第105話 伝言のちニャーの軌跡
「メーゲン様?」
「先ほどはご挨拶に伺えず申し訳ございません」
しれっとその場に現れたメーゲン。
そういえばシルベスとちょうど話している最中にメーゲンが来ていたのを思い出す。
「ああ……いやあの時は話している最中だったしこちらこそすみません」
「とんでもございません! しかしソラ様があんな粋なことをされるとは思いもよりませんでしたよ。とてもいいものでした!」
「ん? 粋って?」
「ソラ様には馴染みがないのかもしれませんがルクサーラ神の信仰のある国においてあの状況はとてもロマンのあることなのですよ」
「ロマン? え、どういうこと?」
俺はリィナに尋ねてみた。
「し、知りません!」
何故かそっぽを向かれてしまった。
「ははは、いいですね。そんなアメリアさんに私は嫉妬してしまいそうです」
なぜリィナにメーゲンが嫉妬をするのだろうか。
「もうメーゲン様からかわないでください!」
からかう?
このやりとりはアーグレンの文化に馴染みでもないと理解できないことなのだろうか。
それからメーゲンはにこやかな表情から一転して真面目な顔つきで話し始めた。
「さて……お二人の大切な時間を割いて呼び止めさせてもらったのは雑談をしに来たわけではないのです」
大切な時間だって意識はあったようだ。
というよりさっきの会話聞いていたんじゃないだろうな。
「それで、どういった用件なんだ?」
「これがその用件です」
そう言って差し出してきた物はなにやら青白い紋様のついたペンダントだった。
「これはなんだ?」
「これは……名づけるなら共振石でしょうか」
「共振石? 名づけるならって今名づけた?」
「はい。私は禁門の書庫の管理人を任されているのですがそれとは別に魔導兵器開発部門を持っている身でもあるのですよ」
「なんだかすごそうな部門だな。メーゲンさん実はすごい魔術師か何かだったり?」
「あはは。私など魔術師としては半人前もいいところです」
こう言って砕けた物腰でにこやかに返してくれているけれど実は相当すごい人なんじゃないだろうか。
「例えば……新たな魔術の開発でしたり一般魔術師が強力な魔法を扱えるようにするといった目的の部門なのですが、その共振石はなんとなく閃いて作ったものの試作型なんです」
「試作型……ねぇ。それで共振石ってなにをするものなんだ?」
「驚かないでくださいね? これは遠くに離れた人に情報を送ることができるものなのです!」
「へぇ、ケータイみたいなものか」
「ケータイ?! それは勇者様方の記録で度々お見かけするいつどこでもいかなる場合でも誰かと話すことができて情報を共有できるという神器でしょうか?!」
「ま、まあ、ちょっと違うけどその認識であってる……かな?」
まてよ。
書庫で見た中でケータイの記述のある書籍なんてなかったぞ?
俺がメーゲンに聞いてないだけで勇者について実は知ってることが結構あるんじゃないだろうか。
「それで俺はこれを使って何かしらの情報をメーゲンさんに届けるって感じかな?」
「それも大変魅力的ではありますが……すみませんがソラ様はこれを使えません」
「え?」
「まだ情報を一方通行にしか送れないのです」
「へぇ。あれ? そうしたら両方持っちゃいけないのか?」
「さすがはソラ様!! 突っ込みどころがとても素晴らしい!!」
「いや、お世辞はいいから」
「これは失礼。私の賛辞は不要でございましたか……理由は互いの石が干渉し合ってしまいまともに使えなくなってしまうからなのです」
「ああ、なるほどね」
「ソラ様は、これで理解できるのですか?」
「さっきのケータイの理屈とちょっと似てるなって思ってさ」
「むぅ。その理屈はとても気になります……この技術は元々黒の方々が互いに情報共有できるように特殊に調節した魔力波を放って遠くにいる仲間に情報を届けるという技術に着目したのがきっかけです」
「え、魔法ってそんなこともできるの?!」
「はい。それもあり黒の情報伝達速度の速さ、個々の強さからアーグレンの影を担っていました。まあ……これはいいでしょう。それでです。シーナ女王陛下からの御命令でこれをソラ殿に渡すよう言われたのです」
「なるほど……いざというときにアーグレンに戻ってこいと?」
「内容はそのようなところです」
合点がいった。
俺が旅立ってしまえば国で勇者を利用できなくなってしまうのに何故かすんなりと旅に行っても大丈夫だと言わんばかりの態度だったのはこれがあるからか。
「緊急時にソラ様には悪いが龍脈の秘跡でアーグレンへと帰ってきてほしいと伝言を賜わっています」
でも、あらかじめこういう制約があると心置きなく旅に出られるのも事実か……
下手にここにいるよう強制させられるよりは万倍ましだろう。
「用はこれだけか?」
「はい。それとですね……?」
「ん……なんだ?」
「もし……煩わしくなければ時折私のところへ冒険譚をお話に来てくださるととても嬉しいです」
「あぁ……気が向いたらね」
「おお! 心待ちにしております!」
こうしてメーゲンにリィナとの二人っきりの時間を邪魔されたのを最後に晩餐会は幕を閉じた。
一方ソラとリィナがテラスで星空を眺めていた頃。
ニャーとザンカの二人の前にとある人物が訪ねてくる。
ザンニャはよく食べるやつだ。
たらふくお料理を頬張ったから食休みに椅子に座って寛いでいたそんな時、ザンニャを横目に声をかけられた。
「ニャステンブルク殿」
「ニャー?」
その人を見たことがある。
けどどこだったか……あ。
天使達の黒幕とソラが戦ってボロボロになって倒れているところの脇にいた人だった。
「あの時の人ニャ!」
確かこの城の隣の建物が崩れかけた時にザンニャが担いでいた人。
「危ないところをザンカ殿にお助けいただいた。ノルン・アスラと申します。この度はお助けただき誠に感謝申し上げます」
「おう、気にすんな」
もぐもぐとザンニャはずっと食べ続けている。
相変わらず礼がなってない。
それにアスラとは……きっとニャーに何か用があってきたのだろう。
「力になれてよかったのにゃ。それでニャーに御用かにゃ?」
「はい。ロイ・アスラの名……そう名乗るからにはきっと我が叔父ドトール・アスラと何かしらの関係があると思いお話を伺いたく参った次第にございます」
「師匠のかにゃ?」
「師匠……とは、そのドトールがですか?」
「そうにゃ」
「すみません。ドトールとはいつ会ったのですか? 私の知る限りではニャステンブルク殿のような弟子を持っていた覚えはありません」
「つい最近にゃ。師匠の身内に会えてニャーは嬉しいにゃ」
「つい最近……ですか。ニャステンブルク殿を疑うわけではありませんが……それはおかしい話なのです」
「おかしい話にゃ?」
「はい。なぜなら私の叔父ドトールとその息子ロイは……5年前に亡くなっているのですから……」
「ニャー……そのわけを知りたいのにゃ?」
「はい」
「少し長い話になるのにゃ」
「構いません」
それからニャーはあの場で起きたことを話した。
ニャーがいたメドレ村にルプスの群れとエンドルプスの脅威が猛威を振るいメドレ村が壊滅してしまったこと。
キータに井戸に突き落とされ生き延びたニャーが悲しんでいた所に師匠が現れたこと。
そこでしばらくエンドルプスを倒すべく師匠から剣を学んだこと。
ある日ソラとリィニャが来てようやくエンドルプスを討伐をしたこと。
そして……師匠はもう死んでいて無念の果てにレイスに身を落としていたこと。
最期にニャーがとどめをさしたこと。
ノルンは最後まで聞いてくれた。
そしてゆっくりとため息をつく。
「これがニャーの知る師匠のことにゃ」
「そうでしたか。ドトールさんは……立派に騎士としての勤めを果たしたのですね」
「ニャー……ニャーにはもったいない師匠だったにゃ。短い間だったけどニャーの心にはしっかりと師匠の魂は残ったのにゃ」
「そうですね。きっとドトールさんも鼻が高いでしょう。こうして育て上げた騎士がたくさんの人を救い英雄と呼ばれるようになったのですから……」
「なんだかこそばゆいにゃ。良ければ師匠のことについても教えてほしいのにゃ。5年前何があったのかや師匠がどんな人だったのかを知りたいのにゃ」
「はい。ニャステンブルク殿」
「ニャーでいいにゃ」
「わかりました。ニャー殿」
それからノルンは師匠の事について教えてくれた。
アーグレン国の剣術の道に進む者においてノルンの父、アドラスにかなう者はいないと言われている中で互角以上の戦いをしたのがドトールだったという。
いつも規律や騎士としての精神を重んじる堅物だったらしい。
それも戦争のせいなのか笑顔でいるところなど誰も見たことはなかったのだそうだ。
そして5年前、アーグレンとメールヴァレイの戦争が激化しいよいよ神使いの聖騎士の4人が敵国へと攻めようとしていた。
しかしアーグレンだけの兵站では前線を支えることができず行軍に支障をきたしていた状況で思うように攻めることができずにいた。
そこでアーグレンより東方にある隣国のオーラスタリアに支援を仰ぐべく交渉に出たメルトリア家の奥方ルーネル・アル・メルトリアの護衛につく任務をドトールが請け負った。
ロイはドトールの息子でその護衛で経験を積ませようとしていたのだそうだ。
けれど、彼らは戻ることがなかった。
「後日、捜索隊が組まれたがルーネル様とロイの遺体が見つかったのみでドトールの遺体が見つからなかった」
「そんにゃ……」
「ああ、そしてドトールは裏切りの汚名を着せられかけた時、レイヴィス領の坑道にてドトールの遺体が発見された。機密文書が地面に隠され機密を守り抜いて立ったまま息絶えていたと聞いています」
「師匠……」
「だからニャー殿と……叔父に接点があるとは思えなかったのです。ロイ・アスラの名を聞いた時は驚きましたよ」
「ニャー。ニャーも今驚いてるにゃ。ニャーをおちょくったりしって笑っていた師匠がそんな堅物なんて言われるくらいの人だったにゃんてにゃぁ」
「笑っていたのですね」
「師匠はひどいかったのにゃ。ニャーが必死に剣を振っている最中に釣り糸でぴょんぴょんってさせて気をひいてニャーが飛びつくのをみて喜んでいたのにゃ!」
「ふふ……私の知っている叔父ではないですね。ですが……昔は温厚な方だったとも聞いております」
「そうにゃ。師匠は優しかったにゃ」
「わかりました。お話をしてくださりありがとうございます」
「ノルンもありがとうにゃ」
「いつか叔父の残したニャー殿の剣と手合わせしたいものです。その時は受けていただけませんか?」
「ニャーは不毛な戦いは嫌いなのにゃ」
「模擬戦ですよ。ニャー殿」
「それなら構わないのにゃ」
「ありがとうございます。それでは私はステファン様の護衛に戻りますので失礼いたします」
「それじゃにゃ」
ニャーの知らない師匠の一面を知れてなんだかうれしい。
ここへ来た時は獣人は認めない怖い家なのかと思ったけれどなんだか話せるいい人でよかった。




