40話 中途半端な存在
僕がニコラスのいる出窓の目の前までやってくると、ニコラスは驚いたのかカーテンをピシャンと閉めてしまった。
「待って、ニコラス! 僕は君の敵じゃない! ちょっとで良いんだ、僕の話を聞いてほしい!」
僕がそう呼びかけてもカーテンの向こうはしんとしたままだ。それでも僕は、聞いてくれていると信じて話を続けた。
「僕はフィル・ガーネット、5歳。ガーネット領主の息子だよ。ニコラスは何歳だろう……18歳くらいかな? 5歳の子どもにこんなこと言われても嬉しくないかもしれないけど……僕は君とお友だちになりたい!」
しらばくそのまま辛抱強く待つと、ゆっくりとカーテンが開き、出窓もキィッと開いた。ニコラスが視線をそらしながら顔を出す。
「なんで……」
彼はボソッとそう呟いた。
「ありがとう、ニコラス。僕、できれば魔力を温存したいから、ちょっとここ座らせてね」
僕はそう言って出窓に腰掛けた。
「なんで……僕なんかと友だちになりたいの?」
と、ニコラス。
「なんでだろう……強いて言うなら、前にも君が僕のことを見ていてくれたから、かな。それで君と話してみたいって思ったんだ」
「だって、こんな小さい子が……あんな堂々としてて……なんでそんなに堂々としていられるんだろうって、不思議に思ったんだ……」
「僕、そんな堂々としてる?」
「うん……僕なんか、君さっき18歳? って聞いてきたけど、その倍の36歳だよ……なのに、僕はウジウジして……バカみたい」
「えっ!?」
蓋を開けてみてビックリ、グレンよりおじさんだったか……。
「36歳って言っても、妖精族の間ではまだ子どもだよ……。それこそ、人間で言うと15歳くらいかなって、お父様は言ってた」
「なるほど、そう言う事か! 妖精族は長命なんだ」
「まぁ……ちゃんとした妖精族ではないんだけど……」
ニコラスはそう言ってうつむく。
「ん? どゆこと?」
「……ハーフなんだ。人間との。本当の父親が、人間なの」
「ハーフ! そっか、じゃぁ、妖精族でもあるし、人間でもあるって事だ?」
僕がそう言うと、ニコラスは首を横に振った。
「違うよ。妖精族でもなければ、人間でもない、中途半端な存在なんだ、僕は……」
「自分をそんな言い方しなくてもいいのに……」
すると、ニコラスは突然声を張り上げて「妖精族の集落でそうやって言われて追い出されたんだ! 人間の血が混じってたら、中途半端なんだよ……!」と、目に涙をためてそう言った。
「そっか……そんな風に追い出されたんだ。ごめんね、僕、知らなくて」
「……いや、僕も、強く言って……ごめん……」
「ううん、良いんだ、全然。それにね、僕はニコラスが中途半端だなんて思わない。今のこのペリドットの町のみんなを助けられるのは、ニコラス、君しかいないって、僕は思ってる」
僕がそう言うと、ニコラスは「えっ、君、何意味不明なこと言ってるの……!?」と驚いていた。
「ニコラスの持ってる魔力だよ。その癒やしの性質全振りの魔力。妖精族特有のものだね」
「癒やしの……性質? 僕の魔力が?」
「そうだよ。回復魔法を使ってみたら分かる。使ったことある? 回復魔法」
ニコラスは全力で首を横に振った。
「ない、ないない。魔法なんて使ったことないよ。僕なんかができるはずがない」
「よく聞いて、ニコラス。さっき庭のみんなを見ていたのはなんで? 心配だから?」
「う、うん……なんか大変なことになっちゃってるから……」
「優しいんだね、ニコラスは」
「そ、そんな事……」
「ね、1回だけ、騙されたと思ってやってみよう、回復魔法。僕の杖を貸してあげる」
「えっ、でも……やり方なんてわかんないよ」
「大丈夫、僕が教えてあげる」
「で、でも……!」
「僕、下で待ってるから。絶対に来てね!」
「え、あ……!」
僕はおどおどとしているニコラスに一旦の別れを告げて、出窓から飛び降りふわっと庭に降り立った。
「あれ、ナンパ失敗か?」
と、グレン。彼はまだ湧き出るスライムと戦ってくれていた。そのため僕もスライムの討伐の加勢しつつ「いやいや、庭で待ち合わせしただけだから」と返事をした。
その数分後、お屋敷の扉がガチャッと開き、猫背でおどおどとしているニコラスが顔を出した。




