちまったがおまえなら大丈夫そうか」


「どういうことだ?」


「まあ、そうだな。この状況で物怖じしない根性は気に入ったぜ。 なあお前、俺たちの仲間にならねえか?」


 まさかのパーティ勧誘をされる。


「う~ん……やぶさかではないな。仕事はなんだ?」


「仕事……仕事か。俺たちのすることはそんな日銭を稼ぐようなことじゃない」


 どうやら真っ当な仕事ではないらしい。


「無給はごめんだぞ? サビ残は魂を削るんだ。お前たちも苦しんでるんだなぁ」


「さび……ざん? 何を言ってんだ? 大義あることなんだ」


「まさか……やりがい搾取までされてるなんて……」


「なぁ……話を進めていいか?」


「涙出ちゃった。どうぞ」


「知っての通り、このアーグレン国は貴族と王と神官達が政治を執り行う。加えて人種覇権派だの言っているが俺ら平民は虐げられる。上納させられる作物は生活を困窮させて大きな税を課しながら搾取する。挙句の果てには奴隷にされるやつまでいるんだぞ? 人であるのに人としてすら扱われねぇ。弱い人間は飼われていたぶられるだけの腐った社会だ」


「そうか……まあケモミミの子らを虐げるなど万死に値するな」


「ケモ? ん……? な?! だろう? 俺たちはそんな社会構造をひっくり返すんだ」


 一瞬ハテナ面するのはやめていただきたい。


 こちとら大真面目である。


「まるでクーデターだな」


「ああ、反旗を翻すんだ。そして俺たちは貴族や王、神官達だけの政治を廃止して平民やその他の民族が平等に生きて社会を作る国家を目指すんだ」


「民主主義とは御大層な」


「みんしゅしゅしゅ?……」


「あぁ……いやこっちの話だ。しかし権力を背に抵抗できない人たちを一方的に虐げられるのはなんとかしないとな」


「わかってくれるか?」


「ああ、わかった。だが反旗を翻すなら力が必要だ。お前たちは強いのか?」


「さすがに俺らのような冒険者崩れや一兵卒じゃ騎士どもや聖騎士にはかなわねえ……だが俺達にはナヴァルタスの亡霊が付いている」


 まった。


 幽霊が出てくるのは聞いてない。


「ナヴァルタスの亡霊……? それはなんだ? もしや幽霊?」


「あんた知らないのか?」


「あ、ああ……ここらの人間じゃないんだ」


「ほぉ、そうか。だが、これを聞いたら驚くぜ?」


「ふむ……聞かせてほしい」


「いいぜ。メールヴァレイ帝国との戦争の最前線の地。ナヴァルタスで大要塞が陥落したんだ。そこで敗走する数万の兵士達に濁流のごとく押し寄せる敵兵。それに橋の上であのお方は単騎で足止めをしたんだ。そして多数の敵の死体の山を築き上げて味方を救ったって英雄談があるんだぜ」


「なんだ幽霊じゃないのか。まじかよ。すんごい逸話だな」


「そうだろ? それにナヴァルタスの亡霊とその5人の私兵部隊がとてつもなく強いんだ。きっとアーグレンのサーヴェリス聖騎士長を超えて、その刃は王にすら届くだろう」


「なるほどな。もしかしたら勝てるかもしれないな」


「だろ? 入ってくれるか?!」


「まあ入ったとして、俺はまず何をするんだ?」


「そうだな……まずはお前と一緒に来ていたアメリア家の娘。リィナ・ルナレ・アメリアを拉致する。仲間だと思い込んでいるお前なら簡単だろう?」


 話にはのってみたものの。


 飲み会の帰りに終電を逃したような切ない気持になった。


「リィナ・ルナレ・アメリアを拉致……か」


「ただの聖女が一人。抵抗されたとしても奴ら弱っちい攻撃や防御の奇跡しか使えねえから簡単だ。俺達につく証明に……な?」


「確かに簡単だな。だがなぁ……」


 ここで「いいよ」なんて言えばきっとこいつらと戦わずに済むのだろうか。


 さっきからじりじりとにじり寄るような殺気だか視線だかが気になってしょうがない。


 しかし仮に承諾したとて……。


 瞬間、道中リィナと話した思い出が頭の中を駆け巡る。


 俺気遣うやさしい言葉。


 妹を救いたいという目的。


 何よりリィナの希望に満ちた時の笑顔が彼女を裏切りたくないと心を動かした。


「俺はまだリィナとの契約があってな。そういうことなら他をあたってくれ」


 静寂があたりを包む。


 すると後ろより近づく音と声が聞こえた。


「やっちまいな!!」


 背後より振り下ろされる剣。


 空気をこする音だけを残して避けて剣の主を避けつまづかせる。


 それがいけなかった。


 話していた男の腰に下がっている酒瓶の縄に後ろから襲いかかって来た男の剣が当たってしまい切れてしまうのだった。


 この時、俺は己の勿体ない精神を呪った。


 落ちる。


 俊足の歩法とでもいうべき速さで体が動いてしまう。


 しかし重力に任せた速さで動いた体はそのまま謎の穴へと真っ逆さまに酒瓶を抱いて落ちてしまうのだった。


 その穴はとんでもなく深く空気が擦れる轟音だけが耳元をざわつかせる。


 辞世の句。


「いたわしや さけにかたむく じんせいか」


 最期に手にしたのが人の酒なんてやだ。


 しかし未知の酒に心が躍ってる自分がいるのがとても情けない。


 けれど贅沢を言うならスコッチを抱いて死にたかった。


 アー〇ベッグが飲みたい。


 そんな大事な夢を描きながら深い穴の底に落ちて行くのだった。

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