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整形美人2<3>

「真田?」

居間に入ってきた松平が、怪訝そうな声を上げる。

当たり前だ。このところ、松平と顔を合わせないようにしていたはずの俺が、何故か居間で呑んだくれているのだから、松平にしてみれば不審極まりないだろう。

「こんなに呑んで大丈夫なのか?」

心配そうに肩に触れようとした松平の手を、俺は反射的に叩き落していた。

高い音に呆然となったのは、手を叩かれた松平よりも俺だった。

「すまん。忘れてた」

忘れていたと云うのは、俺が言い渡した半径二メートルの件だろう。

俺はすっかり酔いの冷めた気分で、寝室へと引き上げた。

ごろりとベッドへと転がる。

悔し涙が溢れた。情け無いにも程がある。

認めたくなかった事実。俺は神楽くんが怖い。神楽くんだけじゃない、松平も怖い。

俺に対して、劣情を催す男たちの視線が嫌だ。

松平も神楽くんも、俺のような男そのものの躯に欲情する神経が解らない。

二人ともそういった性癖では無かった筈だ。


「真田」

松平のドア越しの声にさえ、ギクリと身を竦ませる。

「何だ?」

つっけんどんな声をあげ、涙を拭ったとき、ドアが開いた。

「お前、何があった?」

「な、何も無い。出て行けよ、俺にはお前と話すことなんか無いって云ってるだろう!」

今までならば、俺が拒絶を示すと、すぐに松平は引いてくれていた。だが、今日の松平は手を伸ばせば届きそうな位置にいて、俺は知らず後じさっていた。

「お前に無くても俺にはある」

抱き締められて、ぞくりと身体の芯が震える。

「もういい加減にしないか?」

松平が耳元で囁いた。

「誤魔化すのは無しだ。俺はお前が欲しい。もう俺たちは…」

「云うな!」

耳を塞ぎ、怒鳴りつける。その続きは聞きたくない。

「離せ! 俺に触るな!」

「誤魔化しは止めろ。お前だって判ってる筈だ。真田、もう俺たちは友達じゃない」

聞きたくなかった言葉に、俺は首を振る。

「俺を受け入れろ。そうすれば、俺は傍にいる」

「信じられるか!」

何を思ってそんなことを言い出すんだ。

「真田、判ってる。お前は俺たちが怖いんだ。神楽くんも俺も。当たり前だ、俺たちはお前にそれだけのことをした。云っただろう? 責任は取る」

「そんなことはしなくてもいい!」

見透かされていたことに、俺は激しく動揺した。足の震えも顔色も俺は隠し通していたと思っていたのに。

「離せ! 今なら間に合う。俺は…」

松平の意図を感じ取って、俺は手を外そうと試みた。

「本当に嫌なら殴れよ。お前なら簡単だろう?」

「離せって云ってるだろう! 俺が殴ったら、お前なんぞ吹っ飛ぶぞ!」

そして、松平はそのまま俺に背を向けるだろう。

俺が女房と別れたときも、松平はずっと傍にいてくれた。

高校のころから二人で共にいた。大学になって、それに松平のひっきりなしに変る女と、元女房が加わった。女たちは松平のストレートな言動に去るのも早い。俺の女房も去っていった。

「貴方の傲慢なところも好きだったわ。でも、友達なら我慢できたけど、旦那としては我慢できない」

出て行った女房から掛かってきた最後の電話の言葉が甦る。

俺が俺である限り変れない。

松平はそのとき、どうする?

「お前が好きだ」

ベッドに組み敷かれ、俺の肩に松平の頭が埋められた。松平の着けている柑橘系のフレグランスの匂いが鼻につく。

「や、めろ。頼む、止めてくれ。離せ、ッ」

「往生際が悪すぎだ。何が怖い? 俺か? じゃないだろう?」

松平が静かに俺を見下ろした。押さえ込まれたまま、俺は呆然と松平を見上げる。

「おま、え」

「伊達に十年以上お前の隣にいる訳じゃないぞ」

俺が松平を知っているように、松平は俺を知っていた。

だが、その良く知っている男は、知らない顔をして俺を見下ろす。男の貌で。

「俺の何処がいい? お前は男なんか好きじゃない筈だ」

「他の奴ならな。お前の骨格は前から気にいってたぞ。すばらしくバランスがいい」

俺の質問に、松平が返した答えは、実に松平らしいもので、俺は逆にホッとした。

ここまで来ても、松平の基準は変ってない。

「筋肉つけすぎだ。せっかくの骨格が台無しになってる」

鎖骨のあたりを撫で回す松平の目は、すっかりイッちまってる。いつも通りのフェティッシュぶりに、俺はすっかり我に帰って、遠慮なく松平を蹴り倒した。

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