57話
インが旅立ち、シャドウの話によると他の残っていた竜人も全て帰国したとのことで現在この街には一人もフェルミ国から来ている竜人はいなくなったとのことだ。
インのことは妖精からの報告によると無事に辿り付き、例の二人をかばいながら兄である王を説得中とのことだ。
アルとエルにもインが国に戻り、現在頑張っているということを伝えている。
しばらくは心配して、アルが上の空だったが、託児所の空間にいる別の妖精さんやシャドウからインが無事であることと、心配しなくても大丈夫であるということを伝えているうちに、落ち着いたっぽい。
とはいっても、やはり不安らしく二人が一緒に寝たいという回数が増えたので、いっそのこと落ち着くまで自分の部屋で寝るように話をして、自室のベッドをでっかいサイズに変更して一緒に寝ている。
そんな日々を過ごしていると、常連さんやご近所さんとの会話で来月、秋の豊穣祭が行われるという話が話題に上がる。
豊穣祭とはこの世界に年に2度ある大きなお祭りの一つで、秋と春にそれぞれあるそうだ。
秋は一年の中で一番の実りの秋、収穫の秋、狩猟の秋で、さらに聖霊と妖精に感謝を捧げる祭りでもあるとのこと。
春は一年の始まりに神に感謝し、祝う、春の爛漫祭という祭があるとのこと。
この世界の一年の過ぎ方は元の世界より長い。
世界が広いせいなのか、異世界だからなのか元の世界は一年が12ヶ月なのだが
こちらの世界は一年が24ヶ月ある。
ただ、一月が21日、7日が一週間なので一月は4週。
一年が504日となっている。
やはり世界が違うと一年の長さも違うんだなぁと改めて異世界と自覚する。
でもって、今更だがこの異世界には空に月が四つある。
その月が入れ替わるのが7日ごとなので一週間は7日で4週。
月が四つある理由はトラブルを起こした神が四柱なので、寝ずの番をするためであるとかなんとか。
太陽は一つなんだけどね。
そして、太陽は主神。そして主神を補佐し、世界を維持しているのが朝と昼と夜の神。
さらに、季節を巡らせるのが聖霊であり、補佐をするのが妖精である、というのがこの世界の人たちの考えであるとのこと。
実際、主神であるイシュタル様が世界を管理し、それを補佐し維持をしているのが神であるとのことなのであながち間違っているわけではない。
なので、神々に感謝するのが春で、聖霊や妖精に感謝するのが秋なのだそうだ。
商店通りや冒険者通りには賑やかに様々な店が立ち並ぶび、一週間、賑やかに祭が行われる。
ただ、この時期はこの街の周辺にある町や村からも人が来るため、トラブルも増えるとのこと。
自分がこの世界に来て、はじめての祭なのでちょっと気になる。
気にはなるが子供達のことを考えると浮かれるわけにはいかないので、そこは我慢我慢。
「そうだな、現在街の中にいるフェルミから来ている竜人は一人も居なくなっているからな、短時間であれば 二人を連れて祭に行ってみることもできるぞ」
「え?本当!?」
常連さんたちからお祭りの話を聞いているのは自分だけではなく、子供たちも行きたそうにしていたのだ。
少しだけでもお祭りに参加できるのであれば、少しでも楽しめるだろう。
小さい頃に体験するお祭りって、大人になっても結構覚えていたりするものだ、それが楽しければなおいい。
当日まで状況がどのように変わるかわからないので、話をするのは当日の朝ということでシャドウと約束をする。
もし、事前に話していて何かしらのトラブルがあって当日行けなくなりました。ってなったら悲しいからね。
ちなみに現在はまだ午前中で子供達は勉強中。
自分は夕方の仕込みでシャドウはその仕込みの手伝いをしてくれている。
今日は焼肉定食の日である。
お肉は牛肉。玉ねぎと牛肉を焼肉のタレに漬け込んで注文を受けた後焼くのである。
そして彩りにネギを乗せる。
汁物は根菜をたっぷりお出汁で煮て醤油で味付けをして好みで七味を少々。
副菜である小鉢は白身のお魚を衣をつけてあげた後、人参と玉ねぎを細切りにして、甘酢で漬けたものを。
お肉がこってりしているので副菜はさっぱり、そして根菜の汁物で野菜を補充。
お腹いっぱいになること請け合いです。
根菜は人参、里芋、レンコン、大根に豚肉、あとは油揚げでコクをプラス。
緑が足りないので、根菜汁にもネギをプラスしよう。
お昼ご飯を挟み、仕込みが終わり、お店の開店の時間になる。
「いらっしゃいませ」
「いらっさいませ!」
開店してしばらくしてお客さんが来店する。
「飲み物は、白ワインで ご飯は大盛りでよろしくね」
「はい、少々お待ちください。ミツルさん、
定食でご飯は大盛り、あと白ワインをお願いします!」
「はーい、少々お待ちください」
フライパンに一食分の漬け込んだお肉と玉ねぎを入れて焼く。
その間に魚と野菜の甘酢漬けと根菜汁を盛り、ご飯を準備する。
その間にワインはグラスに注いで、アルに手渡す。ワインだけ先に運んでもらうためだ。
しばらくして、お肉が焼けたのでお皿に移す。
お盆の上にはご飯と汁物、小鉢にご飯、それと味を追加するためのタレを入れた小瓶。
「アルー、出来たのでお願い!」
「はい!」
お盆を受け取ったアルはその小さな体では重いはずのお盆を軽々と運び、お客さんのところまで持っていく。
「定食お待たせしました!」
「お、来た来た。ありがとうよ」
「はい、ご飯と汁物のおかわりが必要な時は声をかけてください。」
そうお客さんと会話をしている横で新たに来たお客さんをエルが対応してくれている。
自分はその間にフライパンを三つ駆使して次のお肉を焼く。
「ミツー、うめしゅとあかわいんおねがいします!」
「はーい!」
今日は一人目のお客さんを皮切りに、次のお客さんが入ってくる。
あっという間にお店の席が埋まる。
とはいっても、6人までしか入れないので次のお客さんは外で待っていてもらっているのだが。
しかし、これ以上お店を広くすると3人では手が回らなくなるので、大きくする気は今のところはない。
しばらく忙しい時間を過ごして、お客さんの波が引いたところで、二人に晩御飯を食べるように促す。子供達には賄いとしてステーキ丼にしている。
事前にステーキ肉を焼肉のたれに漬け込み、それを焼いて、ご飯の上にレタスをそして適度な大きさに切ったステーキを乗せてさらに半熟たまごを乗せているがっつり系丼である。
店内には現在常連のマーテさん、トイラさん親子が二人だけで、
定食を2人前をそれぞれ頼み味わいながら食べている最中だ。
「しかし、このタレは本当にうまいですねぇ」
「うまい、白いご飯の上にタレだけかけてもうまい!」
「これが再現できれば、さらにうちの商会は発展するはずなんですが
父さん、しっかりと味を覚えてくださいよ」
「トイラ、お前こそしっかりと舌に覚えさせろ、次に食べられるのは一週間後だからな!」
「わかってますって!」
というのがこの二人のいつもの会話である。
毎週かならず焼肉定食を食べにくる二人は、うまいうまいと丼ご飯を片手に食べ進める。
「ミツルさん、このタレの作り方。やはり秘密なのですか?」
「ええ、申し訳ありませんが」
「そうですか・・・」
シュンとするトイラさんには悪いが作り方と聞かれてもメーカーの人間ではないので答えようがない。
しかも使っている材料自体、この世界に無いものがあるのでたとえ知っていたとしても完全に再現はできないだろう。
おそるべし焼肉のたれ。
これで別の味もあるんだよーっていったらこの二人、どうなるんだろう。
現時点でタレ中毒になっている節があるので発狂してしまったりして・・・・。
そんなことを考えながら他の来店したお客さんを対応していたら、
食べ終わった二人がじーっと追加のタレが入った小瓶を見ている。
いやぁ、前々から名残惜しそうにタレの瓶を見てるんだよねこの2人。
持って帰りたいと顔に描いてあるんだよなぁ・・・。
まぁ、この世界に自分の世界の調味料の味を普及させないといけないわけだし、小瓶に移しているのでラベルとかが貼っているわけでもないので、仕方ないなぁと2人の席に行く。
「タレ、持って帰ります?そのサイズの小瓶でよければ小銅貨2枚になりますけど」
そう聞けばバッと2人して勢いよくこちらを向く
「い、いいんですか?!!秘伝のタレなのでは!?」
「いいですよ。好きなんでしょ?そのタレ」
「願ってもない申し出ですが、本当に本当にいいので?」
「ええ、どうされます?」
そう聞けばもちろん購入させていただきます!!と2人揃って力強く返事をする。
思わず後ろに引いてしまったが、料理教室に来てくれる人にも販売しているのだ、まぁ、いいだろう。
新しいこぼれないタイプの小瓶に詰め替えて手渡す。
「あまり日持ちしませんから早めに使ってくださいね。」
レジで精算をするときにタレ代込みで支払いを済ませてもらう。
2人は何度も頷いて、スキップでもするかのように足取り軽やかにお店を後にする。
「・・・そのうち、塩ダレとかでもやってみよ」
その後はほどほどのお客さんの流れで、無事に100食が完売し、お店を閉めて、1日が終わったのである。
読んでいただきありがとうございます。(*^^*)




