表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/23

第23話


「イトラ、朝食ができたよ」


 朝8時。

 2人用にしては少し大きいテーブルの対面に座って、いただきます、と手を合わせる。

 朝食プレートには、サラダと卵にスープ。

 そして、サクリと音を立てる手作りクロワッサンに、イトラは美味しいと感想をくれる。


 この家に来て今日で3日目。

 時計の針がゆっくりと進んでいるような、静穏な時を過ごしていた。


「イトラは朝食だと和食か洋食どっちがいい?」

「どっちも好きだよ、真の作るものなら」


 照れるような褒め言葉をくれるイトラだけど、本来はイリセンスが毎日食事を取る必要はない。一週間程度なら飲まず食わずでも問題なく、生肉でも大丈夫だという。

 それでも一緒に食事をするのは、まだ食べたことがないものを食べたいという好奇心と、僕が毎日栄養を必要とするからだ。

 「人間にとって、共に食事をすることは良いコミュニケーションになると聞いた」と言っていた。


 僕は二重の意味で「ありがとう」とお礼を言って、気になる料理があれば教えてと伝えておく。

 元々料理をしたことはなかったが、イトラと一緒にいたいと決めてから日常生活で必要なことは一通り学んだつもりだ。その中でも料理は存外楽しくて、その奥深さに感動さえ覚えた。


 他愛ない話をしながら朝食を食べ終えると、イトラはソファの近くにある窓を開ける。

 爽やかな風とサンキャッチャーの作る虹がイトラに触れるのを、自然と上がる口角をそのままに眺める。

 朝の陽でも、夕方の陽でも、光はイトラによく映えるから。

 

 昨日も見ているし、これからも見るつもりだけど、何回だって見ていたい。

 だって、今も同じ時を過ごしているのに、次の瞬間にはこの空間が全て消えてしまいそうな感覚が、どうしても拭えないから。

 そんなことを考えはじめると、ほら、体が痺れてく―――。けれど、


「真、洗い物をしよう」


……頭で考えをこねくり回して感傷的になっても、幸福なことに今は一緒にいるわけで。

 片付けも掃除もしなくていいと言ったのに、体験だよ、と一緒にしてくれる優しいイトラ。

 体の痺れはすぐに消えて、このあとは何をするか、なんて当たり前のように話しながら片付けていく。


 家で過ごすのもいいし、外に出て探検するのもいい。

 今まで外出する方ではなかったけれど、自然には何とも言えない魅力がある。


 鳥の声、水の音、風の囁き。

 きっと僕が生まれるずっと前から、ただそこにあるものが神秘的であり心地よかった。


 それに、森を歩くイトラが妖精のようにも見えて。

 自由気ままに動く姿は、僕が見たかった景色。

 ただ、その全てを何にも邪魔されることなく目で追える時間が、これほど心満たされるものだとは知らなかったけれど。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ