第106話 ニャーの馬車で買い出し
お城の生活から一変してレラデランの町に戻ってきた俺達は迫るルクサーラ神の生誕祭に向けて準備をしていた。
内容は簡単だ魔法薬屋でマナポーションを仕入れてくることだ。
そしてニャーが御車をしている馬車で大通りを行く俺達はレトルナの魔法薬屋に向かっていた。
「マナのポーションってだいぶ必要なんだな」
「そうなんです。明かりを灯すのは祈りが必要なのですがこれがなかなか大変でして……僧侶や聖女、聖人、聖母様、神父様問わず各教会の方々が総出で行います」
「それで教会の人達が各家に導きの光を灯しに行くというわけか」
「はい。それはもう町中が明かりに包まれるのですよ。ソラさんが前に騎士を誓ってくださった丘の上から見下ろしたレラデランはとても絶景なんです」
「へぇ。それはすごい気になるな」
「それでその……仕事が終わったらその……見に行きませんか?」
「ああ、見に行こう」
「はい! 約束ですよ?」
「約束だ」
思えばここアーグレンの景観は趣深い。
中世のヨーロッパ風であるのにも関わらず町の至る所にはルクサーラゆかりの彫刻があるし日本にいた時の現代建築の雑多な感じはなく統一感のある美しさがある。
あの丘から見下ろした景色はさぞ綺麗なのだろうな。
夜は街灯もいい味を出してるし……想えばどういった原理で明かりがついているのかもわからないけどこのルクサーラの光と何か関係でもあるのだろうか。
それに天使達の襲撃があったというのに建物の修復もそうだが仕事が早い。
みんな忙しそうにしているのだけれどこちらを見て手を振る人が多かった。
それもニャーにだ。
「ニャー様だ!」
「ニャー様! 今度うちへ寄ってって! 御馳走するよ!」
「助けてくれてありがとう! 我らがレラデランの英雄!」
「ニャー様!!」
「ニャー様だ! なんて凛々しいお姿なんだ」
レラデランの英雄と呼ばれているだけあってすごい人気の嵐だ。
しかし、当のニャー本人は少し困惑しながら「ニャニャー」と返事するだけだった。
「……ニャー有名になってるにゃ」
「ほんとすさまじい人気だな?」
「さすがはニャーさんです!」
「こんなふうに注目されるのはなんだか心がムズムズするのにゃ」
それから俺達は目的のレトルナの魔法薬屋へとたどり着く。
出迎えてくれたのはよぼよぼのおばあさんだった。
「ルクサリアのアメリア様じゃないか。いつものポーションはここにあるよ」
「レトルナさん、ありがとうございます!」
「いろいろあったけど今年も頑張ってね」
「はい! 頑張りますね!」
リィナとレトルナのおばあちゃんとのやり取りの間に俺とザンカはポーションが詰まっている箱を次々と馬車に乗せていく。
そこでふと気になる情報を耳にした。
町行く恋人同士と思われる人の会話だ。
「今年の生誕祭はサナに特別なものを送るつもりでいるよ」
「あらなにかしら?」
「それは当日のお楽しみさ」
「えー気になるなぁ? 私がエルに送るものも特別よ?」
「へぇ、なんだろうな。楽しみだ」
このようになんだか熱々の雰囲気で話していたのだけれども贈り物か。
生誕祭に贈り物をし合う文化があるのだろうか。
あとでリィナに聞いて……
いや、待てよ。
冷静になれ、ここでリィナに聞いてどうしようというのだ。
ここで聞かずにあえてわからない素振りを見せて当日に驚きと感動を届けるのもいいのではなかろうか。
しかしだ。
思えば互いの気持ちは明かし合ってはいないのだから何とも言えない。
ここで俺が突っ走ってリィナに引かれるのは正直心にくる。
まあでも……ほぼほぼ、なんとなくはわかるような気はするのだけれども。
でもここで何もしないのはなんか違うし……最悪日頃の感謝を込めて贈り物をっていう体で……
ああ、だめだ。
こっちの文化に疎いから何をして良いのか悪いのかわからねえ。
誰か良い相談相手でもいないだろうか。
ザンカは……論外として、ニャーは……頼りにならないな。
妻もいたって言ってたけど猫の恋愛がそもそもあるのかないのかよくわからないしなぁ。
そもそも猫に聞いたところで感が否めない。
となると酒場のあの店主か……
その時だった。
「お。ソラ殿ではないですか。先日の晩餐会はおつかれさまです」
聞き覚えのある声の主はキャロルだった。
「あ、キャロルさん。どうも」
「生誕祭で使うマナポーションの仕入れですか?」
「そうですよ。キャロルさんは?」
「私は巡回の仕事です」
「巡回とはまた大変な」
「これも仕事の内です。民の安全を守ってこその騎士ですから!」
何度も思っているのだがアーグレンの言う騎士ってなんだか自警団や警察みたいな組織なのだろうか。
すると店の奥より戻ってきたリィナ。
「あ、キャロル! 巡回?」
「ああ、リィナも一緒であったか。そうだ! リィナに伝えようとしていたことがあったんだ」
「ん? 何?」
「前にソラ殿をリィナの騎士に任命するという話だが臨天の指輪の準備は整っているぞ」
「え、本当に?」
「ああ、近く指輪を庁舎まで受け取りに来てほしい」
「ありがとうキャロル!」
「いやこれくらい大したことではないよ。ソラ殿の肩書が勇者ともなれば話は別だ。上もすんなり認めてくれたよ」
そう言えば、この騎士に任命するにはアーグレン国の兵士の課程を経て騎士へと昇格し相応の礼を身につけなければならなかったんだったっけ。
それで認められた者のみに聖女や聖人の騎士として任に着くことができるという話だった。
加えてこの臨天の指輪とやらは絆が深ければ深いほど強い祈りの効果をもたらし俺もルクサーラの奇跡が扱えるってすごい代物だ。
というかこれ絶対ただって訳じゃないよな。
いくらかかるんだろ。
でもエンドルプスを狩った……いや討伐した? まあいいか。その時のお金もまだまだあるし大丈夫だろうか。
「まだ時間もあるし、この後にでも庁舎に寄るね」
「わかった。なら私も庁舎に一度戻ろう」
「うん。一緒に行こ!」
それから俺達は一通りマナポーションの入った箱をニャーの馬車に積みいれおわるとキャロルは驚いた様子で馬車に乗っているニャーを見た。
「ニャー殿が御車をされているとは……ニャー殿に気づかないとは私としたことが」
「キャロニャどうしたにゃ?」
「あ、いえ。少々驚いてしまいまして」
「にゃ?」
首を傾げるニャーの後ろでリィナが補足する。
「これニャーさんの馬車なの」
「そうなのか?! なんだか行商をされているような趣のある馬車だがニャー殿は商人なのでしょうか?」
「そうだにゃ。ニャーはミダスの商人でもあるのにゃ」
「ミダスの?! さすがはニャー殿……」
「ニャーの友人の父親がミダスの商人だったのにゃ。それで修行を付けてもらってニャーも証をもらったのにゃ」
「いやしかし……修行を付けてもらったからといってだれしもがなれるようなものではないのですよ?」
「そうなのにゃ?」
「ええ、ミダスの商人たちは信用を重んじます。その目に適わなければその権利など得られるはずもないのです」
「そう聞くとなんだかすごく感じるのにゃ」
そんなニャーとキャロルの会話も挟みつつぼけーっとしているザンカを横目に俺達はレラデラン騎士団の庁舎に向かうのだった。
外からは大きな訓練場が見え中に入ると受付のカウンターがありキャロルと同じ騎士の恰好をした人達が行き来していた。
「書類と指輪を持ってくる。すこしの間あちらの椅子に腰かけて待っててくれ」
「はい!」
「手間をかけます」
「お気になさらず。今日は二人にとっての門出でもあるのだ。私は嬉しいよ」
門出?
その意味を考える暇もなくキャロルは扉の奥へと消えていった。
それから俺達は椅子に座ろうとしていた時に突然、後ろから声をかけられたのだった。




