第101話 タマさん
「ひとついいか?」
「なんじゃ? 端的に申せ」
すっごいちょこんとお座りしているだけなのに高圧的だ。
「んーウカノミタマ……さん? は今」
「様じゃ」
「んん……ウカノミタマ様は俺から離れて自由の身になっているんじゃないのか?」
「ふむ……そうじゃが。少し違うの」
「違う? さっきの口ぶりだと久しぶりにその姿になれて自由の身になったって意味だと思ったんだけどさ」
「半分は合っておるがもう半分がの」
「半分?」
「そうじゃ、あの魔王に無理くり仮の主様と契約をさせられたのじゃ」
「え、契約? 俺そんなのに同意してないぞ? ってか魔王?!」
「我もじゃ。しかし……仮の主様は、あの魔王ゲーテを知らぬのか?」
「いやいやいや。ゲーテ? あの場に魔王がいた?!」
「えっとソラさん。どういうことですか?」
それから首を傾げるリィナにソネイラルと戦った日にお面ことウカノミタマを謎の人物にもらっていたことを教えた。
「それでタマさんのお面がソラさんに……」
タマさんのお面って……
というかそれより。
「ちょっとまって、何で魔王が俺を助ける真似を? そもそも魔王って勇者を疎むような存在じゃないのか?」
「それもそうじゃが……まあ、面白くないからじゃろう」
「は?」
「あの魔王は魔力の欠片も使えない仮の主様がこのまま破壊の神に魂を売ったあの男にあっけなく殺されてしまうのが面白くなかったのじゃろう」
「もしかして魔王って……」
「対立せぬような存在ではないぞ? 奴はそういう魔王としか我からは言えん。はるか昔より世界を見てきた三体の魔王の一角。死の案内者と恐れられておるがの」
「なんだかすごい奴だったんだな。魔王が6体いるのは知ってたけど別格な奴もいるんだな」
今は5体だったかな。
「はい。3体の魔王は中でも古くから存在する強力な魔王と聞きます。まだこの世界が終わらないのは彼らがその玉座であぐらをかいているからだなんて言われている程に強いそうです」
「へぇ」
勇者の事もそうだけど魔王の事も知らなさすぎるな。
王道のファンタジー調な世界で12人の勇者と6体の魔王の戦いかぁ。
どうしてこんなことが繰り返されているんだろう。
神代の時代の戦いの名残とかそういうものなのかな。
疑問が多すぎていちいち覚えていられないな。
メモでも残しておきたいくらいだ。
「まあ魔王の話は一旦置いておくとして龍脈をちゃんと使えるようにするってどうすればいいんだ?」
「簡単じゃ。あの神に魂を売った男と戦った時のように我を呼ぶのじゃ」
「呼ぶって……お面をつけろってこと?」
「そうじゃが?」
「ならそう言えばいいのに」
「なんじゃ?」
「なんでもございません! じゃあ試してみるか」
俺は左手で顔に触れるとだんだんと熱くなる感触がではじめた。
そして顔を覆うのと同時にウカノミタマもその場から消えていく。
瞬間、全身に何かが流れる感じがした。
体中が熱い。
やばい何か聞こえてくる。
────斬れ。
────この両手は赤く染まった数の重み。
────己が欲を出せ。
またこれか。
────生を捨て振るい続けよ。
────斬られた者達はそれを望む。
心が飲まれていく感覚だ。
────我らに戦いを強いた憎き神どもを滅するため。
────さあさあ憎き神に迎合する愚かな者どもに主神を代行し神罰を与えん。
────全てを終わらせる時だ。
その声が聞こえた瞬間だった。
右手に何か暖かい感触がある事に気づいた。
じんわりと暖めてくれて次第に声が止んでいく。
「ソラさん!!」
「は……リィナ?」
「よかった……よかったです」
「気が付いたかの仮の主様よ」
「俺はいったい……ありがとうリィナ」
「はい」
「しっかりと瘴気に飲まれておったの」
「瘴気?」
「あまり良いものじゃないがの……しかし仮の主様は神に与えられた恩恵の天性で魔力を封じられておるのじゃ」
「やっぱりか。でもなんでそんな……」
「さあの。受けた理由まではわからん……じゃが我の瘴気は天性を阻害することができる」
「それで、その瘴気の効果はわかったがなんなんだ?」
「さあの」
「さあって……」
「すべての物事に理解が及ぶものではなかろう?」
「まあそうだけどさ」
「一つ言えることはかつて我は豊穣の神として崇められていたのじゃ」
「豊穣の神? そんな感じには見えないけど」
「うるさいわ! 瘴気が出るようになったのも人に裏切られたのがきっかけじゃったしな」
「タマさん……」
「ほほ。リィナは愛いのう。まあ故に我が妖狐として名を残しておる理由じゃ。日本人ならそれも知っておるであろう?」
「九尾狐の伝承のことか? 俺はよくは知らないけどそうか……タマさんも大変なことがあったんだな」
「もう昔の話じゃ……して仮の主様よ。この瘴気は負の感情を増幅させ体に毒をもたらす」
「ああ、気分の良いものじゃなかった。恨みや辛み、妬みや嫉みのような物が心の中を一瞬で満たした。でもそのどれもが俺が抱えたようなものじゃないんだけどどういうことだ?」
「刀のせいじゃな」
「あぁ……」
「思い当たる節は多そうじゃの?」
「まあな。気が付けば脇差と一緒に俺の体にくくりついてるし……まったく訳の分からない刀だけどさ。これのおかげで今日まで生きてこれたようなものだよ」
「ほほう。訳の分からない刀か……それが聖伝十二武器であることを仮の主様は知っておるのか?」
「え? 何それ初耳。リィナは知ってる?」
「いえ、すみません。そのような物は知らないです」
「謝る事じゃないよ。なんか、ごめん」
「知らなくて当然じゃ。神代の時代に創られたものらしいからの。我とて詳しいことはわからぬがいつも勇者と共にあったらしいの」
「詳しいことはわからないって言いながら何でこの刀が聖伝十二武器とやらだってわかるんだ?」
「それは……言いとうない」
「そうか。言いたくないならしょうがないか。けど瘴気に飲まれるとどうなるんだ?」
「いずれ死を迎えるじゃろう。我の残した呪いで多くの者が錯乱し殺し合い血を流して死んだと聞くからの」
「ああ……やばいやつかぁ」
「神に魂を売った男との戦いで飲まれなかったのは覚えておるな?」
「そうだな。でもあの時は無我夢中だった」
「そうじゃの。瘴気は心を乱す。しかし強き覚悟はそれをも跳ね除けるのじゃ」
「なるほどなぁ……つまり強い覚悟を持ってタマさんを身につけないと負の感情に飲まれるというわけか」
「うむ。その覚悟があれば仮の主様なら自らの魔力を使いたい放題できるからの」
「使いたい放題……そういえばあの時は力も増した上に変な技まで仕えたな」
「魔力が使えないなど、この世界では弱者も同然じゃ。そこの修羅人なんかが良い例じゃろうて」
「修羅人?」
「ほれそこにおるじゃろ?」
タマさんの小さい指の先にいたのはザンカだった。
「ん? どうした? 話はおわったか?」
「いや、まあ終わりかけではあるけど……ザンカって修羅人って人なのか?」
「修羅人? さあ?」
「んー」
「聞いても無駄じゃろう。我が知っておるのは修羅人は弱く魔法が使えない種族じゃ。力だけは強かったが故に肉体労働を主に生業とする奴隷として扱われていたと聞いておるぞ?」
「ん? でもザンカってめっちゃくちゃ強いぞ?」
「そんなはずはなかろう。魔力を扱えぬなら肉体の強度など保てるはずなどない」
「んー……なんか認識に齟齬があるな。まあいいや。覚悟だな?」
「そうじゃな。まずは我をちゃんと扱えるようになってみせよ。主様と呼ぶのはそれからじゃ」
覚悟かぁ。
俺はあの時、何がために戦ったんだ。
でも……これは愚問だ。
答えなんてもう出ている。
「よし」
再び俺は顔に手をやり仮面をだした。
そして気が付くと俺はリィナに膝枕をされているという夢のような所で目が覚めるのだった。




