異力(イリョク)×勝負
「ドン!!」
流石だ、峰里先輩。柘榴は走りながら思った。一歩分、峰里先輩の方が速い。でもそう思った瞬間、何かがプツンと切れたように、自分のスピードが変わったのを感じた。
おいおい嘘だろ!?峰里は自分の目を疑った。後ろから迫ってきた足音に気づき振り向いたが、そこには柘榴の姿はなく、自分の歩幅の二倍は先にいた。
「そうはさせねぇぞ」峰里は呟き、更に加速した。しかし、柘榴には近づくどころか遠ざかる一方で、ちっとも差は縮まらない。まるで時の悪戯で…自分だけが止まっているようで…
「ゴール!!」その声で、自分がゴールを過ぎたことに気づいた。自分とゴールまでの距離なんて関係なかった。見ていたのは柘榴。それも自分をやすやすと抜き去った後輩。
「マジかよ…負けたのかよー!!」潔く負けを認めた。認めないようならば最初から誘わなければいい。どこかの先輩は、手加減を理由に、自分が負けたことを認めなかった。そんな奴になりたくない。認めなければ自分も前進するはずがない。ならばいっそ、自分の志に従いたい。
「すごいなあ。峰っち先輩に勝ったんやで!!」隼都が柘榴にタイムを知らせるために、目を爛々(らんらん)と光らせて近づいてきた。
「ああ…」
「柘榴?」もっと喜べよというように、隼都は眉をよせる。
峰里先輩に勝った。さっきの感覚を思い出す。あの切れた感じは?
人間の限界線っていうのがあるとしたら、その線が切れた感じ?つまり人間を超えたという…
もしかしたら、この力さえあれば部長にだって勝てるかもしれない。いや、全国大会進出だって夢じゃない…!!
でもどうして―?心の中に問いかけてみる。
どうして…嬉しくないんだろ―?
目を見開いたまま硬直している柘榴に、
「まーたまた~!嬉しすぎて言葉も出ないってかー?幸せな奴だな!!」と、隼都は背中にど突いてきた。
ドサッ…鈍い音が柘榴の背後で聞こえた。
「おい!!小東!!」いち早く気づいた峰里が隼都を揺さぶる。柘榴は動けなかった。すぐに気づいた。今、自分の手に触れたのだと。自分のせいで隼都は倒れたのだと。その姿を、茫然と見たまま、一歩も動けなかった。いや、本当は自分が化け物に見えて動けなかったのだ。
「柘榴!!先生呼んでくれ!!…柘榴!?」柘榴は、もう目を見開いてはいなかった。光が眩しいように、目を細めている。その瞬間、気を失って倒れた。