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整形美人2<2>

「真田。今日は一人か?」

松平は授業中だ。ここのところ、俺は松平を避けるように昼食を取る事にしているが、毎回逃げられる訳では無い。

元々、俺たちは学生時代からセット扱いにされることが多かったが、松平がまとわり付くようになってからは、一層そう扱われることが多くなった。

「俺たちはセットじゃねーって。何回云わせるんだ?」

顔を上げた先にいたのは、大学時代から知り合いの経済学部の助教授の向坂だ。

「そうか? どう見ても殿が追い掛け回している風だが? いつの間に下克上を果たしたんだって話」

「何だ。それは」

まるで俺が松平を従えているかのような言い草は止めて欲しい。

「殿はいつの間にか、お気に入りの家臣をまるで姫君のように御祭りして、下にも置かない扱い。どうやったのか不思議に思っても仕方が無いと思うが」

「俺も聞きたいぜ」

吐いた台詞は俺の本音だ。正直、松平の中で一体何がどう変化したのか。俺自身が戸惑っている。

いつも共にいた友人が、アイツの中で変ったのは何時なのか。それとも、神楽くんの情熱に中てられただけか。

カツカレーにかぶりつきながら、向坂の好奇一杯の視線に耐える。

「真田! ここにいたのか」

授業の終わったらしい松平が、俺に駆け寄ってくるのを見て、俺はさっさと退散する事に決めた。

これ以上、向坂にネタを与えるつもりは無い。

急いで残ったカツカレーをかっ込んで、俺は走ってくる松平から逃げ出した。



半ば捕まることが判ってはいても、仕事に戻らない訳にはいかない。

自分の机に戻ると、既に隣り合った机には松平がいた。

「真田」

嬉しそうに笑う松平をきっぱりと無視して、俺は隣の机に付くと、資料を開く。ドイツの研究室が発表した今現在のデータを元にした、最も機能的なキッチンとやらの最新モデルだ。

元々、研究に情熱を注いでいた訳でもなく、単に就職活動をしたくなかっただけで研究室に残った俺は、あまり仕事には真面目では無かった自覚はある。

それがここのところ、資料にはしっかりと目を通し、学生たちの質問には時間を惜しまずに答えている。

全ては松平から逃げ出す為だが、意外な俺の変貌に何よりも俺自身が驚いていた。

何よりも俺は今までいくら教授が勧めても出す気の無かった、学位論文なんてものにまで手をつけている。

松平と違って、いつか教授になろうと云う意欲も無かったし、大所帯のここではそんな苦労して、今教授にならずとも、年功序列でいつか教授職には就けるというお気楽さもあった。そんな俺にとって、博士号はそんなに必要なものでも無かったのだ。


とにかく仕事に没頭していれば、隣の松平のことを頭から追い出すことが出来る。

痛いほどの視線も、明らかな執着を示す告白も俺には迷惑だ。

俺が松平に求めているのは、つねに隣を歩く友人としての奴だ。笑って肩を叩いて、酒に酔って俺の家の居間で眠り込んで、翌朝床の固さに文句を付けて。

神楽くんが来るまでそこにあった生活が、今は遠い事に俺は軽く落ち込んだ。


俺の落ち込みなど知らない松平は、俺の隣で仕事をしながらも、俺に視線を送ってくる。

その視線が俺をより追い詰めていることには気付かず。



仕事を終え、家路を辿る。

俺の拒絶が判ったのか、今日は松平は俺を追っては来なかった。

大学通りは一本道で、自然とそのコンビニの前を通る羽目になるのは仕方がない。

だが、俺が通り掛かるのを待ちかねていたらしいコンビニの店員は、今日もそこにいた。

「毎日、ご苦労なことだな」

「ええ、唯一顔を見れる時間ですからね。こんにちは。真田さん」

にっこりと人好きのする笑顔で答える男は、一時期の作り物めいた感じはすっかりと失せている。その代わりにその顔に浮かぶ表情は、獲物を前にした肉食獣のそれだ。

こんなゴツイ躯の何処かいいんだか。

俺に対してその欲望を示してきたはじめての男。

「今日は、松平さんは一緒じゃないんですね」

「別にいつも一緒な訳じゃないぜ?」

揶揄するような指摘に、俺はむっとして云い返したが、コイツが云いたいことは判っている。

「へぇ。貴方を放っておくこともあるんですね。そんなことしてもいいのかな」

俺に一歩づつ近づく神楽くんに、俺は逃げ出したい衝動を堪えた。

「震えているんですね。嬉しいですよ」

この変態野郎が。骨格フェチの松平を変態扱いしていたが、コイツの方が余程可笑しい。

「貴方と来たら、あんなことをした俺の前を通って、毎日通勤するんですからね」

少なからず、傷つきました。と云った神楽くんと俺の距離は数十センチだ。

「貴方の心に俺は少しでも残れた訳だ」

耳元で囁かれ、伸ばされた神楽くんの腕を、俺は思いっきり振り払っていた。

「諦めるんじゃなかったのか?」

それでも睨みつけることは忘れない。俺にだって、つまらないプライドはまだ残っている。

「そのつもりでした。でも…」

ちらりと神楽くんが店に視線を戻した。

そろそろ混み合う時刻だ。これ以上は不味いだろう。

「店に戻ります。首になったら貴方に会えませんから」

コンビニの扉が開いて、女の子たちが数人出てくる。

「ありがとうございました!」

頭を下げて店へ駆け戻る神楽くんの声と、甲高い声で笑う女の子たちの声が重なったとき、俺は現実へ戻った気がして、ほっと詰めていた息を吐いた。

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