第119話 旅の準備
立派なカールした髭と細身で見上げる程の高い身長。
白く長い髪は束ねられオールバック。
リィナのような白髪と違い老いによるものを感じる威厳のあるいかにも貴族です! みたいな見た目をした紳士そうな人が現れた。
「お待たせいたしました。ようこそ我がギルドレラデラン支部へ。よくぞいらしてくださいました勇者ソラ様、聖女アメリア様、英雄ニャステンブルク様、そしてケンジョウ様……私は、ここでギルドマスターをしておりますバルナック・イザトリスと申します。以後お見知りおきを」
何故ザンカの名を知ってるのかとおもったけどギルドマスターなら、そりゃ国で起きたこととその渦中にいた人の名前くらい把握はしているものか。
するとリィナはどこか驚いた様子で挨拶をする。
「は、はじめまして! 白金級冒険者をさせていただいております。リィナ・ルナレ・アメリアです! マスターバルナック様にお会いできるなんて光栄です!」
深々とお辞儀をするリィナ。
リィナがカールの時と違いとても礼儀正しい挨拶をしている。
それにならって俺とニャーはリィナと同じように挨拶をしてお辞儀をした。
「これはご丁寧に……ささ、お顔をお上げください。職員に即座に指示を出せばよい話なのですが……この王都をお救いになった勇者様、英雄様方にお目にかかりたく参った次第にございます。アメリア嬢に要らぬ緊張をさせてしまったのなら申し訳ございません」
「いえ! とんでもございません! 鉄の要塞と名高い真銀級の冒険者の方とお会いできてとてもうれしいです!」
どうやら実力者のギルドマスターのようだ。
「これはこれは、この老いぼれをアメリア様がご存じであったとは、とても嬉しいですね。それはそうとこの街のギルドを預かる身として一言……この街をお救いいただき誠に感謝申し上げます。本当に、ありがとうございました」
深々とお辞儀をするバルナック。
リィナが俺とニャーに視線を送る。
「まあ、当たり前のことをしただけですよ」
「たくさんの人を救えたのならそれでいいのにゃ」
頭を上げてバルナック。
「ほほ。さすがは勇者様と英雄様……さて、挨拶も程々にして本題に入りましょうか」とバルナックの視線の先にはあくびをしているザンカがいた。
いやね。
本当に失礼で申し訳ない。
「あはは……」
苦笑いを浮かべるリィナ。
「ご用件はケンジョウ様のギルド証の発行と地図の閲覧許可でお間違いはございませんね?」
「はい! 間違いはございません」
「もちろん断る理由もございません。ささ、こちらにおいで下さいませ」とギルドマスター直々に案内をしてくれる。
そのまま廊下を渡り趣深い建物の造りを見ながらそのまま3階へと上ると両扉の先に、これまた広い部屋。
「こちらが地図を補完している書庫にございます。お好きなようにお手に取ってくださってかまいません」
「ありがとうございます!」
「基本的に現物の持ち出しは禁止しておりますので必要とあれば管理人に写しを申し出てください」
「わかりました! わざわざご案内していただきありがとうございます!」
「いえいえ、勇者様方とお会いできるなどそうございません。差支えなければこれからどちらに向かわれるご予定なのか教えていただけますかな?」
俺とリィナは一度目を併せて、俺が頷くとリィナ。
「最終的には学術国家セイエンティアへと向かいたいと思ってます」
「ほぉ、あの学術国家にですか。それは、なかなか難しい旅路になりそうですね」
「え、そうなのですか?」
「はい。セイエンティアはだいたいここから直線距離で申し上げますと北東の場所に位置してます。しかし、現在北側諸国の一部が国家崩壊の危機に直面しているそうなのです」
「そんなことが……それで情勢が悪化しているのですか?」
「はい。崩壊を迎えつつあるのが、ここより北に位置するコルネリア王国です」
「そうなのですね……」
「アーグレンでも北のネスタリア領、北東のザンドラレル領、トランドノート領は警戒を強めている状況だそうですよ」
「わかりました。貴重な情報をありがとうございます!」
「いえいえ、ですが西から行くのは大変危険ですし東の国のヴィスクレイズ帝国であればまだ……といったところでしょうね」
「そうですね……ありがとうございました。検討してみます!」
「はは、どちらもなかなか一筋縄ではいかない旅でしょう。あなた方の無事を光の下で祈っております」
「ありがとうございます! バルナック様も光のご加護がありますよう祈っております!」
その後、バルナックは一礼し下の階へと降りて行く。
それから俺達は明日の旅に向けてギルドの書庫にて地図を広げ桃源郷の果実の情報を探るべくたくさんの研究や学びが盛んな国である学術国家セイエンティアへと至るための道のりについて話し合うのだった。
話し合い……とはいう物のザンカは話についていけず「行ければなんでもいいんじゃないか?」と言う。
まあ確かに行ければそれはそれでいいんだけれども。
ニャーもニャーで「どっちもいいと思うにゃ」の回答。
そしてリィナ。
「さっきのバルナック様の言う通りだとするなら北側は危険ですから最短距離で向かうのは難しいですね」
「危険って言うけどどう危険なんだ?」
「んー……なんとも言い難いですが国が崩壊するということは、それまでの秩序がなくなるんです。秩序がなくなるとどうなるかは……あまり想像はしたくないのですが略奪や殺人、窃盗なんかの犯罪が横行しやすくなってしまうとお父様より教えられています」
「ふむ……」
「例えば騎士や兵士はお金で雇われています。国が崩壊するということはその方々にお金がいかなくなります。そして、その方々が職にあぶれてしまい至る所で略奪をはかるのだそうです」
「ほうほう……」
「加えて治安が悪くなれば物資が流通しません……他国からの輸入は減って輸出もままならなくなり貨幣価値もなくなるのだそうですよ?」
「つまり、危険な上に物資も手に入りずらくなっていると……」
「そうですね。なので迂回をするべきなのですが……迂回する先も先で……」
「何か問題があるのか?」
「はい。東側のヴィスクレイズ帝国は安全といえば安全なのですが税が高くあちらの硬貨が必要なんです」
「え、それってどうすればいいんだ?」
「それは、あちらのギルドに行ければ、その国の硬貨に換金ができるのですが今の貨幣価値がどれほどのものになっているのかわかりません。ルクスはそこまで高くないって聞いてます」
「ここで聞けばいいんじゃないか?」
「と言っても……ヴィスクレイズ帝国まで行くのに20日程はかかると思います」
「え、そんなに?!」
「はい。そもそもセイエンティアにこのルートで行くんだとすれば最短で3月はかかるかと……」
「お、おう……なかなかだな」
「そうなんですよね。コルネリア王国の情勢がまだ安定していた時期でも1月半程はかかりますし……」
「なかなかだね……いやでもさ。このコルネリア王国とヴィスクレイズ帝国の境はだめ? ここならその先もすぐいけそうな感じだけど」
「それがですね……そこは破滅の王国があった場所なんです」
「……え? 破滅の王国?」
「はい。コルネリア王国とヴィスクレイズ帝国、アーグレン王国、そして今はないのですが……イーラタリア王国が連合を組んでかなり昔に邪竜を退治した地なんです」
「連合?! アーグレンって孤立していたんじゃないのか?」
「それは今の話ですね。他種族排斥の運動がそこまでひどくなかった時代です。まだメールヴァレイ帝国もなかった頃だそうです」
「そんな昔のことなのか」
メールヴァレイ帝国がいつできたかなんて知らないんだけれども。
しかし、こうしてこの地は? ここからは? ってリィナに聞いてみるとその土地の面白い話が聞けてなんだかとても楽しい。
加えてリィナの真剣な表情を見ていられるというのはなんというか。
とても良い。
ニャーとザンカはボケーっと窓を開けて外を見ている。
「ソラさん、どうしましたか?」
不意にリィナの話が止まる。
「あ、いやさ。まあその……リィナはかわいいなぁって」
すると顔を赤くしてからぷくっと頬を膨らませる。
いやほんと……
「────?! もう……真面目に話しているのにぃ」
「ああ悪い悪い。どちらにしても今はヴィスクレイズ帝国を通るのがいいんじゃないか? お金の事ならギルドがあればそこで稼いだりとかさ。それより旅が長引くことにリィナとしてはどうなの?」
「それについては……短いに越したことはありませんよ。ですが、ソラさんやニャーさん、ザンカさんの命には代えられません。なるべく安全なルートを選びたいです」
「……そうか。なら決まりだな。それと禁門の書庫で話したさ。さっき話してた亡国よりの場所のシルヴァヘイローって森林にある魔獣使いの勇者の墓はどうする?」
「なるべくそこは通りたいですね。もしかしたら勇者としての何かがわかるかもしれませんもんね?」
「ああ、ありがとう。よし! 決まりだね?」
「はい! それと……ここを出てからは一旦、ルロダンに寄ってもよろしいですか?」
「ああ、挨拶……しないとね」
「はい。桃源郷の果実を探す旅にでますって……」
「というかリィナって貴族の立場でよく許されたよね? こういうのって大丈夫なの?」
「いえ……お母様からは猛反対を受けました」
「あぁ、そうなんだ」
「はい。『アメリア家の娘として生まれたのだから、しっかりとした貴族としての勤めを果たしなさい』って怒られたのを今でも覚えています」
「それで家を飛び出した?」
「そうですね。冒険者伝いにルロダンから王都まで来て、そのままレイーネ様のところで弟子入りです」
「なるほどね。とんでもないご令嬢だな」
「恥ずかしい話です。あまり……ソラさんには聞かれたくなかったのですけど……」
「なんで?」
「だって、そんな乱暴な……私じゃ……嫌じゃないですか?」
「いや、むしろリィナがヒナを想って決断したことがすごいと思ったよ。それで桃源郷の果実を探すための力をつけるために大変な修行をするんだからさ。それを幼い時に考えて決断したなんて、そうそうできることじゃない」
「そう……ですか?」
「ああ、リィナの根が優しくてがんばりやな証拠だよ」
「ソラさん……」
「だから俺はリィナに惚れたのかもね?」
「もう……ずるいです」
ぷくっとふくれた頬をツンと指先でつつく。
「何するんですか?!」
指先を掴む優しい手の感触がとても温かい。
「いやだってさ……もうね?」
俺は笑いをこらえた。
あざとい。
みるからにあざとい。
だがリィナはそれを平然とやってのけてる。
なんだか愛おしい。
かわいいの天然記念物かなにかだろうか。
「なんで笑っているんですか?!」
「ごめんごめん。でもさ。一つ言っておくよ。リィナがこの先でどんな決断をしたとしても、この先何があっても、俺はリィナを守るからね」
瞬間、離れた手をそっと握り返す。
また顔が赤くなっていたけれど、すぐに落ち着いたのかそれに答えてくれる。
「────?! はぁ……それは私も同じです。私もソラさんを守りますからね?」
「ああ、がんばろう」
「はい」
すると俺達の隣から視線を感じた。
「なぁにイチャイチャしてるにゃ?」
俺とリィナは咄嗟に手を放し何もなかったかのように振舞う。
「いや、イチャイチャじゃなくてさ。た、ただのスキンシップだよ」
「スキンシップ……ですよね?」
「そうそうスキンシップ!」
「ニャー、それはどうでもいいにゃ。決まったかにゃ?」
「ああ、あらかたね。先ずはルロダンに行くことにした。その後は魔獣使いの勇者が眠る地、シルヴァーヘイローへ行ってからヴィスクレイズ帝国に入国する予定だ」
「わかったにゃ」
「お? とうとう話はおわったか?」
伸びをするザンカ。
「はい。お待たせしてすみません」
いや、リィナ謝ってるけどこいつもこの話に参加するべきだったんだけどね?
ああ、でも一部俺とリィナの国の歴史講座みたいになってたから、そりゃ退屈だったか申し訳ないことをしたな。
それから旅の方針もかたまり午後は街中で必要な物の買い出しに行こうという話になるのだった。




