異力(イリョク)×犠牲
「いい加減…起っきろー」柘榴は目を開けた瞬間に我心の平手打ちにあった。
「痛ーな。もう起きてるっつの」
「あー悪い。ここは学校裏の…」
「んなの見りゃ分かるだろ。ってか、棒読みで悪いって言われても嬉しくねーよ」我心の平手打ちにあった頬をさすりながら呟く。どうやら学校裏にある神社の木の陰に寝かされていたらしい。
「夢…か」
「残念リアル」力の抜けかけた身体を勢いよく起こす。
「ちょっと待てよ!!」
「落ち着けって…まずは礼を言うところじゃないの?」
「それどころじゃ…隼都は?」我心は後ろを向き、数歩柘榴から遠ざかった。
「あの倒れてた奴か…死んだ」重い鈍器で頭を殴られたような気分だった。我心の力をコピーしたときとは別の、心臓を抉られるような痛みを感じた。
「なんてね」突然クルリと振り向き、柘榴の顔を見る。
「は!?」
「今頃病院かな」
「死んでない…のか?」耐えきれなくなったのか、我心が笑いながらひーひー言っている。よほど、柘榴の反応が面白かったらしい。
「気絶。自分の仲間なら、勝手に俺の話信じて殺すなって」
「…!!冗談なら冗談って早く言え!!」
「あー悪い悪い」我心は素知らぬ顔、その上棒読みで答えた。自分で言った冗談にさえも無関心のようだ。
「お前、絶対悪いって思ってねーだろ。それで?俺は何でここにいるわけ?」
「あんたの先輩、何で俺のことを知ってんの?突然、『お前我心だろ』って聞かれたから驚いたね」
「は?お前の名前くらい、ここらの陸上部だったら知らないヤツなんているはずないだろ。それで…まだ質問に答えてねーぜ。何で、我心がここにいるんだよ?」
「さあ?」
「さあって…」
そう言う柘榴に、突然我心は真面目な顔をした。
「そんなことより…桐生、これからどうするつもり?」
「は?」
「人に触れたらどうなるか、身をもって知っただろ?これが副作用。この異力の…」
「分かってる」我心の言葉を柘榴が遮る。
分かってるだと?笑わせるな。我心は心の中で呟いた。自分のせいで、周りの人間が不幸になるんだよ?そんな力を分かってるなんて一言で片付けてしまって良いはずがない。分かってるなんていう言葉は、そう軽々しく口にしてはならない。そんな言葉は油断しているがゆえに発せられる。だから足下をすくわれるんだよ。
「ふざけるなよ?今回、あんたの仲間が生きていたのは、俺のコピーってこともあるだろうけど、アイツの運が良かっただけ。生命力に長けているとかさ。いくらコピーだと言っても人に害を及ぼす力がないわけではない」
「だから…」
「あんたは分かっていない」いや、分かっていないんじゃない。分かってはいけないんだ。その言葉をお前が今度発した時、それは命を落ち葉のように無数にある朽ちたものだと感じた時。そうならないでほしい。だから俺はあんたを助けなくてはいけない気がする。決して口にはできないが。
「性に合わない」と小さく呟いた。
「何が?」
「…」我心は舌打ちをした。何で俺があんたのために悩まないといけないんだ。自分の疑問に苛立ちが増してくる。ちくしょう。心の中で憤ってみるが、ストレスは解消できない。
「あんたのような性格だったらね」
「いきなり何だ」柘榴は、驚いたように声のトーンを上げた。
自分でも、何を言っているのか…分からなかった。
「…何でもない。俺はもう帰るし。あんたはナントカって言う奴のところに見舞いでも行けばいい」
「隼都だよ!!それに言われなくたって行く」言い終わった頃には、我心は背を向け、角を曲がって見えなくなってしまっていた。
「…もっと感心もてよ」柘榴は、誰もいない道で、我心がいるだろう方向に呼びかけた。
我心が行ってしまった後、柘榴はその場に崩れ落ちた。
「何でだ…。何で関係ない隼都が不幸になるんだ…!!」髪を無造作に掴む。柘榴は、我心の言葉に焦りを感じていた。実際、どうすれば良いのかも分からなかった。ただ、その場しのぎで我心に嘘をついた。嘘は好きではない。後悔ばかりする。あの時、弱さを言葉にしてでも伝えるべきだったのか?その疑問が脳裏をよぎった。いや、そんなことしても無駄だろうな。何があっても我心は我心だ。きっと、自分のことにしか興味がないに決まっている。だからこそ相談なんてできない。
電柱に停まっている烏が嘲り笑うように飛んでいった。あんな風に我心も笑うかな。
「…もう、今まで通りの生活にはないだろうな」そう吐き捨てて、無理に笑顔を作ろうとする。思うように、上手くできなかった。
「オレって思ってたより…脆い」苦笑いを止め、唇の端を噛む。そして柘榴は固い決断をした。人に迷惑をかけるくらいなら、俺はあえてかわす。悪いふりをしたっていい。すれ違ったっていい。だから、
「隼都を助けて下さい」
神様に強く祈った。




