38話 駆け付けた英雄
⸺⸺アマツ山道前⸺⸺
ペリドットの町を出ると平原の辺り一面が魔物で覆い尽くされていた。まるでアリの大群のようだ。
その大群の向こう側で、カグツチが魔物を次々と蹴散らしているのを目撃する。
「サクラじゃ! サクラとカグツチが戦っておる!」
と、スズラン。
「すずちゃはサクラ姫様と合流して!」
「恩に着るぞ、フィル!」
スズランはそう言って夜叉モードを発動し、竜巻のように魔物を吹き飛ばしながらカグツチの方へと向かった。
「僕は山の麓辺りを一気に叩く。らいちゃは町への侵入を防ぐんだ」
「うん、分かった……」
ライカはボソッと返事をすると、町の入り口にある物見やぐらのてっぺんへ一気にシュタッと上り、そこから空に向かって電気をまとった矢を何本も同時に放った。
太陽の光で矢が見えなくなったかと思うと、辺り一帯に無数の稲妻が降り注ぐ。
あっという間に町の前が更地になると、遠くで戦っていたペリドット騎士団が僕たちの存在に気付いた。
「ガーネット騎士団だ! ガーネット騎士団が応援に来てくれたぞ!」
僕はその騎士団の頭上を魔力を使ってスーッと通過する。
「フィル様!」
「フィル団長!」
僕を見上げてそう声をかけてくれるペリドット騎士団の人たちに手を振って、僕はアマツ山の麓辺りで大きな団子になっている魔物の上空へと辿り着いた。
今は力を制御する必要がない。僕は魔法杖は背中に収めたまま、両手を前に突き出した。
⸺⸺上級風魔法⸺⸺
「テンペスタ!」
魔物の大群がブワッと一斉に舞い上がり、巨大な竜巻に飲み込まれて消えていく。僕は巨大な掃除機をかけるようにその竜巻を動かし、アマツ山から流れてきた魔物を一掃した。
よし、これならしばらくの猶予がありそうだ。
「流石フィルの魔法は規模が違うのう~!」
そう言ってスズランがサクラとカグツチと共に僕のもとへと合流する。
「僕は一旦町に戻って被害の状況を確認する。すずちゃはらいちゃと一緒にアマツ山道の魔物の殲滅をしてほしい。サクラ姫様とカグツチは山で戦うのは危ないから、町の入り口の防衛をらいちゃと代わってあげて!」
「了解じゃぁ~!」
「承知です!」
『御意!』
僕は空に浮かんだまま町へととんぼ返りする。その途中ですれ違ったペリドット騎士団のみんなは傷だらけでかなり疲弊しているように見えた。
「みんな! 町で回復するから、ここの守りはサクラ姫様に任せて、一旦町の中へ~!」
僕がそう呼びかけると、騎士団の面々は「助かったー」「死ぬかと思った」等と言いながらゾロゾロと町へ帰還していた。
⸺⸺ペリドットの町⸺⸺
町に入ると目の前にシュタッとフウガが現れる。
「フィル様報告します。グレ兄とペリドット騎士団と共に町の中の魔物の殲滅に当たっておりますが、どうやら町の中の魔物は外からの侵入のみではないようです」
「えっ、町の中に直接湧いてるってこと?」
「そのようです。ペリドット騎士団の中に、路地裏に急に魔物が現れるのを見たと言っている者もおります」
なんてこった。あの魔石の森のスライムみたいに厄介じゃないか。
そこへ、ペリドット卿も合流する。
「はぁ、はぁ。フィルぼっちゃん! 応援ありがとう。レベッカさんから聞いて、今動ける団員で町中の余った魔石を回収しているところだよ」
「ダグラスおじさん! うん、ありがとう。どんどん集めちゃって」
「フィルぼっちゃん。私らペリドット騎士団は、ガーネット領がシルバ騎士団からの悪徳請求に悩まされているのを知りながら、助けてあげることができなかった。でも、フィルぼっちゃんはこうしてペリドットのピンチにすぐに駆け付けてくれた。私は団長として、領主として、情けなく、恥ずかしい限りだ……」
ペリドット卿はシュンと落ち込む。
「ちょ、ダグラスおじさん。それはしょうがない事だし、今は昔の事を落ち込んでいる場合じゃないよ。今の話をしよう」
「うっ、全くもってその通りだ……」
ペリドット卿は2段階に落ち込むと、顔をふるふると振って気合いを入れ直した。




