宇宙将軍
北極海。北緯80度にデザインの綺麗な基地がある。前線の地には軍事基地を作ろうとするツアーリの頭が理解できない。その三ツ矢型基地に居るのは対艦ミサイル部隊だ。北極海に船が通れるかと思えど最近は温暖化で開放水域が増え北極海ルートが検討されている。
「北緯80度って北極点まで何キロかなあ」
「知らないのか。簡単だよ。赤道から北極点まで1万キロ」
「じゃ90で割って10掛ければいいのかあ」
「9で割るだけで良いと思う」
「そうなの」
目を点にしてカガンはエリンを見た。最近へんよ、と呟いた。
その基地に空から火の玉が降って来て基地が破壊された。残骸を調べてㇿ国は驚いた。それは自国の軍事衛星だった。仮に軌道を外れたとしても燃え尽きるだろう。落下せず軌道にとどまったロケットの残骸も落ちたようだった。燃え尽きずに落ちたことは超常現象の様で理解の外だった。
「ㇿ国の北極海の基地が破壊されたんだって」
エリンが情報通を披露した。
「宇宙将軍かな」
「だね。ところでc国を色々攻撃したけど一番震えあがった事は何だと思う?」
「原潜行方不明じゃないかな」
「私はね、原潜を攻撃したじゃない。たぶんそれだと思う」
「放射能ってこと? それとも核の暴発?」
「両方あるから、そりゃ怖いよ、きっと」
数日後、c国の砂漠のミサイル基地に衛星の破片が雨のように降った。
「核ミサイルを持っていることが危険ってあるかなあ」
「専守防衛が基本的には目的だから安心の褥じゃないかな」
「だから暴発して放射能が降ってきたら住むところが無くなっちゃうんじゃない」
「まあ、広い国だからな」
「放射能雲ってそんなに飛ばないみたいだよね。何処かの国の原発事故をみると」
エリンが古い話を持ち出した。
「でもc国の東側に位置しているからあんまり考えたくないよ」
カガンが付き合う。
「ここまで来る前にc国のお偉方は住んでいるよ」
「核シェルターにね」
「電気を切っちゃえばいいのかあ」
「そんな工作員は居ないよ。基本僕らだけだよ」
「でもとり合えず一発位ならやってみることは可能だと思う。だって昔は大気圏核実験をやっていたんでしょ。そこで」
数日後、c国西部の砂漠地帯にキノコ雲が湧いた。宇宙からバンカーバスターを振らせた人がいたみたい。それも垂直落下だって。怖すぎる。
「後は政治だな。c国の大部分を破壊したら交渉できるかな」
数日後、ァ国の空中核配備用の爆撃機が破壊された。
ザエギ宰相は急ぐべきだと考えている。子供たちの活躍だけでは画竜点睛を欠く。貴族院のヤンリ議長を宰相執務室に招いた。
「貴族制度も貴族院も現在の世情に相応しくない。解体して新たな立法府を作りたい」
単刀直入な言に、
「それは簡単ではない。法的に手続きすべきでその道は無い」
怒りの眼で睨み返した。貴族が自らを否定する法を作るわけがない。
「貴族院は、君主立憲制導入時所領を接収した対価として、金銭を支払う便法として存在しているに過ぎない」
「国王と貴族は千年の間柄だ。歴史は軽くない。その基礎の元に国がある」
貴族は常に歴史とともにある。喘ぎ宰相は単に既得権を甘受するために立法府が利用されているのは首肯される話ではない、と考える。
「元老院を復活させてあなた方を招きたい。所領だった地の長の役職も準備する」
所領を返すというのか。ヤンリ貴族は刮目して宰相を見た。
「自治制度を作る。自治の長があなた方だ」
甘い話に乗るべきではないとも考える。ズル賢い賢しい頭が警告する。
「自治の中で、立法・行政・司法を司る。悪い話ではないと思うが」
「どのみち国の枷がある」
ヤンリ貴族は冷静に値踏みする。
「それは国王とある今と変わらないではないか」
上手い話のようだが早急の結論は身を亡ぼす、貴族は冷静だ。
「自治の長となればあなた方の家の名声は復活する。弥増すだろう」
だがヤンリ議長の頭はクラクラした。それは一族の望みだ。再度地域を支配し尊敬を集める。
しかしとんでもない歴史の巻き戻しだ。だがザエギ宰相にとって自治体の運営なんてどうでも良い話だ。元勲だった祖先を参考にしたのでもない。