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「ストレート」sideオムニバス  作者: 業平アキラ
第一編・服飾メイドの恋
1/2

第一話:田中と発光と長谷川さん

皆様、人がきらきらと発光する瞬間をご覧になった事はございますか?


+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*+*˚*




はじめまして。

私(わたくし)は珠洲家・服飾専門のメイド、田中と申します。


歳は二十歳と二つ。

身の丈は百五十七センチ。


仕事は主に、ご令嬢・桜様とご子息・楓様のパーティー時のお召し物を作ること。

それからこのお屋敷で働く皆さんの制服を作ること。


この二つなのですが、私は……

美しいものが大好き。

美しいものが大好きなのです!

(二度も言ってしまいました;)


桜様、楓様は抜群の美貌をお持ちで、ついつい決められた仕事以外にも手が動いてしまい、普段使いのお洋服なども作らせて頂いております。


そんな私の勝手にもお二人は快く袖を通してくださいます。

このお屋敷に勤めさせていただけて田中は幸運の極みでございます。


そしてなんと、桜様・楓様はイマジネーションを刺激する輝きをお持ちです。


お話してくださっている時や、廊下でお見かけした時など、ふとした時にお二人が発光して見える瞬間がございまして。

その一瞬に見えるイメージで私は服を作るのですが、実に目映い光を何度も放たれるのです。

ドレスやスーツといったフォーマル、ジーンズやTシャツなどのカジュアルスタイルの姿の光がその都度目に焼き付くのです。


そうなると私、もう手が止まりません!!!


私の作品の完成は、着て頂いた時。

その瞬間まで創作意欲のエンジンをフル回転させてノンストップ、昼夜食事時問わずノンストップで動きます。

そして目に焼き付けて満足すると、電池がぷっつり。


こんなことをしておりますと執事長の佐藤さんに毎回怒られてしまいますが、自分ではどうしても止められません。



ところで、私が《服飾専門のメイド》といった少々変わった肩書きを頂いたのは、メイド服がどうしても、どうしても着たくてお願いしたからです。

ふふふ♪



「ふ…ふふ」

「田中、田中?起きましたか?」

「はら?…佐藤さん?」

「そうですよ。田中、またこんなところで電池切れですね?」

「…すみません。そのようですわ」


どうやら私はまた電池切れを起こして夢の中に居たようです。

佐藤さんは少々咎める様にソファーで眠っていた私を見ていらっしゃいます。


「田中、いつまでもこのような事を繰り返していますと体を壊しますよ」

「はい。一応分かってはいるつもりですが…」

「”どうしても体が動く”…ですか?」

「……はい」


これだけはどうしようも無いのです…。


「今回の召し物、楓様が大変お喜びでしたよ。田中においしいものを、とご指示で日野がイチゴショートを作ってくれていますから、顔を洗って一階へ行きなさい」


まぁ、楓様が…。服飾メイドの冥利に尽きますわ。

そして日野くんに私の好物を作っていただく様に依頼してくださったのは佐藤さんですね。


「ありがとうございます。身支度を整えてすぐに伺います」


こんな私の事まで佐藤さんは気にかけてくださる厳しくも優しい方です。

上司にも恵まれて、田中は素晴らしい職場で働けて幸せです。



   +++



「ふぅ…ごちそうさまでした」

「相変わらず良い食いっぷりだな、田中ちゃんは」

「ふふ、ありがとうございます。日野くんのスイーツは口の中がまるで日だまりのような幸せ〜な感じで溢れるのでそのおかげですね」


日野くんは私より年上ですが、敬語や丁寧語があまり好きでは無いそうで、呼び方も”くん”でと約束しています。

しかし話し方はなかなか直せないので(これでも一応フランクに喋っているつもりですけど)、時々日野くんは痒そうな表情をなさいます。


「おうおう。田中ちゃんらしい表現の仕方だな」

「日野くんは自分の作ったもの食べないんですか?」

「食べるけど、作った本人は美味い不味いは判断するけどこれと言った気持ちはわかないな」

「まぁ…もったいないです、損してますよ日野くん。こんなにおいしいのに…」


このふんわりしっとりで絶妙の甘さの幸せ感が作った本人にわからないなんて、神様もいじわるですわ。


「田中ちゃん、いつものメイド服は田中ちゃんが作ったんだろ?」

「はい、もちろんそうですよ?」

「田中ちゃんは自分の作ったの着て今みたいに表現するのか?」


私が制服を着た時は確か…

サイズ良し、丈良し、靴との相性良し。と確認を…しただけでしたわ。


「しませんでした。…日野くんのおっしゃること、今わかりました」

「だろ?__ところでその服装ってことは、今から出掛けるのかい?」


日野くんの言うところのその服装とは、いつものレースをふんだんに使用したメイド服ではなく、装飾の少ないシンプルなワンピース姿だということです。

私は頷いて答えます。


「ちょっといつもの素材店へ調達をしに行くのです」

「あぁ、セーのトコか」

「はい。あら、時間が。行って参りますね」

「田中ちゃん、セーに今度飲みに行こうって言っといてくれ」



   +++



「―――だ、そうです」

「そう。ホムの奴、今時伝言って…」


日野くんがセーと呼ぶその方は、レースと釦の専門店[長谷川素材]の三代目店長さんです。


お名前は、確か…長谷川 藍慈(はせがわ あいじ)さん。

キュートなお名前ですが、男性ですよ。

苗字のまん中を取った愛称とは、日野くんのセンスが光っていますね。


お二人は同級生で、中学の頃からのお友達だそうです。


長谷川さんがおっしゃるホムとは日野くんの名前・焔(ほむら)からの愛称です。



「二十一世紀なんだからメールしろって…ホムの奴…」


古風なデザインの眼鏡のつるの両端を左手で支えるように持ち上げ、ため息を一つフゥとこぼされました。


「そのようにお伝えしましょうか?」

「いや、いいよ。羽海(うみ)ちゃん、ホムの奴がいつも伝言させてごめんな」

「いえ、同僚と戦友の間くらいならいつでもお繋ぎしますよ」


ちなみに、私はお屋敷に勤める以前は専門学校生だったのですが、長谷川さんも年齢は違えどもそこで一緒に、課題と日々の創作をこなす戦友…つまりクラスメイトでした。


私田中の名は、羽海(うみ)と申します。


クラスに田中が三人居ましたので、区別する必要がございまして。

長谷川さんはその名残で私を名前で呼んでくださいます。


「ありがとう。羽海ちゃん、アンティークレースの新しいの見つけたんだ。ちょっと待ってて」


言うなり長谷川さんはカウンターの奥へ姿を隠されてしまいました。

アンティークレース収集は商売ではなく、長谷川さんのご趣味です。

もちろん私も興味がございます。

彼は身長がかなり高い(私の目測で、約百八十センチ)のですが、あの機敏な動きには感心してしまいます。


「お待たせ。ほら、これだよ」

「…!」


まぁ…!

美しくも繊細でいて、気品高く軽やかなレース。

かの時代によく合う実に華のある素敵な一品です。

できることなら、タイムトリップしてお作りになった職人さんとお話ししたい…。


ため息モノの作品ですわ。



「うんうん。この反応」

「あら?長谷川さん。私まだ声を発しておりませんよ?」

「くくっ、羽海ちゃんは表情で十分語ってるから」

「そうですか?」


自分ではわからないのですが、長谷川さんがおっしゃるのなら、きっと顔が弛んでいたのでしょうね。

少々恥ずかしいですが、大変勉強になるレースでしたわ。


「うん。大体伝わってきたよ」

「お恥ずかしい限りです」


自分の好きな物を見ると、顔が勝手に弛んでしまう癖は成人しても直りませんでした。


「恥ずかしいなんて思わなくていいよ。きっと羽海ちゃんなら俺と同じようにリアクションしてくれるだろうなって思って、君に一番に見せたんだから」


「まぁ、一番に?ありがとうございます」


長谷川さんは本当にお優しい方です。


「戦友だからね」

「まぁ…!ふふふっ。役得ですね」

「ところで羽海ちゃん、今日のご要望は?」


そうでした。

楽しく話し込んでしまいましたが私、用件がございました。


「胡桃釦をいくつかいただきたくて…あと、長谷川さん、この様な雰囲気のレース創っていただきたいのですが…」

「羽海ちゃん、また閃光視たの?」


私の差し出した紙をじっと見つめたまま、長谷川さんは思案してらっしゃる様です。


彼は私の創作の特徴をご存知で、それを閃光とお呼びになります。


チュールレースの創作は長谷川さんの最も得意とするもの。

それは、チュール(ネット地)に刺繍を施したレースです。

卒業製作時の作品は四季に分けた花ばなを色とりどりの刺繍を施したレースで見事に一枚の絵として表現されたのですが、なんと展示時にいらっしゃったお客さまのうち、十名程の方がその作品をかなりの額で売って欲しいと長谷川さんに交渉なさっていた程の力をお持ちです。


その作品は本当に素敵で、私は五分程固まっていたと後に長谷川さんが教えてくださいました。


「はい。今回は細部の細部まで目に焼き付いたので、どうしてもその様なレースが欲しいのですが…」

「羽海ちゃん、服のデザイン画持ってきてる?」

「はい。えっと…こちらです」


その画を見た長谷川さんは再び考えていらっしゃいます。

無茶は承知のお願いでしたが、やはり現実にすることは難しいのでしょうか。


私が見る光は、時々全てを叶える事が難しいものも多々あります。

その多くは細部の細部まで記憶してしまった場合です。


「このケープの襟元に使うの?」

「はい、その部分が今回のメインでして…」

「んー…。確かに“華”になる部分だよね」


これは冬のパーティーに向けての外套なのですが、会場の屋外でも桜様の美しさをより引き立てるべく、ぜひとも制作したいのです…。


「この部分は、雪の結晶をこんな感じで足してもいい?」

「わぁ!素敵です!では…」

「うん。他でもない羽海ちゃんのお願いだからね」

「ありがとうございます!!」


…はら?頭を勢い良く下げたら視界が真っ暗に…


「羽海ちゃん!?」



   +++




「___あぁ。伝言頼む」


はら?聞き覚えのある声が…

ここはどこでしょう?

茶色の天井ですからお屋敷ではなさそうですね…。


「…お前じゃないんだから大丈__羽海ちゃん!大丈夫?」


顔を覗き込まれて、ようやくお顔が見えました。

私いつの間にか眼鏡を外していたようです。

先程からの声は長谷川さんでしたか。


「長谷川さん、お電話よろしいのですか?」


左手に握られている携帯電話そっちのけて私の方を覗いておられるので少々気になります。


「あぁ、大丈夫だよ。ホムだから」

『おい、セー!田中ちゃん目覚めたのか?ってか優先順位はっきりさせすぎだろ!』


日野くんの叫びがこちらまで聞こえてきました。


「ん。目覚めた。じゃあな」


あまりにもブッツリと切っておいでで、いくらお友達だとはいえ、少々心配になってしまいます。


「羽海ちゃん、はいコレ飲んでね」


側に置いてあった蓋の付いたマグカップを私の手を取って渡してくださいました。

蓋を取るとふわっと温かなやさしい黄色の匂い。

ん〜。

この香りはコーンスープですね。


「ありがとうございます。ところでここは?」

「俺の家だよ。羽海ちゃん倒れてビックリしたけど、なんか眠ってるだけみたいだったから店裏のここに運んだんだ」

「そうでしたか…。すみませんプライベートスペースにお邪魔してしまって」


半分程が琉球畳でもう半分がフローリングと雰囲気を壊さないデザインのソファー。

ちゃぶ台とタンスが温かみを放っている、素敵な和風モダンなお部屋です。

思わずきょろきょろしてしまいます。


「いいよ。それより羽海ちゃん、また無茶してたんだって?」


…あらら。長谷川さんの目が光っておいでです。

どうやら日野くん経由で伝わってしまったみたいですね。


「はい…でも長谷川さんなら分かってくださいますよね?」

「う…確かに俺も羽海ちゃんを責められはしないけど、君ほど根つめたりはしないから」


あぁ、なんでしょう。

責められないと言われながらも満面の作り笑いでやんわりとぐっさり責められている気が。


「スープおいしいです」

「で、何時間動いて何時間眠ったの?」


うぅ…。話を変えさせてもらえません。


「ちょっと二十八時間ほどパパパッと制作しまして、ぐ〜っすり三時間ほどそれは深く眠りました」

「そう」


あら?誤魔化せ…


「羽海ちゃん、どんな前置詞置いても俺は誤魔化されないよ?」


…てませんだしたね。


「でも元気ですから」

「倒れたのに?」


痛い所をつきますね…。


「はい。長谷川さんにお願いを叶えていただけると分かったので、心の荷が軽くなりましたから帰ったらぐっすり眠れます」


この言い回しではどうでしょう?


「ははっ…もういいよわかった。僕が折れるから」

「ふふふっ、ありがとうございます」

「でも無理は程々にね、羽海ちゃん」


眼鏡をかけていただいたので、長谷川さんのお顔が先程よりもハッキリくっきり見えて、少々驚きました。

常時眼鏡の私とは違って、お店や作業時以外は眼鏡をかけない長谷川さん。

きれいなアーモンド形の目力が強いです。

長谷川さんは時々、桜様や楓様のものとは違うキラキラとした何かを放たれます。

その度に私の心臓は動きを早めます。


「はい」

「じゃ…」

「藍ー!!」


お店の方角とは別の、おそらく玄関から元気な声が聞こえてまいりました。

おや、足音が近づいている気が…?


「ちょっと藍、ボタン吹っ飛んだから何かくれ…ってあれ?誰?」

「人ん家勝手に上がってきたお前が俺からしたら”誰”って感じだがな。遥」


長谷川さんのお知り合いみたいですね。

ボーイッシュな姿をしていらっしゃいますが、なんとも可愛らしいお顔です。

美少女とはこの方の様な事をいうのですね。

お二人は名前で呼び合っていて…親しいのでしょう。


「いつもの事じゃん。で、この人誰?」


はっ!ぼーっとしていました。


「私、田中と申します」

「へー。不思議な言葉遣いだね。田中さんは何者?」

「珠洲家の服飾専門のメイドでございます」

「メイド?!」

「はい」

「すげー!藍!メイドが居るよメイド!!」


あら?

私珍獣でしょうか…?


「馬鹿。失礼だろうが。ほら、あいさつ!」

「奈良遥(なら はるか)です。大学二年生…藍の恋人デス☆」


恋人…

あら、どうしましょう。心臓が嫌な動きをしています…。

それから何でしょうか。

このざわざわした感じは…。



「コラ!遥!!羽海ちゃん違…」

「あ、お使い!」

「は?」

「お使いです。日野くんに頼まれていたんですけどすっかり忘れてしまっていました」

「羽海ちゃん?」

「お店が閉まってしまいますので今日は失礼します」

「あ、うん…じゃ」



どうしてでしょう。

気づいたら、まるで逃げるかの様に百メートル程走っていました。


それにお使いなんて嘘です。

口が勝手に言葉を紡いでしまいました。


私、変です。


長谷川さんの事を考えると苦しいです。


奈良さんと長谷川さんが恋人だという事実に押し潰されそうです。




……私、長谷川さんが好きなのでしょうか。




そう…かもしれません。


でも、失恋ですね。

自分の恋に気づいた途端、失恋だなんてなんて滑稽なのでしょうか。



   +++



「お、田中ちゃん。お帰り…ってなんだそれ?」


私の右手が掴んでいる物を指して日野くんは驚かれています。


「…お土産です。滑稽ついでに買ってきたので、皆さんと召し上がってください」

「滑稽?ってかスゲーいいメロンじゃないか!この季節に高かったろ?」

「嘘を自分が叶えられる範囲で本当にしたかっただけですから…」

「へぇー?坊っちゃん、田中ちゃんがメロンくれたから食うか?」


あ…。楓様いらしたんですね。


「うん、食べる~♪田中、今日ね街で服どこのブランドのモノですか?って尋ねられたよ~」


まぁ、そんな事が!

どんよりした気持ちが浮上します。


「冥利につきますわ♪きっと楓様の着こなしが素晴らしかったお陰ですわね。ありがとうございま…?」


…………………あら?

楓様が笑っていらっしゃるのに光が…


「楓様?」

「なあに~?」

「申し訳ございませんが、その辺をぐるぐると歩いて回って頂けますか?」


気のせいって事もありますよね。


「いいよ~。…こんな感じかな~?」

「はい」


……おかしいです。

こんなにも会話させて頂いていますのに、楓様が一度も光らなかった事なんて一度も…。


「結構です…ありがとうございました。失礼いたします」


おかしいです。

では、きらきらの詰まった写真集は?!

確か黄色の間にあったはずです。



「……日野~?」

「なんだい、坊っちゃん」

「田中どうしちゃったの~?」

「さぁ?…でも、何かあったみたいだな」




ありました!私の憧れの詰まったこの一冊。

これは、かの有名なファッションデザイナーの方の作品集なのです。

服飾の仕事で生きていこうと私が決断をした一冊でもあります。


ページをめくる度、きらきらが……

きらきらが……


きらきらが………………見えません。



「どうして……」



私、発光が見えなくなってしまったようです。

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