39話 気になっていた存在
ペリドット卿が口を開く。
「私からの報告は、町民・騎士団員共に負傷者で溢れかえり、道具屋の回復アイテムが底をついてしまった。今は私の屋敷でレベッカちゃんを中心に回復魔道士たちが治療に当たってくれているが、皆魔力が尽きかけていて、こちらもピンチだ」
「うっ、そうなの? まだこれから町の外から傷だらけの騎士団が帰ってくるのに……。それに、れべちゃは後で僕とアマツ山に行かなくちゃだから、ここで魔力が尽きちゃうのはヤバいな……」
「そうか、レベッカちゃんは結界が張れるのだったね。なら、とりあえずレベッカちゃんの魔力は温存するかい?」
「うん、そうだね、僕もおじさんのお屋敷に向かうから、おじさんは町に帰ってきた騎士団の人たちの重傷者をお屋敷に連れてきてくれる?」
「あぁ、分かったよ」
僕はおじさんと別れてお屋敷へと向かう。側で聞いていたフウガも僕の隣へ並び、こう尋ねてきた。
「フィル様の魔法で町の人を一気に回復することは出来ないんですか?」
「うん……僕の魔力は攻撃寄りみたいで、回復は一応できるけど単体回復しかできないんだ」
僕の“大賢者”のスキルも万能じゃない。前世では何でもできたけど、今世は身体が小さいからなのか極端にできない事がある。回復魔法がその例だ。
「なるほど……分かりました! なら俺は魔物の殲滅を続けながら重傷者がいれば屋敷に連れて行くようにします!」
「ありがとう、助かるよ!」
フウガは「お安い御用!」と言いながらどこかへ消えていった。流石お姫様の右腕、こういう時の判断が早くて頼りになる。
⸺⸺ペリドット領主の屋敷前⸺⸺
屋敷前の庭で、既に何人もの負傷者が横になっていた。つまり、屋敷の中はもう満員って事か……。
「フィル様~!」
庭の負傷者を看病していたレベッカが僕を見つけて飛んでくる。
「れべちゃ! 調子はどう?」
「皆さん怪我がひどくて……重症の方を優先に回復していますが、完治出来ていない方がほとんどです……」
レベッカはうるうると目に涙をためる。
「ありがとう、れべちゃ。重症の人が軽症になっただけでも大助かりだよ。でもごめんれべちゃ。この辺りでれべちゃの魔力は温存しよう。一番大事な結界を張るのを手伝ってほしい」
「はいぃ、分かりました。では私は消毒や包帯などのお医者さんのお手伝いに回りますね」
「うん、ありがとう!」
そうしているうちに、さっき町の外であった騎士団の重傷者が運ばれてくる。
「フィルぼっちゃん! 彼が出血がひどいんだ、優先的に頼むよ!」
と、ペリドット卿。
「分かった、そこに寝かせて」
僕は魔法杖を構えると、その血まみれの人に回復魔法をかけた。よし、なんとか傷は塞がったみたいだ。
一通り重傷者を回復し終えると、やっとふぅっと一息つく間ができた。
「ふぅ……あれ?」
その時ふと、“あの視線”を感じた。慌ててお屋敷を見上げると、2階の出窓からペリドット卿のご子息のニコラスが不安そうに庭を眺めていた。
あっ、彼の魔力は……!
僕は彼のもとまで行こうと魔力で浮き上がる。すると、目の前の庭の芝生からドロドロとあの魔石の森で見かけた巨大スライムが湧き上がって来たのである。
「っ! こいつは!」
まさかあのスライムがペリドットの町にまで現れるなんて……!
庭にいた救助隊からも「きゃぁー!」と悲鳴が上がる。こいつの討伐が先か……!
その時、僕の後ろからグレンの声が聞こえてくる。
「れべちゃ! 雷のエンチャント!」
「は、はいぃ! エンチャント・雷!」
そして急にグレンが僕の前に移動したかと思うと、目の前のスライムが弾けて消えた。
「ぐれちゃ! ナイス!」
「お前はいけ! あいつが気になってんだろ」
「うん! 任せたよ、ここは!」
「おうよ!」
僕は今度こそ浮き上がり、2階の出窓へと向かった。




