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第107話 戦う理由

「勇者ソラ!!」


 そう呼び留めてきたのは他でもないシルベスだった。


 正直、俺は内心またかと思った。


 半ば叫ぶようにして呼び止めたものだから周囲の騎士達が「え? 勇者ソラ様?」「まさかこんなところにいるはずはないだろう?」「あのお方が勇者様?」と言うものだから一気に注目の的になってしまった。


 仕方なく俺は振り向いてシルベスの方を見る。


 するとシルベスはそのまま俺の前へと来た。


「先日の舞踊……とても素晴らしかった」


「え? あ、ありがとう」


 思わぬ賛辞だ。


 また決闘だのなんだの言いだすのかと思っていたので少し驚いてしまった。


 けれど何かしら思う所があるのかシルベスは肩を震わせ小さい声で呟く。


「だが……だが……」


「え?……」


 するとシルベスはリィナの方を見てから俺の目を見て話し始めた。


「勇者ソラ」


「ソラでいいよ」


「わかった……ソラ、俺と剣で勝負をしてくれないか?」


「決闘……か?」


「いや、模擬戦だ」


「どうしてそんなことを?」


「……」


 ここまで堂々としておいてなぜか黙ってしまうシルベス。


 俺はふと、シルベスのその心に思い当たり後ろへと向いた。


「なぁ、リィナ」


「はい?」


「ちょっと奥で話してくる」


「……わかりました」


「すぐ戻る……と思う」


 それから俺はシルベスに付いて行くがままに庁舎の奥へと場所を移しここで良いだろうと言わんばかりに立ち止まった。


「あの舞踊を見てしまえば……アメリア嬢とソラの絆が確かに本物であると認めざる負えない」


「え、そうなのか?」


「他所から来たソラは、わからないかもしれない……だが、あの舞踊は特別なものなんだ。互いの呼吸、互いの気遣い……そのほかにもあるが全てが狂ってしまえば成り立たない難しい舞踊なんだ」


 確かに難しかったけれども……


「それで俺と剣で勝負をしたいというのは?」


「俺は、あれを見せられても……どんなにソラに敗けていたとしても……アメリア嬢への想いは曲げられない。だから俺と勝負をしてほしい」


「ふん……初めて会った時にも思っていたけどあんた。やっぱりどこかまっすぐなんだな」


「まっすぐ……か。ずっと想いを寄せていた。教会で出会った時から俺はアメリア嬢に心を奪われていた。だが初対面にも関わらずソラに突っかかってしまったことは……申し訳なく思う」


 俺はどこかシルベスの事を見誤っていたのかもしれない。


 融通の利かないまっすぐなやつだ。


「俺の事はいいけど……まあ、だからといってリィナの修行の邪魔をしたり女性寮に入ったりはさすがに擁護ようごはできないけどさ」


「き、きいたのか?」


「ああ」


「あ、あれは……魔が差しただけだ。そもそも女性寮に入ったのはアメリア嬢に会いたいと言ったら管理人のばあさんがあっちにいるよって教えてくれたからだ!」


 おっと、とんだ黒幕がいたようだ。


「で、模擬戦というはどのようにするんだ?」


「互いに木剣を用いて行う。そして相手に一本いれるか剣を取り上げた方の勝ちだ」


「わかった。それで場所は?」


「それだが……」


 その瞬間だった


「話は聞かせてもらった」


 意気揚々に低い野太い声が響く。


 庁舎奥の扉から出てきてかっこつけながら壁にもたれかかり腕を組む騎士がいた。


「団長」


「え、団長?!」


「初めまして勇者ソラ殿。俺はレラデラン騎士団団長のアーガスだ」


「あ、はい。あ、初めましてカタナシ ソラです」


「模擬戦……ということならこの庁舎の訓練場を使うと良いだろう」


「団長……よろしいのですか?」


「ふっふっふっふ……デニス。お前も顔つきが変わったな?」


「そうでしょうか?」


「ああ、シルベス家の貴族のボンボンからいっぱしの騎士になりやがって……キャロルとは偉い違いのあるやつだったが……男になったな?」


「はい」


「この勝負、模擬とはいえど命を懸ける覚悟はあるか?!」


「はい!」


「その盾は何のためにあるんだ?!」


「市民を、女王陛下を守るためです!」


「その剣は何のためにあるんだ?!」


「我らを脅かす脅威を打ち壊すためです!!」


「そして!! お前は何のために戦うんだ?」


「愛する者を守るためです!!」


「よし!! いいぞ!」


「はい!!」


 何この勢いのある軍隊っぽい掛け声。


 なんかこわい。


「さてソラ殿、言っておきますがデニスは騎士団の中でもなかなかに腕のたつ剣技を持っています。舐めてかかると怪我をしますぞ?」


 この騎士団長は……舐めてかかるなんて愚問だ。


「……舐めてなんてかかるわけないですよ」


「ふん。そうか。デニス!」


「はい!」


「勇者様が本気を出してくれるなんてそうない。全力で挑んで来い」


「承知しました! 全力で……戦います」


 そしてところ変わりレラデラン騎士団庁舎の訓練場。


 がやがやと見物人の多い中で俺とシルベスは向き合っていた。


 握りなれない木剣と分厚い木の盾。


 思えばこのスタイルで戦うことはないからすごく新鮮だ。


 いや、本気で戦うのなら……


 そう思い俺は盾を捨てた。


 瞬間、「ぉおお」という声が一斉に聞こえた。


 え? 何かまずいことでもしただろうか。


 そしてシルベスは気合のある掛け声と共に体を温めていた。


 見物人もそうだけど……どうしてこんなことになったのだろうか。


 発端はあのアーガス騎士団長のせいなんだけれども……


 あの後シルベスと戦うため訓練場を使っていいと許可をもらったはいいものの騎士の連中に俺達の戦いがあることを言ったらしく見物人を増やしてしまったっぽい。


 それからアーガス騎士団長が訓練場の中央へと来た途端会場は静寂に包まれた。


 最前列で見守るリィナ、ニャー、ザンカ。


 そしてキャロルの姿があった。


「なんでこんなことになっているの?」


 愕然としているキャロル。


「はぁ……知りません」


 リィナの呆れた声が聞こえた。


「やれやれだにゃ」


「なんかずるいな」


 他人事だと思ってこいつら。


 そしてアーガス騎士団長の話が始まった。


「この模擬戦、シルベスが勇者に挑む。皆も勇者がどのような戦いをするのか気になるだろう。立ち合いはレラデラン騎士団団長アーガス・フルクリッシュが見届ける。両者……互いに見合い……礼!!」


 この感じはどこかで聞いたような。


「構え!!」


 そして俺はゆっくりと木剣の柄を握りしめる。


 思えばあの刀以外を握ったことはない。


 あの刀の蓄積された経験を通して今の俺があった。


 はたしてそれがないままに俺はどこまでやれるのか。


 下手したら敗けるかもしれない。


 でも何を考えていたって始まらない。


 時にはこういう勝負もあるだろう。


 一人なら逃げ出していただろう。


 でも後ろに控えているのが……大切な人なら俺はどんな状況でも全力で挑むのみだ。


 今の俺ならそれができる。


「はじめ!!」


 最初に繰り出したのはシルベス。


 盾を前面に押し出し剣を後ろに隠す。


 どこから攻撃が来るかを悟らせない戦術だ。


 俺はこの戦術を知っている。


 もちろんたかがゲームの話だけれど。


 俺は一度近づく。


 するとここだと言わんばかりに横薙ぎ。


 揺さぶりはいとも簡単に成功した。


 振られた剣は空を斬る。


 大きく体勢を崩すシルベス。


 そこへと俺が剣を振り下ろす。


 だがシルベスの気合のある雄叫びが響いた。


「ぬおおおおお!!」


 そして間一髪盾で弾かれた。


 そのまま、前に前にとシルベスが剣を振り攻撃を間髪入れずに加えられる。


 俺は見たまま、流れるままにその剣をいなした。


「なぜだ。なぜ当たらない?!」


 焦る表情。


 当たらないことに対して不思議だとでも言わんばかりの様子だ。


 そこに俺は率直に回答を返す。


「軌道がわかりやすい」


「なに?!」


 俺はそのまま突きで盾を弾きシルベスの体勢を崩した。


「ここまでだ」


「終わるものかあああ!!」


 崩しかけていた体制を前に持ってきて俺の懐へと飛び込み剣を流れるように振るおうとする。


 よく動くものだと感心した。


 即座に剣で受けなおし俺は後ろへと下がる。


 その勢いのままに転げるシルベスは崩れた体勢でいてもなお俺への攻勢をやめなかった。


 何度も振るわれる木剣。


 俺はそっと足を上げ後ろへと即座に下がり木剣を避けていく。


 そのままシルベスは立ち上がって剣を大きく振りかぶり「ナイツ・ストラドル!」と勢いのままに言うのだった。


 技……そうだ。


 木剣を握っているせいか俺は今まで使っていた技が出てこないことに気づいた。


 今まで自然と脳裏に出てきた技が今……心のどこかに置き忘れてしまったかのように空っぽだった。


 重い一撃を受け止める。


 なかなかに重量のある一撃だ。


 それを受け流すと続いて盾の追撃が同じ方向から来たのだった。


「捉えた!」


「まだだ!!」


 俺は体を落とすように崩した。


 一瞬で盾が空振る。


 俺はその下に潜りこみシルベスの胴めがけ一閃。


 とても大きな音が鳴り響いた。


 その戦いに呆気に取られ静けさに包まれていた会場に火が灯る。


 歓声が周囲を包み込んだ。

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