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第10話


「我らに戦う意思はなかったのだがな、人間たちは戦うつもりらしい。…貴殿はイリセンスがどのように誕生するか知っているか」


 僕はイトラから教えてもらったことをスイに伝える。すると少し考え込んで、加えて説明する、と話し始めた。


「確かに、我らは宇宙空間に浮遊する魂を取り込んで生まれる。そして、その魂に刻まれた様々な性質の中で、人間ほど”多くの感情”に影響される生物はいない。感情自体を持つことは問題ないのだが、近頃はイリセンスの中に感情が強く反映し、暴走する者が現れてな」


 今までのイリセンスは感情が乏しい、というより人間ほど激しい働きを見せなかったらしい。

 生存本能や何らかの対象に対する”興味”は存在し、他の”感情”も人間と同様に理解できるが、悲しいから泣くとか、怒りで体が熱くなるとか、そういった影響を受けることは滅多になかったと。

 しかし最近は、怒りから復讐したり、辛いと泣いたりするイリセンスがいるそうだ。


「我々だけの話であれば、そのイリセンスが強ければ従い、弱ければ打ちのめすだけで済むのだがな。何せ宇宙には我らを狙う生物もいる。この間も敵と交戦中、感情を優先したイリセンスのせいで他数名が消えた」


 困ったものだ、と小さな口で干菓子を転がすスイは、あまり困ってなさそうに見えるけれど。


「このまま感情に影響されるイリセンスが生まれ続ければ、いつか種族全体に脅威を及ぼす。だが同胞をいくら殺したとて、また新たに感情に対して強い影響を受けるイリセンスが増え続ければ今と変わらぬ」

 

 何となく、話が分かった。


「力ある者が感情で暴れると厄介なのだ。だから、我らはそもそもの原因となる人間を減らすことにした」


 全員ではないがな、とスイは残っていた抹茶を啜った。


「地球上にある数国の長には我らが指定した場所に住む人間と、日本人口の9割ほど減らせれば残りは殺さないと伝えたのだが応じなかった。人数を減らせと言ってきた者もいるが、それだとあまり意味がないのでな。我らが断ると、今度は全力で阻止すると啖呵を切った。だから戦うしかないのだ」


 最初にイリセンスが戦うつもりはないと言ったのは、一方的な虐殺をするつもりだったからだ。

 世界が揺らぐことを平然と話すスイに、聞き間違いであって欲しいと思いながら聞き逃せない単語を繰り返した。


「日本…?」

「うむ。魂は動物や植物、魚、虫、その他全て。命あるものが誕生する瞬間にその肉体へと入り込み、その生物として人生を体験する。そして生物としての寿命が尽きるとき、生物の本質を取り込み肉体から離れる。その後は入り込める入れ物があるまで再び彷徨う」


 その際、イリセンスの住む星の近くに浮遊していると、それらの魂を取り込んでイリセンスは生まれる。


「イリセンスの中で”感情”が暴走した原因は、感情の働きが大きい人間に何かしらの関係があるだろうと地球に来た。結果、地球の中でも特に日本を中心として他とは異なるものを確認したのだ。

 我らはこれをカスミと呼び、それがイリセンスに関わる魂に変化をもたらしていると結論付けた。 可能であれば影響を与えるカスミ自体を消滅できれば良いのだが、それは不可能なのでな」


 つまり、日本人というよりはカスミに一番影響を受ける日本国内の人間の魂と、他国でカスミが存在する場所にいる人間の魂に何らかの影響を与え、その魂が集まるイリセンスにも影響するというわけだ。

 では、日本に住む者を他国へ移住させたらどうかと問うと、肉体から魂が抜けた後にカスミの影響を受けているわけではないらしく移住させても無駄らしい。

 ただ、具体的にいつどこで影響を受けるかは掴めておらず、だからこそ、全て消してしまえば手っ取り早いという話だ。

 魂がカスミの影響を受けているであろう人間を減らすと、今後カスミが存在する場所に住む人間も激減する。そうなれば、カスミに影響を受ける魂が減り、今まで通りのイリセンスに戻る。

 スイは僕を上から下までスキャンするように目を動かした。


「この宇宙で人間が誕生してからまだ間もないというのに、奇妙なものだ。だが、感情とはそれほど強いものなのかもしれぬな」


 まるで仙人のようなことを言うスイに、もう一つ引っかかったことを口にする。


「人間を殺したとして、その魂はイリセンスのところへ行くかもしれないんだよね? なら、一度に大勢の人が死んでしまったら、カスミに影響された魂が今より多く君たちの星に流れるかもしれない。そうなると、感情に影響されるイリセンスが更に増える可能性はない…、のかな」


 問題ない、とスイは言い切る。

 あくまで我らの感覚的な話だが、と前置きをして、イリセンスが誕生するにも均衡があると言った。


「我らを創る魂は特定の魂の割合が多すぎる場合、融合に失敗して消滅する。この場合、”割合が多い”にはいくつかの意味があるが…。

 前提として、魂には入り込んだ生物の性質が刻まれると言ったが、一度性質を取り込んだからといって同じ生物を何度体験しても刻まれたものが増加しないわけではない。同じ生物に3度入り込めば、”3度経験した”という記録が刻まれる」


 スイの説明を踏まえた上で、仮に魂が9つ集まってイリセンスが生まれるとする。魂は1つとして同じものは存在しないが、9つのうちの5つの魂が特定の生物の特性の影響が強い場合、5つの魂が他の4つに対して強い影響を与え、イリセンスを構成するのに必要なバランスが取れなくなるらしい。

 また、1つの魂の影響が強すぎる場合。数百年しか存在していない魂に何億年と存在する魂が融合しようとすると、様々なものを経験した長い時間存在する魂が他の魂に影響を与え、この場合もバランスが取れなくなり誕生できないという。


「まぁ、簡単に言えばイリセンスを構成する何万という魂の全体を合わせて、一種類の生物の割合が一定を超えるとバランスが取れず融合に失敗するということだ」


 だから、人間の魂が一度に多くイリセンスの元に流れてきた方が、融合できずに再び浮遊する確率が高いため、むしろ好都合なのだという。

 一度融合に失敗した魂はどこかに霧散し、少なくとも数千年程はイリセンスの星に近づくことはないため、時を経てカスミに影響を受けた魂が再びイリセンスの融合に関わったとしても、数百などであればそもそもイリセンスに強い影響を与えることもない。



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