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第108話 想いのままに

「勝者! 勇者ソラ!!」とアーガス団長の声が響く。


 俺は乱れない息をそのままに倒れたままでいるシルベスに言った。


「良い勝負だったよ」


 だがシルベスは起き上がらない。


 肩が震えている。


 俺はそっとシルベスから離れた。


「いやはや、さすがはソラ殿。素晴らしい模擬戦でした。勇者様ほどのお力ではシルベスは物足りなかったでしょう」


『物足りなかったでしょう』……か。


 悪気はないんだとは思うのだけれど俺はその言い方にムッときた。


 これは一人の男が覚悟を持って勇者である俺に挑んだそんな戦いなんだ。


 だからそんな言い方は……あんまりだろう。


 正直言うと会って間もないシルベスの事なんかどうでもいいといえばどうでもいいのかもしれない。


 それでも俺がこんな気持ちになるのは、きっと俺もシルベスと同じようにリィナを想うという心は変わらないからなのだろうか。


 そんなどうしよもない心を押し殺して俺はアーガスに返した。


「いや……そんなことないですよ。現に危ないところはありましたからね」


「ご謙遜を」


 アーガス団長とのやり取りの間に「だ~ん~ちょ~お~?」と一文字一文字伸ばして詰め寄るキャロルが現れるのだった。


 なんかこわい。


「なぜこのようなことになっているのか……ご説明願えませんか?」と並々ならない気迫でアーガスに詰め寄るのだった。


「キャ、キャロル副団長?! えと、これは、その……まあなんだ。その……あれだ! デニスの奴が困っていたからな? 俺はあれだ! ちょっと助けてあげただけだ」


「だからってこんな大事にして模擬戦をやらせる必要などありません! 騎士団の私物化はおやめください!!」


「私物化だなんてそんなつもりはもうとう……」


「きっちりと上に報告を通しますね? 勇者ソラ様にご迷惑をおかけしたと」


「そ、そんな! キャロル副団長! それは誤解だ。やめてくれ報告書を書くのはもう、うんざりなんだ」


「あー。えっとキャロルさん。俺からも穏便にしてもらえると助かります」


「ソラ殿?」


「シルベスさんとの模擬戦を受けるって言ったのは俺なんだ」


「んん……それなら構いませんが」


「ほ。ソラ殿は話が分かるお方だ」


 そう言った途端にキャロルがアーガス団長にギロリと視線を向けるとすぐさま縮こまってしまった。


 一応団長、副団長の上司と部下の間柄だよな?


 でもキャロルは一応王都貴族なわけだから役職以上に立場は上ということなのだろうか。


 相変わらずこの国の貴族や上下関係がよくわからない。


 こうして俺とシルベスとの戦いは幕を閉じて場は移り騎士団庁舎内。


 俺達はさっきの出来事のせいで注目の的になっていた。


「またせてしまってすまない。これが臨天の指輪の入った箱だ」


 キャロルが握りこぶしくらいの大きさの高級感がある四角い木箱をリィナに手渡した。


「ありがとう!」


「ああ、儀式はいつするんだ?」


「そうね。レイーネ様が指輪があり次第執り行うって言ってたけど……近いうちにでもするんだと思う」


「そうか」


「それじゃ私達は行くね!」


「ああ、またな!」


「またお茶でも飲みに行こうね」


「空いた時にまた立ち寄るよ」


「待ってるね!」


 こうして俺達はレラデラン騎士団庁舎を後にした。


 それからはルクサリア教会へと戻って教会裏の物置にマナポーションの入った木箱をしまう。


 ザンカとニャーは教会宿舎でゆっくりするとのことで俺とリィナはマナポーションを買いだしたことについてレイーネに報告するため執務室へと来ていた。


「ご苦労様。あの荷は重いので助かりましたよ。勇者だと公になったのにこのような雑用をさせてすみませんね。ありがとうございます」


「いえ、お役に立てて俺も嬉しいです」


 そこへリィナ。


「レイーネ様、今日騎士団庁舎で臨天の指輪を受け取りました」


「そうですか。それでは……そうですね。明日にでも儀式を執り行いましょうか」


「はい!」


 明日とはまた急だ。


 儀式とはいう物のそんなに時間とか準備とかはかからないのだろうか。


 まあでもさっきリィナが指輪があればって言ってたからな……


「あの、儀式って具体的には何をするのですか?」


 するとレイーネは、そう言えば何も話してなかったと言わんばかりに俺を二度見して話してくれた。


「すみません。そうですね……ルクサーラ様の石像の前でソラ様にはリィナへの想いを込めて祈っていただきます。そしてあなた方の臨天の指輪にルクサーラ神様の祝福を授かれるよう私が奇跡を行使します」


「想い……」


「ええ。ですが、そう難しいことではございません。《《想いのままに》》が一番です。愛の形は友情や親愛、恋愛と様々です。その大きさを誓約とし祝福として授かるのがこの儀式の大切な役目ですので」


 絆の大きさで得られる力が増大するっていうのはここにあるのか。


 しかし、そうは言うものの魔法のある世界は感覚で語るところが多いからよくわからなくて困る。


 そこからレイーネは書類の山を横に避けて言う。


「さて、指輪を預かりましょう。明日の朝、これをソラ様とリィナに渡します」


「はい。よろしくお願いします」


 それから執務室を出てリィナと廊下で二人きりとなった。


 思えば、リィナを意識しだしたのは前にこうして廊下を歩いた時からだっただろうか。


 すると突然リィナ。


「あの……気程はすみませんでした」


 いきなり謝られたので俺はいったい何のことかわからず戸惑った。


「どうして謝るんだ?」


「シルベス様の事です。あのようなことになるなんて思いませんでした」


「いや、あれは……リィナのせいじゃないよ」


 発端や原因はリィナではある。


 けれどそのせいで勝負をしたわけではない。


 気持ちの在り方を……その終わり方が必要なだけだったんだ。


「でもソラさんにご迷惑をかけてしまってすみません」


「迷惑だなんて……そうだな。あれは……」


 ほんと、勝ったはずなのに勝った気になれねえよ。


 言葉に詰まったが俺はそのままリィナに答えた。


「俺とシルベスの問題だ」


「そう……なのですね。ありがとうございます」


「ああ」

 

 その日は買い出しとシルベスの決闘といろいろあった一日で終わり、その翌朝。


 相も変わらず俺の股蔵で寝るニャー、ベッドの真下で寝るザンカ。


「相変わらずこれ慣れないわ……」


 そうこぼしても一匹と一人はすやすやと寝ている。


 俺はニャーを布団で包んで淡々と身支度を整えた。


 まあ臨天の指輪を互いに身に着けることでどうなるのかいまいちわからない。


 けれどリィナにとってはとても大事な行事にちがいはない。


 俺が前に騎士になると言った時のあの笑顔……


 今一度胸に手を当てて考える。


 まあ、そんなことしなくてもいいのだけれど形は大事だ。


 もちろん覚悟はできている。


 これから勇者として何があってもこの刀がもし無くなったとしても俺はきっと戦える。


 それから俺は二人を起こして朝食を摂るため食堂へと向かうのだった。


 食堂ではいつもと変わりないリィナがいて、ルチアもいた。


 そしていつもと変わらないように朝食を摂り終える。


 外は晴天。


 そういえば雨が降っているのを見てないけど乾季ってやつなのだろうか。


 朝日が程よく教会に差し込む静寂の中で儀式は行われた。


 ルクサーラ神の像が見守る式台にてレイーネ聖母を正面に俺とリィナは手前でひざまずいていた。


 金色の錫杖を持つレイーネ聖母の声が響く


「聖女、リィナ・ルナレ・アメリア」


「はい」


「騎士、カタナシ ソラ」


「はい」


「神の光の下で満ちる喜びのある時も、穏やかなる時も、病める時も、深く悲しむ時も共に守り、敬い合い偽りなき絆を結び合うことを誓うか?」


 俺とリィナは同時に顔を上げたようだった。


「「はい」」


 意図せずしてかぶる返事。


 するとレイーネは一礼してから続ける。


「これより互いの指輪に光の恩寵おんちょうをルクサーラ神よりたまわります」


 そう言いレイーネが錫杖を地面へと突き立てた瞬間、錫杖より光があふれ出し石像の前に置かれた指輪に光が収束する。


 まるで無数のホタルがゆらりゆらりと飛びまわるような光が教会内を満たした。


「縁を結びし対となった心を讃え、愛ある絆に永劫の祝福をあたえん。フィーダス・アムリス・プロティニス」


 その詠唱が終わる瞬間、俺とリィナの左手から光の玉が浮き出し指輪に消えていった。


 しばらくして光も消えレイーネが指輪の置かれた台を取り俺達の前へと差し出す。


「おもてを」


 俺とリィナは同時に顔を上げて立ち上がった。


「これで二人は騎士として、聖女として光の導きの下結ばれました。指輪を左手の第四指に」


 俺とリィナは互いに置かれている反対側の指輪を右手で取る。


 そして俺はそのままリィナの左手の薬指にはめ、次に俺の薬指に指輪がはまった。


 指輪がはまった瞬間、言いえない何かが心になだれ込む。


 緊張?


 なんなんだこの感覚。


 でもどこか暖かくてほんわかとしていて、和むような……でも優しような。


 なんだかよくわからない感覚に襲われた。


 一つ言えるのはとても心地がいいと言うことだ。


 しかし、まだ結婚もしてないのに左手の薬指に指輪をはめるようなことがあろうとは思わなかった。


 加えてレイーネの言っていた誓いの文言もなんだか結婚式みたいな……。


 もしかしてだけど、これ勇者が持ち込んだ儀式じゃないだろうなと勘繰る。


 こうして無事式は終わるのだった。


 その後に俺とリィナは指輪を付けてみてどうかという感想を言い合った。


「あのさ……つけた瞬間感じたんだけどこれって────」


「ソラさん」


「どうした?」


 なぜかリィナの表情が不安そうにしていた。


「私……指輪から何も感じません」

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