第12話 十二勇者物語
リィナは語る。
「むかぁしむかし」と冒頭が日本の昔話を彷彿とさせるような所から、まるで読み聞かせをするかのように。
私達が信じるルクサーラ神様の他にもたくさんの神様がいました。
その神様たちは自分達が、この世界の主神であると話し対立するのでした。
この対立は、後に力の比べ合いとなって豊かな大地を壊し空を悲しい色に染めて大きな戦いとなったのです。
このお話はその後のお話。
混沌とした世界に突如として魔王と呼ばれる王様が世界を力で言うことをきかせようとしたのです。
大戦の後に平和を謳歌していた七種族は魔王の襲来に成すすべなく倒れていきました。
そんなある日、とある町で十二人の不思議な力を持つ人達が現れました。
その者達は魔王を退けてどんな苦難をも乗り越えます。
どんな逆境にもめげず恐怖を意にも返さず人々のために尽くしました。
その英傑達を勇気ある者として私達は勇者。
そう呼びました。
勇者達は次々とたくさんの英雄譚を作りました。
空を覆いつくす程の巨大な竜を討ち、大海原を住みかとする深淵の魔獣を制し、当時バラバラとなっていた七種族をまとめたのです。
そしてついに、勇者達は力を合わせて魔王を討ち倒すことができたのでした。
「ざっくりと……お話しますとこんな昔話の伝承です」
「へぇ、十二人の勇者達……かぁ」
「それぞれに英雄譚が残っているのですが、どれも勇者様方の類稀なる知識と偉大なお力で世界を切り開き平和にしたというお話ですね」
類稀なる知識。
十中八九、異世界から召喚された人達……だったんだろうな。
「いろいろと聞きたいことはあるけど七種族って?」
「神下七種族についても知らないのですか?!」
「えと、その……だってさ。アーグレンだとそんな種族いなかったと思うんだけど……」
「それは、そう……ですね。アーグレンは人種に絶対の権利がある国ですので……それ以外の種族の方はまず拒まれてしまいます」
「なるほど、それで人だけしか見なかったって訳か……なんだか複雑な事情がありそうだね?」
するとリィナはどこか寂しそうな表情を浮かべて「ええ……文化や古い慣習と言えば聞こえはいいかもしれませんが他種族を排斥する考えはあまり良いものではありません」
この国の在り方に思うような所があるのかもしれない。
リィナは、この考えにあまり肯定的ではなさそうだけど結構、人によりけりなのだろうか。
「それで神下七種族って?」
「えっとですね。さっきの十二勇者物語の前に神々の大戦のお話があるのですが覚えてますか?」
「うん。あれと関係が?」
「はい。神々が創造したので神下。それぞれをヒューム、ビースティア、エルフ、ドワーフ、バーディア、セイレン、ドラグニアが七種族なんです」
ビースティアはもしや獣人か?
エルフにドワーフといえばファンタジーの王道って感じはするけれどバーディアやセイレン、ドラグニアなんて聞きなれない種族もいる。
いつか会ってみたいものだ。
「いろんな種族がいるんだね」
「はい。ですが外を旅していらしたのならビースティアの方なんかはよく知ってると思うのですが……お会いにはならなかったのですか?」
「え? あぁ……まあ、まあね」
リィナの疑問を抱く視線。
確かに旅をしているにもかかわらず、これだけの種族を知らないと言うのはおかしすぎるからなぁ……
「まあ……いいでしょう。それで七種族同士を神々が戦わせた大戦でもあるのです」
「あれ、でも全種族は生き残ってるんだよね?」
「はい」
「だとしたら……その戦いってどういう決着で終わったの?」
「一説によると私達が崇拝するルクサーラ神様の光の加護と七種族をそれぞれの長がまとめあげて力を合わせて神に反旗を翻したことで神々を退け大戦が終わったという内容です」
「そんな結末になってるのか……しかし、いがみあって殺し合っていただろうに力を合わせて共存の道を選ぶってなかなかすごいよなぁ」
「本当に……そうですよね」
ゆっくりと時が過ぎていく。
今日は本当にいろんなことを知ることができた。
エルフやドワーフなんかがいるような世界である事とかアーグレンの国の事情とか……
リィナからの依頼は故郷のルロダンという所に無事送り届けるのだが、それが終わったらどうしよ。
冒険者ギルドなるものがあるということだし冒険者になってみるのもいいかもしれないな。
「そう言えば昨日さ。リィナは旅に出るって言ってたよね?」
「はい。ヒナの石化病を治療をするための……ですね」
不治の病と聞いていたから……こういうことを聞くのはあまりよくはないのだろうけれど気になった。
俺は恐る恐る、それについて触れてみるため「なにか、その……治すあてって、あったりするの?」と聞いてみた。
するとリィナは困ったような顔をするわけでもなくすんなりと「そうですね。一応……あります」と答えてくれた。
「それってどんな?」
「昔お父様に学術国家セイエンティアの大図書館に連れて行ってもらったことがあるんです」
「すごい大層な国家だな」
「そうですね。知識と技術が集まったような国ですからね。そこで石化病に関する研究もしていたのです」
「それが……手がかり?」
「いえ、治すほどの成果はなかったので……」
「そう、なんだ……」
「ただ、そこで聞いたのはですね……ソラさんって桃源郷の果実をご存じですか?」
「桃源郷の果実?」
「はい……その様子だと知らなさそうですね?」と言われてリィナの視線が怖い。
これも知っていないとまずい知識だったりするのだろうか……
けれど何とも言えない。
しょうがないので俺は「いや、まったく……お恥ずかしい限りで」と正直に知らないことを明かした。
しかし、リィナはどこかニヤニヤしながら俺へと「ソラさんはしょうがないですねぇ?」とからかうように言うのだった。
「あはは……面目ない」というと申し訳なさそうにリィナ。
「いえ、これはマイナーな伝承なので知らないのはしょうがないことですよ?」と常識的な知識ではないと明かしてくれた。
無知をからかわれるとは思いもよらなかった。
「あぁ、なんだ。また常識を知らないと思われるかと思ったよ」
「ふふ、すみません。このお話もはるか昔の事なのですが災厄の竜がもたらした石化の災いを何とかするって伝承があるんですよ」
「石化とはまた状況が重なるね」
「はい。それで石化の災いを癒す桃源郷の果実というものが出てくるんです……」
「ほぉ、それって実在は……」
リィナは悲しそうに答える。
「するのかどうかは……残念ながらわかりません」
「そうか……」
けれどなぜか絶望的に石化病を直すのが困難な状況であるにも関わらず、その青い瞳は希望の光を失っていないように見えた。
「手がかりって言うと……これくらいなんですけどね?」
「そうか……」
俺は溜息をついてしまった。
「こんなありもしないような情報で旅に出る……無鉄砲だと思いますか?」
寂しそうに焚火を見つめるリィナに俺は応える。
別に元気づけようとかそう言う理由で話す訳じゃない。
でも……
「いや、そうは思わないよ」
「そう……ですか」
「無責任なことを言うようだけどさ……俺は探してみるだけの価値はあると思うんだ」
「どうして……そう思うのですか?」
「だってさ。何もないところにさ。急にそんな話ができあがるはずはないだろ? なら……実物は、なくてもそれに似た何かはあるかもしれないからね」
「ソラ……さん」
これに俺が何かできるわけじゃない。
無責任にやってみる価値はあるだろって言っただけだ。
ありもしない幻想を追い求めて大海に漕ぎ出す泥船を応援するように。
家族を失う痛みは計り知れないからな……ワラにもすがる思いになるのはそれだけ大切である証拠だ。
痛いほど気持ちはわかる。
「だから、まあ……その、あるわけないとかそんな夢物語信じてるのか?って笑われるかもしれないけど、俺はリィナを応援するよ」
するとリィナの青い瞳がキラキラとこぼれそうになりながら笑顔を作った。
「ありがとう……ございます。ソラさんにお話ししてよかった……」
「まあ、無責任に探してみる価値はあるだろって言っただけだけどね?」
「そんなことはありません。ありがとうございます」
「あぁ、えっと……どう、いたしまして?」
笑顔で微笑む裏で悲しさがにじみ出ているようなリィナの視線の先の焚火は揺れている。
俺は、そんな彼女に何もできないでいることを歯がゆく思った。
勇者とは……一体、なんなのだろうか。
困っている人に手を差し伸べるのか。
伝承の通りに魔王を退けるだけの駒なのか。
それとも……
ただ、それよりも確証はないけれど桃源郷の果実は実在すると思う。
リィナならきっと……見つけられるだろうという根拠のない予感が何故か湧いてくる。
そんな不思議な感覚を胸に俺もリィナと同じように焚火を見ていた。
まさか……これが全ての始まりになるとは知らず俺は薪をくべるのだった。
────第一章 異世界召喚 完




