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整形美人<15>

最近使わない家の前のコンビニの扉を神楽くんが開いた。

無言で棚の酒類を無造作にかごへ放り込む。

半分くらいが一杯になったところで、ちょっと立ち止まり、スナック菓子やから揚げや焼き鳥を入れた。

そのままレジへと向かう。

「自棄酒モードかよ」

俺は自分も右に倣って酒を買い込んだ。

しらふで酔っ払いの絡み酒の相手をするほど、馬鹿馬鹿しいことは無い。

松平は静かに帰っていく神楽くんの後を追った。


酒を山のように買い込んだ俺が、遅れて居間へ入ると、すでに酒の匂いが充満していた。

「遅いです!」

「悪い」

いきなり怒鳴りつけられ、俺は素直に謝った。酔っ払いには逆らわないに限る。

「飲んでください!」

日本酒のコップを差し出す神楽くんの目は完璧に座っていた。

俺は素直に注がれた酒を飲み干す。

その合間に、神楽くんもコップ酒を煽った。

良い呑みっぷりだ。

「何で判ったんですか?」

「ああ?」

「アイツが姉さんから金を貰っていること」

「知らねーよ。んなこと」

「は?」

俺の答えに、神楽くんは目を丸くしている。

「単なるあてずっぽうだ。大体、おかしいだろう。帰省シーズンでもないこんな時期に、偶然都会に勤めていた男に、皇姫が会えるか?」

「会えないでしょうね」

「わざわざ、皇姫が連絡を取ったとして、平日の夕方だぞ。その男はどれだけ都心に勤めてるんだ?」

いくら、友人が男に騙されているらしいと聞いても、普通の人間はほとんどが仕事中の筈だ。それに。

「仕事を早退もしくは休んできても、君に逢いたいと云うのなら、もっと必死さがあってもいい」

そういう状態なら、神楽くんのことを本当に無くしたくない親友だと思っているか、神楽くんに惚れてるかだ。あの男には、まったくそんな感じは無かった。

後は人間の動く理由なんて、簡単だ。

「腹が立つ人ですね」

「悪いな。酸いも苦いも噛み分けた汚い大人で」

松平がそっと下を向いた神楽くんの手を取る。

神楽くんはきっと泣いているに違いない。肩が震えていた。

俺はそれに気付かないフリで、酒を煽る。

「神楽くん、食わないんなら、貰うぞ」

焼き鳥に手を伸ばすと、その手を捕まれた。

「やっぱり、俺、貴方がいいです。貴方が誰を好きでもかまいません」

「気持ちだけ、貰っておく」

ニヤリと神楽くんが笑った。強かな男の顔だ。作り物めいた綺麗な顔より、そういう顔の方が好感は持てる。

笑い掛けようとして、顔を上げた瞬間、松平の悲しそうな視線とぶつかって、俺はやばいと我に帰った。

乱暴に神楽くんの手を払い、口に入れた焼き鳥は、味も判らない。

煽るように酒で流し込み、俺はひたすら酒を呑み続けた。



ベッドに倒れこんだのは覚えている。松平が支えてくれたのも。

「松平。早く、あの可愛い子ちゃん、モノにしちまえよ」

「ああ。そうだな」

判っている。これは多分に俺の逃げだ。

松平の好きな相手だからではなく、俺自身が好意を持ちはじめている。

もちろん、それはまだまだ、友情以前のものでしかないが、松平が諦めはじめているのが分かる。

松平が神楽くんを応援する立場になったとき、二人に押されて逃げ切れるかどうか。

非常に、分が悪そうな気がした。


誰かの息が身近にあるのに、俺は不穏な感じがして、目を覚ます。

酔っ払っている所為か、身体がろくに動かない。

重いまぶたを開くと、そこには神楽くんの顔があった。

「どういうつもりだ?」

押しのけようとして、果たせないのに気付く。

腕は後ろ手に縛られ、身体の上には神楽くんが乗っている。

「貴方が誰のことが好きでもかまわない。そう云ったでしょう?」

「だからって、力ずくってのは、どうかと思うぞ」

「貴方にもいい思いはさせてあげますよ」

「もっとグラマーな女なら、俺もこの状況下も楽しめたんだがな」

ニヤリと笑う神楽くんは、作り物めいた顔に、一気に生気が吹き込まれたようだ。

だが、好感が持てるからと云って、いきなりその気になる訳がない。

「貴方の好みは、松平さんから聞きました」

松平、お前口説く相手に、ライバルの情報与えてどうするんだ?

「じゃ、諦めてくれないか。俺も乱暴な真似はしたくない」

「この体勢だっていうのに、余裕ですね」

押さえ込まれてはいるが、腕が固定されているわけでも無ければ、足は自由だ。

反動を使って、腹の上の神楽くんを跳ね上げると、自由になった足で、思い切り蹴りを食らわせた。

神楽くんの身体がベッドの下へと転がる。

起き上がった俺の身体は、だが、後ろ手に縛られた腕が引かれ、倒された。

「な、にッ」

後ろから羽交い絞めにされ、身体を固定される。

この家にいるのは俺たち三人だけだ。後ろの男は当然…。

「松平さん、そのまま押さえておいてくださいね」

「松平?」

起き上がった神楽くんが、さらりとした前髪をかきあげた。

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