第103話 晩餐会
日も沈み空が暗くなってきた頃、豪華絢爛な城の大ホールで晩餐会は行われた。
ホール全体を照らすきらびやかなシャンデリア。
玉座まで伸びる赤い絨毯。
俺達が女王様へと謁見した所もすごかったけれどここはそこより大きい。
立食形式でいくつも並べられた丸テーブルの上には飲み物や美味しそうな食事が並べられている。
周囲にはこの国でさぞお偉いだろう方々がテーブルを囲んでいる。
そしてホールの中央はテーブルが避けられサイドには演奏が行われるだろう道具の数々が置かれていた。
きっとここでリィナの言っていた舞踊をするのだろう。
そしてこの晩餐会はシーナ女王陛下の挨拶から始まるのだった。
「皆の者。忙しい中宴に来てくれたことここに感謝の意を示す」
女王自らが頭を下げたけれど、こういうものなのだろうか。
「此度の宴は勇者一行の活躍を讃えるべく開かれたものであると同時に今日まで戦い続けてくれた忠実なる其方らをねぎらうためでもあることを心にとめておいてほしい」
その勇者一行の俺達は玉座の階段がある脇に特別に設けられたテーブルの前にいた。
すると突然女王は俺達を指し示す。
「まずは勇者様一行の紹介から行わせていただくとしよう。こちらのテーブルにて控えておられるのが本日の主役である勇者カタナシ ソラ様だ」
シーンとする中でリィナが俺に合図をくれた。
え? これ何かしゃべるの?!
どうしたものかと考えていると小声でリィナ。
「一歩前へ出てお辞儀するだけで大丈夫ですよ」
それからその通りに前へ出てお辞儀をした。
すると拍手が起こり俺は後ろへと再び後ずさる。
すると女王は続ける。
「奇抜で勇敢な装いでアメリア領を反乱の魔の手から救い。ソネイラルの計略を討った者だ。皆、その英雄譚を聞きたいものと思うが無礼講とはいえ失礼のないよう努めよ」
奇抜で勇敢な出で立ちって……物は言いようだな。
そういえばレジナードさんも葉っぱ一枚で奮戦したことについて喜んでいたような覚えがあるけど偉い人って皆その気があるのだろうか。
「それから皆知ってのとおりリィナ・ルナレ・アメリアだ。今日までソラ様を支え尽くしている。此度の戦いでもソラ様に貢献し勇者一行の者としてその場にいることを皆忘れないように」
紹介といってもリィナは貴族の間じゃまあ知らない人はいないのだろう。
アメリア領を治めるアメリア家の長女。
肩書を今一度意識するとほんといいところのお嬢さんなんだよな。
しかし……相変わらず社交の場のリィナはめちゃくちゃ綺麗だ。
「それからその隣にいる獣人、一部、あまりよく思わない者もいるだろう」
ニャーの紹介だ。
意識の改革が始まったとはいえ、一部の人たちの顔が曇る。
元の世界でも白人、黄色人、黒人と種族どころか同じ種でも差別意識が絶えなかった。
それが全く違う種族となると、その意識がどのようにひどくなるものなのかは想像ができない。
「しかし、今やレラデランの英雄と呼ばれ大多数の国民を救い天使を退けた功績がある」
へ?
まさかレラデランに残っていたニャーがそんなことをしていたとは……
ニャーを見るとニャーは小さい胸を張って「フン!」っと誇らしげにしている。
「皆も知る家の出かはわからないがロイ・アスラ・ニャステンブルクと言う。この者に狼藉をしたものは如何なる場合にも法の元、平等に処されることを心せよ」
女王のこの一言でやはり異種族でアスラという名を名乗るのはリスクがあるということを今更思い知らされる。
「最後にケンジョウ ザンカ。耳の早い者は注目せざる負えない者だろう。かのメールヴァレイ帝国、魔王アヴァラティエスを討伐したケンジョウ センジュの息子だ」
皆が一気にザンカへと視線を送る。
俺は少し嫌な予感がしてザンカの方を見ると口をもぐもぐとさせていた。
こいつ、つまみ食いしていやがった。
ニャーの冷ややかな目とリィナは片手で頭を抱えた。
「此度の戦いにおいて黒とソネイラルの陰謀を未然に防ぎ単騎で黒の大半を落とし大多数の天使を倒した功績を残している。実力は相当なものであろう」
こうして聞くと皆、すごい活躍していたんだな。
正直俺は、俺の事でいっぱいいっぱいだ。
もしかして俺達って結構、曲者が集まってるのだろうか。
「以上が勇者一行の紹介だ。今宵は無礼講、皆が心行くまで戦いの休息となる場であること。光となった魂が静かに眠れることをここに祈る」
するとシーナ女王はグラスを掲げた。
「乾杯」
すると全員で「乾杯」と一斉にグラスを掲げる。
そこから晩餐会は始まった。
楽団の演奏が始まる。
見たことの無い楽器があるがとても綺麗な音色を奏でていてすごい気になる。
それから俺達は次々と来てくれた貴族と挨拶をした。
そんな挨拶が一通り終わった時だった。
「リィナ? 本当にリィナなのか?」
「キャロル! 無事で本当に良かった!」
「あ、ああ。リィナもな。ふふ、私がそう簡単にやられるわけはないだろう?」
「でも……」
「しかし、危なかったのは事実だ。ニャー殿にはとても世話になったよ」
「ニャーさんが?」
「にゃー。キャロニャもあの後無事でなによりにゃ」
「ニャーさんと何が合ったのですか?」
「ああ、私はルクサリア教会前でニャー殿に命を救ってもらったんだ」
「あの時は間に合ってよかったのにゃ」
「そうだったのね。ニャーさん。本当にありがとうございます」
リィナは深々とニャーに頭を下げるのだった。
「どういたしましてにゃ!」
「それで、その髪はどうしたんだ? 一瞬、誰だかわからなかったぞ?」
「これはですね。あまりこの場では……」
「そうか。まあでもリィナが無事でよかったよ。ソラ殿がまさか勇者様であったとは思いもよらなかったけど……隠していたな?」
「えと、その……ごめんなさい」
「まあ、勇者ともなれば仕方もないが……私は少し悲しいぞ?」
「だから……ごめんなさいって」
「あはは。冗談だ」
「もう、キャロル……」
するとそんなやり取りの最中、キャロルに続いて王都貴族の娘達がやってきたのだった。
この娘達もリィナの友人なのだろうか。
「お初にお目にかかります勇者ソラ様。私はサリナ・エトル・ウルスと申します」
あれ、リィナじゃなくて俺?
呆気にとられながらもとりあえずサリナと名乗る娘へと向き直る。
淡い朱色の髪が特徴的ないかにも淑女と言った振る舞いをしている。
後ろに控えている女性達は皆口々に「まさか勇者様にお会いできるなんて」や「冒険のお話を聞いてみたいわ」だったりと単純な興味でここへと来たようだった。
「先ほど女王陛下よりご紹介いただきましたソラです」
軽く挨拶を終えるとサリナ。
「この度のご活躍、誠に感銘を受けた次第にございます」
「申し訳ございませんが私の働きは十分とは言えないでしょう。多数の死者を出してしまったことはとても悔やまれます」
ここで奢らずに失礼にならないように……いやでも実際のところそうだ。
天使に殺された人々は今でも数えきれない程に多いと聞く。
ほんと、なにが勇者だ。
思い上がりではない。
でも、だけど……あの場にいたところで俺は……最善を尽くせたのだろうか。
「そんな御謙遜を! この平和は勇者様あってのものと思いますわ。私はその功績に直接お礼を申しに伺った次第にございますの」
すると何故か距離を縮めてくるサリナ。
「あ、いやちょ────」
「もし、よろしければこの後お時間がありましたら、勇者様のお話をお聞かせ願えないでしょうか? 私、ソラ様の冒険譚にとても興味がありますの」
近い近い近い。
そしてこの状況に割って入る人がもう一人現れた。
「サリナ様、抜け駆けは卑怯ですわ?」
「な? アリエル……」
「ソラ様はよくお酒を嗜まれると伺いました」
「え、なんでそんなことまで?」
いやまあ、よくよく考えればリィナの件といい今回の事と言い俺が酒のために動いたことなんて筒抜けなのだろう。
しかし、どこからこういう情報って抜けていくのだろうか。
「勇者様の趣向は皆が興味のあることでございます。私はアリエル・ミル・メルトリアと申します。メルトリア家は代々産業、国交の管轄をしておりますの」
「産業と国交……ですか」
「はい! 先ほどご挨拶させていただきました父ノリスもお酒に目がないんですよ?」
「ほほう?」
この人、酒についていろいろ知ってそうだぞ。
「よろしければこの後語らいませんか? アーグレンや他国の美酒をお持ちいたしますのでよろしければ」
わー、すっごい興味ある。
いやでも……さすがに餌が良すぎるぞ。
絶対裏がある。
だめだ断るんだ。
「この後については大変失礼ではございますが遠慮させていただきます」
「あら、残念ですわ」
「アリエル様はお酒を嗜まれるのですね?」
「はい! 父に継ぎ私もとても興味がありますの!」
「それはすごいですね。そうですね……アーグレンで一押しと言うとどんなものがありますか?」
それからというもののアリエル嬢とお酒の会話で盛り上がってしまった。
一押しはアーグレン北側にあるノードランド領原産のアウリス。
そして甲乙つけ難いところにアメリア領原産のヴァティスやレイヴィス領原産のエルーサだそうだ。
アウリスは麦、レイヴィスはヴァティスと同じく果実が原料なんだそうで……すっごい飲んでみたい。
そんなお酒の話もぶつ切りに俺が話しやすい相手だとわかったからか次々と自己紹介に加えて趣味や趣向について聞かれるのだった。
王都貴族の淑女様方に……
しかし、とてつもないモテっぷりだ。
人生でこんなにモテた試しなんて無いからすっごい感動的だけれどとても複雑な気持ちだ。
困り果てているところへとキャロルが助け舟を渡してくれる。
「ソラ殿! お話もいいがせっかくのお料理です。ご堪能されてはいかがでしょうか? まだ食事は摂られてないでしょう?」
「あ、ああ! 申し訳ございません。私はこれで! また機会がありましたらお話をしましょう」
こんな挨拶でいいのだろうか。
惜しむ声が聞こえるけれど勇者様のお邪魔はしてはいけないと皆一歩引いてくれる。
俺が元のテーブルへと戻るとキャロル。
「さすがはソラ殿ですね。おモテになられておいでで」
「勇者ってこんなにすごいのかって今思い知りましたよ……」
「そうですね。ソラさんなんだかとても楽しそうでしたよね?」
「え、いや楽しいって程じゃ」
俺がリィナの方を向いた途端に食事を摂りながらそっぽを向いてしまったリィナ。
「メルトリア様なんかは特にお酒がお好きですからさぞお話も弾んだことでしょう?」
「あ、いや。そりゃまあ、そうだけど」
「へぇ、そうですか。やっぱり一緒にお酒を嗜める方のほうがいいんですね?」
「え? いや、ちょっとリィナ?」
その時だった。
「勇者ソラ殿……御挨拶に伺いました。この度の御活躍、大変喜ばしく思います」
突然、声をかけてきた人物も大変聞き覚えのある声だった。
けれど今までの挨拶と違いとても攻撃的な感じがするもので振り向くとそこには俺を睨みつける男がいた。




